第550話(7-33)パダル北部の戦い
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細身青年クロードと彼を乗せた全長二mの銀犬ガルムは、探し求めていたアリス・ヤツフサとイザボー・カルネウスの部隊を遂に発見した。そして……。
「〝
「バウワウ!(ぶちのめす)」
クロードの三白眼とガルムの赤い瞳は、金色の虎耳を生やした少女の服が毒で崩れて、日に焼けた健康的な素肌があらわになっていることを見逃さなかった。
「「絶対に許さん!」」
クロードとガルムはパダルの街を蝕む毒罠を焼き尽くしながら、アリス達を目指してまっすぐに駆ける。
「ば、馬鹿な。〝茸〟と〝蛇〟〝イモリ〟の三人が瞬殺だと?」
「我らの罠を、まるで無いも同然に!?」
一方、クロードとガルムの強襲に泡を食ったのが、街の北部で罠を張っていた〝
カミル達がヴァリン領の境界でオボログルマを破壊したことで、クロード一行の移動手段を奪ったと誤認していたからだ。
「だがよく見ろ。一人欠けて、青髪の侍女がいないぞっ」
「契約神器がない盟約者なんて恐れるに足りない」
毒尸鬼隊はレアの不在に勝機を見出したのか、
「悪徳貴族め、我々の毒矢は百発百中だ」
「バウ(おそい)」
ガルムは建物や道路を蹴り、ツバメもかくやという三次元機動で走りぬけた。
弓手達は矢を乱れ撃つも、高速移動する彼女の影すら踏むこと叶わなかった。
「さすがはガルムちゃんだ。僕も負けちゃいられない」
クロードは外れた矢の軌道から、複数の毒弓班が隠れた木陰や裏道を把握し、右手に握った打刀〝
「お返しの雷矢と火球だ。遠慮せずにもっていけ。それ、いち、に、さんっ」
「ぎゃばあっ」
「ほげええっ」
「あんだばっ」
クロードとガルムは息をあわせ、北の防衛部隊を矢継ぎ早に撃破し、瞬く間に三割を仕留めて見せる。
「点で駄目なら、面で攻撃するまでよ。我らの毒ガスで死ぬといい!」
劣勢と見た毒尸鬼隊の一部は、弓を捨ててマスクをかぶり、魔法陣から毒ガスを召喚するという暴挙に切り替えた。
「そんなものを撒くんじゃない!」
「ワウ(ぬるい)」
とはいえ、いかに魔法の力でも、広大な屋外を毒ガスで埋め尽くすには時間がかかる。
わざわざ待ってやる理由はなく、クロードは付近の壁や塀を斬って木や石のブロックを作り、ガルムが次々と蹴飛ばして班員達を押しつぶした。
「燃え尽きろ!」
「バウ!(なにしやがる)」
「「こ、こんなあああっ」」
クロードの振るう二刀から雷と炎がほとばしり、外道は外道に相応しい末路を辿った。残るは――五割。
いくつかの班は、戦力が半壊したことで覚悟を決めたか、無謀にも突撃を開始した。
「射撃戦でダメなら、接近戦で仕留めるまでのこと。我らは何度でも生き返るっ」
「生命を、どこまで安く見てるんだっ」
「アオン(ふみこみがあまい)」
クロードは昨日、邪竜ファヴニルを一騎討ちで退けている。
そんな彼を、長年オズバルトの相棒を務めたガルムが支えているのだ。
二刀と爪が変幻自在の軌跡を描き、迫り来る毒剣や毒槍をバラバラに断ち切って、毒尸鬼隊をあるべき場所に還した。
「ええい、悪徳貴族があ」
「切り札をみせてやるよ」
「凍りついて死んじまえ」
クロード達の猛攻は続き、北に配置された毒尸鬼隊の兵士達の七割を壊滅させるも、戦いは続く。
残存兵が南側の部隊と合流するのではなく、あくまで戦闘にこだわったのは、たとえ死んでも蘇るという慢心故か? あるいは隠し持った切り札に勝機を見出したか?
「「
かくして毒尸鬼隊の面々は、ファヴニルから授かった毒杯を飲み干し、人間としての大切な何かをゴミ箱へ投げ捨てた。
ある者は粘菌に包まれ、ある者は肉体の一部が虫や爬虫類に変わり、ある者は濡れた鱗や甲殻に覆われ、それぞれの肉体を異形へと変貌させる。
共通しているのは一箇所。背を割るように出現した、
「「「我らが毒の前に敵はない」」」
傲慢とも言える隊員達の宣言に対し、クロードは素直に頷いた。
「ああ、そうだな。
クロードは世辞抜きで賞賛した。
毒尸鬼隊は、ヴァリン領軍を壊滅させて、中継都市パダルの住民を皆殺しにした。
その知識と手腕が、脅威でなくて何だというのか。
たとえ最初の三割であっても――北方面を守る部隊が健在であれば、民間人を連れたアリスとイザボー隊の脱出は極めて困難だろう。
「でも、お前達は〝ニーズヘッグの専門家じゃあない〟」
「「「え?」」」
クロードとガルムは、だからこそ速攻し、だからこそ誘導したのだ。
「地獄から這い出た悪鬼は、地獄へ帰るといい。鋳造――
クロードが新たに創りだした第三の愛刀が、
「アオーン!」
更にガルムの爪牙が閃いて、仲間を盾に逃亡を図った一部の隊員達を容赦なく仕留める。
「「ば、ばかなああああ」」
兵士達の断末魔が、中継都市パダル北部の解放を告げた。
「アリス、イザボーさん、退路は確保した。こっちに来てくれ!」
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