第四部 悪徳貴族、国取りに向かう

第四部/第一章 ユーツ領へ

第272話(4-1)悪徳貴族と戦線膠着

272


 復興暦一一一一年/共和国暦一〇〇五年。

 年明けから夏にかけて、クロードたち大同盟とダヴィッドが率いる緋色革命軍マラヤ・エカルラートの戦線は、膠着化こうちゃくかしていた。

 大同盟はマラヤ半島に唯一残った拠点である港町ビズヒルを要塞化し、塹壕ざんごうを幾重にも渡って掘り進めながら、緋色革命軍の本拠地である元エングホルム領領都エンガを目指した。

 一方、緋色革命軍もまたエンガ防衛の要であるエングフレート城塞から商業都市ティノーにかけて厳重な防衛体制を構築、険しい地形を利用した砦群をハリネズミのように連ねていた。

 双方の軍も黙って見ていたわけではなく、互いに幾度かの突破作戦が試みられたのだが、すべて失敗に終わった。

 この頃、クロードたち大同盟は疲弊ひへいした軍の再編とヴォルノー島の統治回復で手一杯であり、緋色革命軍もまたマラヤ半島を統一すべく軍を北上させていたため、主力を欠いていたのである。

 その結果――防御側の圧倒的な優勢が確立し、攻撃側はにっちもさっちもいかない袋小路に陥った。


棟梁クロード殿。すまぬが、あれは無理だ。船で迂回して北から攻めよう」

一の同志ダヴィッドよ。あの厳重な防衛を破壊しても、手に入る土地は寒村ひとつ。やっとれん、まるで収支があわんぞ。艦隊で領都レーフォンを落とした方がまだマシじゃ」


 ついには司令官二人も匙を投げて、マラヤディヴァ国を巡る内戦は、陸戦から海戦へと舞台を移した。

 ゴルト・トイフェルは司令官に復帰するや、占領下で散逸状態にあった旧マラヤディヴァ国海軍を取りまとめ、ルクレ領海軍の名将ヨハンネス・カルネウスを登用して提督に任じた。

 ゴルトの怜悧れいりな智謀とヨハンネスの豪快ごうかいな統率、何よりもダヴィッド・リードホルムへの恐怖で躾けられた緋色革命軍艦隊は、グェンロック領沖海戦で大同盟艦隊に完勝する。

 しかし、窮地に陥った大同盟側も、老将ロロン提督が乗る旗艦”龍王丸”を中心に艦隊を連携させ、防衛に徹して緋色革命軍の侵攻を水際で阻止した。

 ロロンとヨハンネス、過去には海賊と官軍として火花を散らした両提督の軍事手腕は伯仲はくちゅうしていた。大同盟と緋色革命軍は、互いに決定的な打撃を与えることが叶わぬまま時間が流れた。

 

「何か、何かきっかけを作らなきゃ……」

「ふん。つまらないことだ。我が力は無敵にして至高! クローディアス・レーベンヒェルムを血祭りにあげる趣向をこらすだけのことよ」


 突破口を求めて同盟領を走り回るクロードと、戦地で敵兵を惨殺しながら弄ぶダヴィッド。

 対照的なトップの姿勢と同様に、統治下の都市群も真逆であった。

 大同盟の町が穏やかな日々を過ごしたのに対して、緋色革命軍が占領した町では粛清しゅくせいと虐殺の嵐が吹き荒れていたからだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る