第415話(5ー53)ギブネ山脈の戦い
415
復興暦一一一二年/共和国暦一〇〇六年 芽吹の月(一月)一〇日。
オットー・アルテアンが指揮する大同盟軍一万余と、デルタ率いるネオジェネシス北軍二万は、メーレンブルク領とグェンロック領にまたがる山岳地帯、ギブネ山脈で激突した。
オットーは開戦直前、早朝の澄んだ青空の下で、神官騎士としての正装をまとって兵士達の前へ姿を現した。
彼は、愛用の無骨な槌、第六位級契約神器ルーンメイスを掲げて、大同盟の兵士達を鼓舞する。
「さあ、みんな気負うことなく戦おう。我々には、人間を見守ってくれる神々と、可愛い守護虎アリス様がついている。共に生きのびて乾杯しようじゃないか」
「たぬたぬっ。〝いのちだいじに〟たぬっ」
「「うおおおっ。神々よ御照覧あれ、アリス様万歳! ビールとウィスキーに祝福をっ!」
アリスを筆頭に、各領の精鋭が集まった大同盟軍の士気は高く、力強い鬨の声が山々に木霊する。
一方、ネオジェネシスの指揮官デルタは、表層意識を共有できる種族特性から、後方に築いた高台で自軍を
「これまでの僕たちと思わないで欲しい。姫将軍セイはここにいないんだ。たとえ守護虎が相手だろうと、必ず勝ってみせる。ベータ兄さんの為にも……」
デルタは精神感応を利用し、参謀として兵士達に細やかな指示を伝えた。
ネオジェネシスは、ギブネ山脈の戦いにおいては、従来のようにただ力任せに突撃することはなかった。
人間離れした身体能力を生かした奇襲や、変身能力を応用した待ち伏せなど、さまざまな奇策で大同盟を翻弄しようとしたのである。
しかし。
「たぬう、たぬはとっても鼻が効くたぬ。かくれんぼは得意たぬ。たぬう、らぶりぃハリケーン!」
アリスは、地下を掘り進んできた軍勢をあっさり見破ると、力こそパワーとばかりに嵐をまとったアッパーで、ウジに変化した兵士達をまとめて吹き飛ばした。
「ネオジェネシスも戦闘に慣れてきたみたいだけど、生憎と見え見えだ。ぼくを騙したければ、お前達が殺めたアンドルー・チョーカーでも連れてくるといい。奴なら常に予想の斜め上をいく」
オットー・アルテアンは、かつて神官騎士として多くの
彼は、谷間で待ち伏せる敵部隊に丸太の雨を降らせ、山裾で落とし穴を掘る敵工作部隊を逆に突き落とした。
更に、戦況を揺るがす策略を実行する。
「ネオジェネシスの記憶共有は脅威だけれど、怪物の中にも同じように
オットーは、あえてネオジェネシスの手に渡るよう偽の命令書をばら撒き、偽装作戦部隊をあちらこちらに派遣した。
精神感応故に、あらゆる情報の集まるデルタはたまったものではない。
当然ながら、一人きりで真贋を見抜けるはずもなく、月の半ばには、ネオジェネシス北軍は大混乱に陥っていた。
「たぬぬう。今がチャンスたぬっ」
「おおおおっ。我らが守護虎様に続けえ」
アリスを先頭にした大同盟軍は、パニックに陥ったウジの軍団に突撃、さんざんに撃ち破った。
アリスは、健康的な手足を伸ばして踊るように敵を地に叩きつけ、風の魔法で吹き飛ばしと、まさに一騎当千の活躍を見せた。
しかし、ネオジェネシス北軍が総崩れとなったまさにその瞬間、「モモモ!」と鳴く、巨大なぬいぐるみが立ちはだかった。
「術式――〝
「たぬっ。チャーリーちゃん、待ってたぬ。今度こそ負けないたぬよっ」
ネオジェネシス幹部のひとり、チャーリーが領都ユテスから援軍を率いて駆けつけたのだ。
彼女が連れてきた、指揮能力に長けた隊長級の個体が加わったことで、ネオジェネシス軍はギリギリのところで崩壊を免れた。
ついでに、ギブネ山脈は銃弾や魔法に加えて、ファンシーでキモ可愛いヌイグルミが乱れ飛ぶ、混沌とした様相を呈しはじめた。
オットーは、最前線でメイスを振るいながら、二人を見て眩しそうに瞳を緩めた。
「ハハ。楽しそうで何よりじゃないか。さてと、ぼくももう一働きしようか。せっかく訪ねてきてくれたんだから」
オットーは、後退するネオジェネシス軍の殿軍に立った、眼鏡をかけ白衣を羽織った少年に向き合った。
神官騎士は、少年がつけている眼鏡を知っていた。
長い時間を共にした腐れ縁で、共に貴族社会の改革を夢見た、友と見込んだ男の大切な品だった。
「その伊達眼鏡は、ブロルが使っていた神器だろう? ベータは筋骨隆々の大男と聞いている。と、なるとお前はデルタかな?」
「お見通しかっ、オットー・アルテアン地区委員長。お前はここで死ね」
デルタは眼鏡を掴み取り、大鎌へと変化させ斬りつけた。
「問答無用かよっ」
しかし、オットーは巧みに受け止めて、半身をねじるように回転すると、カウンター気味に横合いから殴りつけた。
戦場の華となる、総大将による一騎討ちが始まった。
―――――――――――
あとがき
WEB版でデルタが使用している眼鏡ですが、書籍版では某キャラが存分に使って大活躍しています。
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