第629話(M-3)始まりの志

629


「あ、あほかアアっ!」


 クロードの記憶を継承した、三白眼の細身青年カムロは、作務衣さむえを着た少女オウモを怒鳴りつけた。


「一千年間、カミサマに守ってもらった挙句、新たな外敵が現れたら、もっと強い昔のカミサマに頼ります? 寝言を言ってるんじゃないぞ!」

「し、しかしだな」


 反論しようとするオウモにかぶせるように、カムロは怒りの言葉を重ねた。


「しかしも案山子かかしもあるか。自分達の生きるか死ぬかの運命を、他人に丸投げするのか? それとも自分達の手を汚さず外敵を排除して、平和だけを楽しみたいってか。そんな都合の良い話がまかり通るわけないだろう!」


 カムロは、自らが受け継いだ記憶、よわっちい少年の物語を思い出す。


 小鳥遊たかなし蔵人くろうどとボス子は、――戦友だった。

 ボス子が自らの世界からドゥーエやムラマサをマラヤディヴァ国に送ったことで、クロードはファヴニルに勝利し、蔵人はその後、世界の壁を越えて彼女を救出にかけつけてドラゴンを葬った。


 そして、クロードとレーベンヒェルム辺境伯領については、――言うまでもないだろう。

 最初は未熟だった両者は、幾度もぶつかりながら力を合わせて、二人三脚で竜殺しへと至ったのだ。

 

「か、カムロ。吾輩達だって……」

「知らん。僕は神仏でもなければ、クロードでもない。ドラゴンと戦う理由も、お前達のような卑怯者を助ける義理もない。自分達のケツは自分でふけ」


 カムロはそう言い放つと、かまどの前で火かき棒を手に立ち尽くすオウモを見捨てて、ボロ屋を出た。

 すると戸口には黒と赤のまだら色に染まった、ムカデともミミズともつかぬ新たな竜が寝そべっていた。


「GYAHAHA。貴様の言うとおりだ。この世界の住人は、愚かなのだよ」


 カムロは咄嗟とっさに防御を固めるも、ムカデミミズ竜に〝赤い霧〟と〝黒い雪〟を吹き付けられた。


「貴様の肉体も我が同胞だろう。我らが道具として、有効利用してやろう」

「く、くそ、頭がかき回されるっ」


 どうやら強制的に洗脳する魔術の一種らしい。

 カムロは、降って湧いた頭痛に思わず膝をつく。


「か、カムロ。今、たすけるぞ。えい、とりゃ」


 そんなカムロを見ていられなかったのか、オウモが火かき棒を手に竜へ殴りかかった。

 ニーズヘッグの青年は、眼前の滑稽こっけいとも言える光景を見て、口角をあげた。

 彼が継承した記憶にあるクロードも、そうやって戦いを始めたのだ。


「おい、ミミズ野郎。この記憶は僕のものじゃない。だけど、この物語は、僕にとって大事なものらしい。洗脳なんて泥をぶっかけられちゃあ困るんだよ。オウモ、利害が一致した以上、手を貸してやる。その火かき棒を寄越せ!」

「お、おう?」


 カムロは火かき棒を手にして、大上段に掲げた。


「ふん、肉体は竜でもヒトガタではなあ。いいことを教えてやろう。この世界にはもはやまともな武器も軍隊も存在しない」

「なら僕も教えてやろう。スサノオノミコトと呼ばれた男が、最初に手にした武器を知っているか? 火かき棒だよ!」

「ハ?」


 カムロは火かき棒を一閃させて、自らに迫るムカデの針を数百本まとめてへし折った。


「ば、バカナAAAAA!?」


――――――――――――――――――

 拙作をお読みいただきありがとうございました。


 本章は、七つの鍵の物語【悪徳貴族】が終わった後


新作 『カクリヨの鬼退治』

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 との空白を埋める、〝もしも〟の異聞です。

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