第361話(4-89)狸虎娘の奮戦と革命軍兵士たちの覚醒
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クロードとゴルト・トイフェル、ソフィとレベッカ・エングホルムが熾烈な一騎討ちをくり広がる中、アリス・ヤツフサは
「すーぱあぁたぬうパンチ!」
アリスは、黒虎の姿できりもみ回転しながら、複数の兵士達を肉球で殴り飛ばした。
蛙や魚人に似た怪物へと変貌した軍団も、全長五
「恐れるNA。我らの強さは、マスケットのみにあらZU。この姿の接近戦こそ本領YO。武器をかまえRO。泥地へ追い込むのDA」
レベッカの魔法によって、水棲生物じみた異形となった兵士達を率いる隊長は、牙が生えて噛み合わせの悪い口を必死で動かして部下を叱咤した。
アリスは、戦場を
「たぬっ?」
兵士たちは、怪物と化したことで湿地を自由に闊歩する地の利を得たのだろう。
アリスが泥に足を取られて体勢を崩した瞬間を狙って、彼らは一斉に槍や剣を突き出した。
「いまDA、くらEE!」
「たぬうっ、ぷりてぃたぬうキックっ」
しかし、追い詰められたアリスは、巨大な黒虎から小さな金色のぬいぐるみに似た狸猫に変身する。
愛らしい小動物となった彼女は、あたかも鞠のように跳ねながら、押し寄せてくる兵士達の頭を蹴って窮地を逃れた。
「くっ、小さくなっTA。追え、追撃のチャンスDA」
黒虎相手には叶わずとも、小さなぬいぐるみ獣なら勝算があると踏んだのか?
緋色革命軍の兵士達は、取り回しの悪い武器を捨てて、伸びた爪や生えた牙、太い尻尾を使って、アリスを取り押さえようとした。
「ええい、大人しくしRO」
「たぬったぬっ。みらくるたぬうチョップ!」
けれど、黙って捕まるアリスではない。ぬいぐるみから、艶めかしい黒髪の少女へと変身し、迫る軍勢にカウンターをたたき込む。
彼女は独楽のようにくるくると回りながら、掴みかかってきた兵士達のあごや首もと、みずおちを手刀で殴りつけて、あっという間にのしてしまった。
「あぎゃA」
「ひぶらBA」
「ぐぬぬっ、接近戦は無理KA。槍をなげRO、矢を放TE。魔法隊は支援するんDA」
隊長もとうとうサジを投げた。白兵戦で歯が立たない以上、距離を置いての戦闘に終始するしかない。
緋色革命軍の兵士達は、アリスを遠巻きに包囲しながら槍を投げつけ、矢を射て、火球や氷柱といった魔法を放って倒そうとした。
「どうだ、やったKA」
「たぬうう。わんだふるたぬうハリケーン」
けれど、それはアリスにとって予測済みの展開だった。
彼女はしなやかでセクシーな大人姿から一転、金髪の少女姿へと変わって攻撃を避け、軍団の只中へと飛び込んだ。
アリスは魔術文字を綴って竜巻を引き起こし、隊列を組んだ兵士達を容赦なく空中へと吹き飛ばした。
「たぬたぬっ♪」
「……なんということだ。彼女を止められる奴はいないのKA」
「……もっと強力な武器が必要DA。貴族どもが独占するかRA」
中央部隊の兵士達は、かつての同朋を怨まずにいられなかった。
緋色革命軍はずっと以前から、寝返り貴族や外国からの傭兵を中心としたダヴィッドら主流派と、この戦場に集まった兵士のような一般参加者を中心としたゴルト・レベッカら非主流派に分裂していた。
独裁者であるダヴィッドの派閥が、契約神器や強力な魔術道具を独占したために、ゴルト派は物資や装備に恵まれず、圧倒的火力を発揮できる切り札に欠けているのだ。
それでも、これまではゴルト・トイフェルという希代の将帥と、未来を予測する巫女レベッカ・エングホルムがいた。
二人は、距離がある内はマスケット銃で射撃し、接近された際には異形化のような強化を得た白兵戦、という二段構えの戦術を指導した。
ゴルトとレベッカの指揮のもと、兵士達はメーレンブルク領軍やダヴィッド派を相手に絶大な戦果を挙げてきたのだ。
しかし、今や指導者に余裕はなく、マスケット銃は無力化されて、異形の怪物と化した肉体すらも役立たずだ。
「もうダメDA。所詮、おれたちはここまでなのKA」
アリスは息を荒げて嘆く兵士たちを見て、幼い少女姿のままあやすように微笑んだ。
「むふん。たぬは頑張って特訓したぬ。ショーコちゃんも、テルさんも色々教えてくれたぬ。それは、クロードを守りたいからたぬ。……おっちゃんたちにも大切なもの、あるたぬ?」
「……そ、それHA」
「……うおOOOO」
アリスの無邪気な一言が、異形の兵士達の心を引き裂いた。
彼らは、自分たちもダヴィッド同様、与えられた力に
「そうだっ。俺たちはこの国を変えたいって思ったんだ」
「ダヴィッドの腐った思想なんて、もう知ったことか。苦しかった日々を思い出せ。おれたちがおれたちの意思で革命するんだ」
兵士たちが、レベッカにかけられた異形化の魔法は、すでに解けていた。
けれど、再び黒虎の姿に変わったアリスの金色の瞳に映る兵士達には、確かな勇気と、苦難を乗り越えようとする意志があった。
「ゴフッ」
立ち直った友軍をかばう様に、ゴルトの熊が一歩前に出た。
「ありがたい。そうだ、まだ諦めるな。東西の部隊はどうなっている?」
「いけない。両翼は総崩れですっ……」
アリスという試練に向き合って、緋色革命軍の中央部隊は長きにわたる妄執から目覚め、本来の強さを取りもどした。けれど、戦の趨勢はすでに決していた。
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