第333話(4-61)始まりの因縁、選ばれた二人

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「やったぞ、大勝利だ!」


 緒戦の完勝に、大同盟艦隊の兵士達は歓喜に包まれた。

 それは、旗艦である龍王丸の艦橋も例外ではない。

 セイは司令席を飛び出して、要人席に座る辺境伯と侍女、執事に抱きついた。

 

「棟梁殿、見事な采配だったぞ。飛行自転車隊は凄いな。まるで自由自在に天を駆ける大砲じゃないか!」


 セイの賞賛は、航空機動部隊の要点を的確に捉えていた。

 どんなに大きな破壊力があっても、どんなに長い射程があっても、大砲は船に固定される。

 しかし、艦載機は船から飛びたつことが出来るのだ。敵の射程外から攻撃するアウトレンジ戦法の極致といっても過言では無い。


「ソフィとレアが作ってくれたお陰だな。よくこれだけのものを……」

「ううん、ロビン君達が凄いんだよ。アマンダさんから聞いたけど、ずっと厳しい訓練を続けていたんだって」

「領主さま、私とソフィは確かに試作機を作りました。ですが飛行自転車の量産が叶ったのは、ヴォルノー島が一丸となったからです。貴方が私たちをここまで導いてくれた」

「やっぱり僕じゃないよ。ここに集まった、支えてくれた、皆の力なんだ」


 飛行自転車は、ソフィが原型機を作り、レアが改造を施して試作機を完成させて、ヴァリン領、ソーン領、ルクレ領、ナンド領全域の技術や部品を持ち寄って量産された。

 それは、ヴォルノー島の友情の証であり、戦禍に苦しんだ人々と大地が再起したという象徴でもあった。


(といっても、相変わらず空戦可能時間は三〇コーツと長くないし、契約神器を相手にするのは怖いな。もしも第四位級や第五位級を揃えられたら全滅したかもしれない)


 第六位級契約神器の砲撃は、見る者の肝を冷やした。

 足下で丸くなっているテルなどは、飛行自転車のことをよく知らないせいか、カワウソのふりをやめて「危ない!」と声をあげたくらいだ。


(まあ、動員なんてさせないんだけどね)


 お互いに使用できる契約神器の数が限られているのは同じだが、緋色革命軍は守る箇所が多すぎる。

 メーレンブルク領、グェンロック領、ユーツ領、そしてここユングヴィ領と、四方面で交戦中なのだ。どんな選択、どんなやり方で割り振っても必ず無理が出る。

 クロード達がこれまで進めてきた、電撃戦によるユーツ領解放も、ネオジェネシスとの停戦も、全てはこの会戦のためだった。

 ヴォルノー島大同盟艦隊は進軍を続ける。マラヤ半島の南端を過ぎて、ついにユングヴィ領が見えた。

 龍王丸のオペレーターが叫ぶ。


「偵察の飛行自転車と、魔術探査班より連絡。緋色革命軍艦隊を発見。ユングヴィ領沖、巡洋艦、駆逐艦、武装商船合わせて一五〇隻、単横陣で待ち構えています」


 緒戦で沈めた駆逐艦と武装商船はやはり偵察だったのだろう。

 緋色革命軍は、万全の態勢で待ち構えていた。


「単横陣ですと?」


 艦長であるロロン提督が、不思議そうに唸った。

 単横陣とは、全艦が船首を前に向けて横一列に並ぶ陣形だ。

 全艦が前を向き、被弾面積が小さくなることから、ボルガ湾会戦ではレーべンヒェルム領軍もこの陣形をとった。

 とはいえ、長所ばかりではない。船はいうまでもなく縦長だ。攻撃に前部の大砲や大型魔杖しか使えなくなるため、横向きに砲火を浴びせる単縦陣と比較して火力に劣るのだ。

 だからこそ、セイとロロン提督は、ボルガ湾会戦で最初に無人艦を突撃させて爆破するという奇策を用い、砲撃戦ではなく敵船奪取アボルダージュ作戦という隠し球で海戦に決着をつけた。

 緋色革命軍の海軍を率いるヨハンネス・カルネウス提督は、かつて海賊だった頃のロロンを撃破するなど数々の武勲をあげ、グェンロック方伯領沖海戦でも大同盟軍を破った強者だ。あえて単横陣を選んだのにも、理由があるに違いない。


「辺境伯様、ヨハンネスは衝角戦闘でこちらの横腹を貫く心積もりやも知れません。これは面白い戦になりそうだ」

「……ロロン提督、違うみたいだ。――〝釣れた〟。甲板に出るよ、後の指揮をお願いする」

「御身の武運を祈っております」


 敵艦隊の中央、旗艦である巡洋艦の中央甲板に一人の男が立っていた。

 彼は親衛隊の灰色軍服の上にマントを身につけ、赤い宝石のついた首飾りをさげて、全身に浴びるほどの貴金属を身につけていた。

 加えて魔法で艦隊上空に自身の姿を映している。あまりに芝居がかかっているというか、頭が痛くなるほどわざとらしい。


(あいつ、まるで本物のクローディアス・レーベンヒェルムだな)


 クロードは、甲板に出た。潮風の匂いを感じる。

 そういえばファヴニルと契約を交わした場所も、海に近い浜辺だった。


「出てきたか。邪悪なる悪徳貴族クローディアス・レーベンヒェルムよ。絶対正義たる緋色革命軍の名の下に、この"一の同志"が貴様を討つ」

「ダヴィッド・リードホルム。思い返せば、僕の戦いは、お前から始まった。決着をつけよう!」

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