第158話(2-112)悪徳貴族と反乱鎮圧Ⅱ(塹壕突破戦)

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 セイ率いる領軍と、マクシミリアンに扇動された反乱軍の戦いは過熱していた。

 互いにシャベルで穴を掘り、じりじりと戦線を押し上げてゆく。

 汗にまみれ泥にまみれながら、土を掘り起こして木板を敷いて、少しずつ前へ前へ……。

 セイも敵軍も、どうにかこの事態を打開しようと試みた。


「なんとしても突撃する隙を作るのだ」

「進め進め。命を惜しむなあ」


 だがお互いに兵士たちが塹壕ざんごうを出て敵陣に取りつこうとしても、レ式魔銃の十字砲火を浴びて、彼らを護る魔法の盾が霧散むさんしてしまう。

 領軍の場合、盾付きの車両、シールドタンクを時間差で投入する作戦も試したが、両軍の大砲が炸裂した無人地帯はデコボコしていて中々前に進めない。

 かといって菱形車両で整地しようにも、事前の想定以上に装甲を貫かれてまるで活躍できなかった。

 その一方で、風車をくくりつけた放水車は魔法部隊の援護もあって、防戦にはそれなりに活躍した。


「オボログルマも一輪から三輪に改造することで出力が低下し、三次元移動が困難になった。魔法は荒唐無稽こうとうむけいな方が強く作用するのか? 物理的な合理性と噛み合いが悪いのなら、棟梁殿の世界の兵器を再現したとしても、逆に弱体化するのではないか?」

「セイちゃん、難しい顔してるたぬ。一緒にイモモチ食べるたぬ?」

「……アリス殿、ショーコ殿という娘と知り合ったのだろう? 今度会うことがあれば、是非私に引きあわせてくれ」


 ドクター・ビーストは、この世界の材料を用いて、彼の故郷の兵器群を完成させた。

 その娘、ショーコもまた、クロードに義腕とブラッドアーマーという新しい力を授けている。

 セイは親子の技術に強い関心を覚えていた。

 西部戦線はそのまま夜が来て、朝日が昇り――

 晩樹の月(一二月)二五日。ついにセイは決断をくだし、全軍に突撃を命じた。


「やはり世界には世界にあった技術がある。正攻法で突破するぞ!」

「これって正攻法たぬ!?」


 セイが下した作戦は、魔法部隊にありったけの泥人形クレイゴーレムを作らせて突撃させることだった。

 クレイゴーレムたちは不整地もなんのそのと歩き出すものの、レ式魔銃の弾幕を浴びて穴だらけになり、塹壕を乗り越えることもできずに中へと転がり落ちて泥に戻ってしまう。

 そう、泥に戻る――のだ。大量の泥は掘り進めた穴を埋める。

 セイはこの攻撃を繰り返して反乱軍の塹壕内を分断、更には遠見の術と高所からの雷撃魔法で支援して敵陣の大砲を破壊した。

 いかなる天下の堅城も堀を埋めたててしまえば丸裸。ましてや野戦の陣地は城塞に及ばず、半日以上の時間をかけて準備したのち、セイ率いる浸透部隊の突撃を受けて反乱軍は崩壊、領西部方面の司令部を陥落させた。


「こ、これが姫将セイの采配だと? わしは、このコンラード・リングバリは認めぬぞ!」

「そなたに認めてもらわずとも結構!」


 セイは大天幕の中、銃を捨てて槍を振るう敵将コンラードの突きと払いをかくぐり、大太刀で槍を両断、組み討って失神させた。

 が、その時、ドンという音が響き、天幕の隅に潜んでいた物影がセイへ向けてレ式魔銃を放った。


「危ないたぬっ」


 大虎となったアリスの爪が一閃し、弾丸を弾き飛ばす。セイもまた天幕の隅へ向かって疾走し、銃を切り裂き、剣を弾き飛ばした。


「あ、あんたたちをころさなきゃ、妹が殺されるんだ」

「あ、あねきのために、し、しんでくれぇ」


 そこにいたのは、ボロボロの短衣チュニックを着た、二人の幼い少年と、更に幼い少女、そして怪我をしてうつむく少しだけ年上の少女だった。

 少年たちは失禁しながらも、足元の石を掴んでセイに殴りかかってきた。

 

「ご苦労だった。よく守ったな。助けに……来たぞ」


 少年はポンとセイに両の手で頭を撫でられ、少女たちは彼女の声を聞いて、安心したのか堰を切ったかのように泣き始めた。


「お見事たぬっ」

「私は正道を歩むのみ。悪しき者なら切り捨てていたさ。もっとも、今回は出番がなさそうだが」


 セイとアリスは兵士たちを呼び寄せながら、改めて少年少女達を顧みた。


「おかしいたぬ。今まで見たことのない顔たぬ」

「ああ。この子たちは、いったい誰が連れて来たのだ?」

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