第190話(2-143)悪徳貴族と友軍奮戦

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 クロードとレアは魔術塔”野ちしゃ”北部の大砲を沈黙させて不時着するも、”処刑人”オズバルト・ダールマン率いる共和国兵の部隊によって、南部に着陸したレジスタンス本隊と分断されてしまった。

 それを知ったミズキが最初にとった行動は、アンドルー・チョーカーの尻を蹴飛ばすことだった。


「指揮を執れ、チョーカー隊長。連中をクロードに近づけさせるな」

「わかった。ミーナ殿は小生の傍に。ミズキはどうするっ」

「あの盟約者を止めてくる」


 オズバルトとクロード、レアが鋳造魔術を駆使してしのぎを削る間に、ピエロのように派手な装束を着た男が敵兵に指示を出しながら、第六位級契約神器らしい大鎌を手に颯爽さっそうと飛びだしていた。

 おそらはく敵部隊の副隊長にあたる人物だろう。ミズキが依頼主クライアントから得た情報によれば、彼の名前は――。


「ライナー。あんたの相手はあたしだ」


 ミズキの放ったマスケット銃の弾丸は、確かにライナーの後頭部を直撃し、――なにごともなかったかのように逸れた。


「ちっ雑魚どもが、邪魔をするんじゃ……」

「やるぞ、我々の姫君を、奪われた大地を取り戻す。処刑人も共和国も知ったことか、勝つのは我々、マラヤディヴァの民だ」

「おう!」


 チョーカーはルーンホイッスルを吹き鳴らしながら、レジスタンスを鼓舞した。

 ミーナの皮袋から流れ出すワインの霧が友軍を覆い、身体能力を底上げする。


「右翼から突撃する。左翼は援護しろ」


 アンドルー・チョーカーという男は、彼自身が口癖のごとく繰り返すように『高度の柔軟性を維持しつつ臨機応変に対処する』指揮を本意とする。

 言ってしまえばいきあたりばったりであり、そのような基本戦略で勝利を続けられる軍隊なんて古来よりあったためしがない。

 しかし、ことが戦術規模の軍事衝突となれば事情は一変する。千変万化する戦場で確かな情報を集めることは難しく、指揮官には決断力こそが求められるのだ。

 そういった意味では、チョーカーの嗅覚はずば抜けていた。ライナーは共和国兵たちを二手に分け、レジスタンスに近い西の部隊に足止めを命じ、東の部隊を北に向かわせてクロードとレアを捕縛しようとした。

 だが、チョーカーの契約神器とミーナの酒精で強化されたレジスタンスは、西の共和国兵に矢を浴びせかけて足止めするや、東の部隊を追いかけて強襲、反転して串刺しにするように東西の共和国軍を貫いた。


「嘘だろ!?」


 ライナーが蒼ざめたのも無理はない。

 チョーカーが狙ったのは、あえての大乱戦だ。

 共和国兵のど真ん中にレジスタンスが雪崩れ込んだことで、両者は陣形もなにもかもぐちゃぐちゃになってしまった。

 こうなった以上、クロードたちの制圧どころか、オズバルトの救援すら容易ではない。


「”ズィルバー”、御頭を頼む」

「ワンちゃんはたぬと遊ぶたぬ♪ ぎゃふんっ」


 オズバルトが盟約を結んだ白い犬、第五位級契約神器ルーンビーストが巨大化し、銀の魔犬となってアリスを崖まで吹き飛ばした。

 けれど、がけ地まで吹き飛ばされた褐色肌の少女は器用に宙返りを決めて、全長五メルカはあるだろう黒虎となって再び挑みかかる。

 アリスとズィルバーは爪と牙を閃かせ、互角の戦いを始めた。


「あの娘も異世界人かよ、うっとうしい」

「道化師ってのは観客を笑わせるものだろう。まるで余裕がないじゃないかライナー?」

「ひとの名前を馴れ馴れしく呼ぶんじゃねーよ。人形マリオネッテ!」


 ミズキの弾丸は軍勢という針の穴を通して、再びライナーの顎と胴を捉え、しかし、命中することなくすり抜けた。

 しかしながら、無問題というわけではないのだろう。

 大鎌を持った青年は、上司への救援を一時諦めて、マスケット銃を構える少女に向かって駆けだした。


殺戮人形メルダーマリオネッテ。共和国の備品がなぜ俺たちの邪魔をする?」

「これがあたしの任務でね。こっちは前教主派、そっちは現教主派。くだらない内ゲバと粛清こそ共和国の年中行事だろう?」

「金と血に溺れた亡者の玩具がっ」

「狂信者の下っ端がほえるなっ」

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