第88話 (番外編2) ※七鍵キャラクターが演じるシグルズ伝説『栄光篇』

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劇中劇 ◆第三幕◇


○炎と楯に包まれた館


おでん /ニーダル「というわけで再開します茶番劇。七鍵キャラで演じる北欧神話のシグルズ伝説第二回。前回は、軍神オーディンの命に逆らってヴォルスング王家に与した戦乙女ワルキューレブリュンヒルデが人間に堕とされて、『恐れをしらぬ勇者ならば、誰であっても結婚する』という理不尽な誓いを立てさせられた第一幕と、ヴォルスング王家の末裔まつえいであるシグルズが悪竜ファヴニルと彼の弟レギンを討って、黄金を生み出す呪われた指輪アンドヴァラナウトを得た第二幕を演じて、今回はその続きからだ」


シグルズ/クロード「うわあ、前篇を強引にまとめましたね」


おでん /ニーダル「まいていかないと本編に戻れないからな。じゃあ、始めよう。シグルズ、らないか?」


シグルズ/クロード「はあっ!?」


おでん /ニーダル「おいおい、知らないとは言わせないぜ。歌劇ニーベルゲンの指輪じゃ、ブリュンヒルデが眠る館へ続く道ゆきで、ジークフリートシグルズvs.ヴォーダンオーディンという見せ場があるだろうが?」


シグルズ/クロード「ワーグナー版ですかっ」


おでん /ニーダル「かつて神々の王は運命を司る槍で、人間に与えた祝福の剣を叩き折った。ねがい意志いのりを受け継いだお前、やられっぱなしでいいのかよ?」


シグルズ/クロード「いいわけがないっ」


 シグルズは手に二本の木剣グラムを握りしめ、オーディンもまた静かに長棒ガングニールを構えた。

 突き、払い、打つ。オーディンが振るう縦横無尽じゅうおうむじんの攻撃をかわして、シグルズは懐に飛び込み、木剣つるぎ長棒やりを打ち上げた。


おでん /ニーダル「お見事。次は、演劇抜きでやろうぜ」


シグルズ/クロード「ごめんですよ。僕は部長あなたと戦うために、鍛えてきたわけじゃない」


観客  /ロジオン「ニーダルのやつ、なにを気取ってるんだか。クロードは、全ての技を潜り抜けたんだ。優秀じゃないか」


観客 /ファヴニル「どうだろうね? ニーダル・ゲレーゲンハイトは槍も使えるけど、素手になってからが本番だよ。ボクも痛い目を見たからわかる。でも、強くなったね、クローディアス――」


観客  /☆ボス子「わくわく♪」


 オーディンを退けたシグルズは、燃え盛る炎と楯の垣を飛び越えて館に入り、鎧を身につけたまま眠るブリュンヒルデの兜を外した。


シグルズ/クロード「なんて美しいのだろう。手が震える。ああ、そうか、これが恋か」


ブリュン/  レア「ようやく逢えました。愛しきひと、私のあるじさま」


シグルズ/クロード「ねえ、君、僕は今、君の愛を得られないんじゃないかって、生まれて初めてビクビクしてる。どうして逢ったばかりの僕に優しくしてくれるんだい?」


ブリュン/  レア「ずっとずっと待っていたんです。貴方が生まれる前から、貴方に逢うために、私は人間としてここにいたのです」


 シグルズとブリュンヒルデは、抱擁を交わした。


おでん /ニーダル「かくしてシグルズとブリュンヒルデは結ばれて、逢瀬おうせを重ねた。二人の間に生まれたのが、マニアックな知名度がある琴入姫こと、アスラウグだ」


アスラウ/ イスカ「アリスちゃん、この竪琴大きいよっ。中で遊ぼう♪」


小鳥  / アリス「遊ぶたぬー♪」


シグルズ/クロード「ブリュンヒルデ。僕はもう旅立たなければいけません。故国で王となったら、必ず貴方とアスラウグを迎えに来ます」


ブリュン/  レア「私のあるじさま。いけません。貴方の前に、恐ろしい陰謀が待ち受けています。どうかこの地に留まってください」


シグルズ/クロード「僕は臆病者には生まれついてはいません。生きている限り、貴方の愛を得たいのだから。どうかこの指輪を受け取ってください、僕の最愛のひと」


ブリュン/  レア「行ってはだめ。私は、私は――」


○ギューキ王の宮廷


おでん /ニーダル「シグルズは故国奪還のための旅中で、兵を借りようとギューキ王の宮廷を訪れた。宮廷には、当主であるグンナルと、彼の異母弟ヘグニ、グドホルム、そして麗しい末妹のグズルーンが住んでいた」


グンナル/  セイ「ようこそ、名高い英雄シズルズ殿を迎えることができて光栄だ。実家のようにくつろいでくれ」


シグルズ/クロード「セイ!? グンナルって男だろう。なんでセイが演じてるのさ」


グンナル/  セイ「脚本によれば随分な憎まれ役じゃないか。もしも演じたら裏切りのフラグだって誤解されるって、誰もやりたがらなかったんだ。その点、私なら棟梁殿を裏切る心配はないだろう?」


シグルズ/クロード「演劇なのに、皆、気にしすぎだよ」


グンナル/  セイ「それはそれとして、駆けつけに一杯どうだ? ヘグニが入れてくれた蜂蜜入りの薬草茶だ」


シグルズ/クロード「ああ、良い香りだ。御馳走になるよ」


グンナル/  セイ「ところでシグルズ、後学の為に聞きたいんだが……、ファヴニルは黄金を生み出す指輪、というものを持っていなかったかい?」


シグルズ/クロード「魔法の指輪なら、妻のブリュンヒルデに贈ったよ。あれ、変だな、急に眠く……」


グンナル/  セイ「おやすみ、シグルズ。目覚めたときは、新しい恋人が待っているよ。我が弟にして参謀のヘグニ、シグルズが首尾よく罠にかかったぞ」


ヘグニ /アンセル「御運が開けましたね。……って、ヘグニ役も大概じゃないですか! ただでさえ本編で怪しまれそうな立ち位置なのに……」


グンナル/  セイ「心配するな。誰だろうと棟梁殿を裏切ったならば、私がこの身命を投げ打っても、必ず殺してやる」


ヘグニ /アンセル「……」


グトホル/ヨアヒム「はいはい、演劇に戻りますよ。ギューキ王であるグンナル陛下は、更なる領土の拡大と財宝、美しい妻を欲していた。で、財宝が貯めこまれているという噂のブリュンヒルデの館に入ろうと試みたものの、炎を飛び越えることができなかったんですよね?」


グンナル/  セイ「それで、シグルズに代役をやらせようと考えたわけだ。うん、ありていに言って、このグンナルという男は最低だ。が、家の為に手段を選ばないやり口は……共感はできなくとも、理解はできる。グズルーン、客が倒れたぞ、介抱してやってくれ」


グズルーン/ソフィ「わたし、やっぱり……」


グンナル/  セイ「うじうじするなら、私やアリス殿と代われ。せっかくのヒロイン役だぞ。レア殿のようにはっちゃけるんだ!」


(控え中)/ レア「はっちゃけてません」


観客  /ロジオン(はっちゃけてたよ)


観客 /ファヴニル(はっちゃけてたね)


観客  /☆ボス子(恥ずかしいのかな?)


グズルーン/ソフィ「お客様、大丈夫ですか?」


シグルズ/クロード「すまない。きっと旅の疲れが出たんだ。なにか大切なことを忘れているような……」


グンナル/  セイ「おいおい、しっかりしてくれよ。我が義弟おとうと。シグルズ、キミは今からグズルーンと結婚するために、ひと働きしてくれるのだろう?」


シグルズ/クロード「僕はグンナル王に兵を借りに来て――」


グンナル/  セイ「身内でなければ、大切な兵は貸せないよ。大丈夫、グズルーンはシグルズに一目惚れしているし、キミだって彼女のことを愛しているんだから」


シグルズ/クロード「そうだ。僕にはかけがえのない想い人が、グズルーンがいたんだ」


おでん /ニーダル「かくして陥穽かんせいに嵌められたシグルズは、魔法の薬によってブリュンヒルデのことを忘れ、グズルーンを愛してしまう。恐れを知らなかった英雄に、破滅の音が忍び寄る。次回、劇中劇 ◆第四幕◇ を乞うご期待!」


――


シグルズ/クロード「ドクター・ビーストの焼き鏝がインチキ過ぎるだろう。と思っていたら、原典神話の魔法薬はもっとチートだったよ! どう先を想像しても悪い予感が拭えない」


おでん /ニーダル「たぶん当たるぞ。神話の結末は変えられない。変えられるのは、クロード、お前の物語だけだ」


シグルズ/クロード「部長、劇中劇は本編と関係ないって、最初に言ってたけれど、嘘でしょう? 劇中劇の配役も、何か意味があってやってるんじゃないですか?」


おでん /ニーダル「さあねえ。最後まで演じきって、その上で決めればいい。なあ、クロード。もしも結末が決まっていたら、生きることは無意味だと思うか?」


シグルズ/クロード「部長……」


おでん /ニーダル「すべては神々の黄昏ラグナロクに沈む。誰も救えず、救われない。なにもかもが無駄なことだと知ったら、お前はどうする? ――今とは言わない。けれど、クロード、俺たちはいつか必ずこの問いかけに向き合う日がやってくる」

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