第496話(6-33)領都ユテスの奪回
496
復興暦一一一二年/共和国暦一〇〇六年 花咲の月(四月)二〇日。
クロードは港町ツェアにて、エングホルム領から北上する一万の軍勢と合流、ブロルの仇を討つべく領都ユテスへ進軍を開始した。
ブロル亡き後のユーツ領は、彼を
「ひゃっはあ、獲物が来たぜぇっ」
「オレたちは無敵だあ。命を置いてけやあ」
道中では、彼女の私兵と思しき外国人の傭兵部隊や、
「うおおおっ、負けるかあ」
「こっちへ引きこめ、潰すぞっ」
クロードと肩を並べる大同盟軍は、怪物の威をかる傭兵達を
「どれほど強力な怪物だろうと、攻略手段はある」
「弾幕を張れ、相殺にもちこめば十分だ」
ニーズヘッグは、全長二〇mに達する巨体も勿論だが――。
物理も魔法も破壊する吹雪の翼や、広範囲を凍てつかせる
「GA?」
だが大同盟と交戦した蛇竜は、投入されて間もないのか、恵まれた固有能力をまるで使いこなせていなかった。
「ベックやシュテンに比べれば怖くない」
「辺境伯様だけが、お前達の敵と思うなっ」
「今回は頼れる友軍もいるからねっ」
イヌヴェが先導する騎馬隊とネオジェネシスのスキー部隊が、怪物を
サムエルら歩兵部隊とネオジェネシス弓隊が、待ち伏せからの十字砲火で足を止め――
キジーが差配する飛行自転車隊と、ネオジェネシス魔砲隊が飽和攻撃で粉砕する――
人間とネオジェネシス、異なる種族の力を結集した連携攻撃が、ニーズヘッグの巨体をも打ち倒した。
「「GAAA!」」
無論、襲撃をかけてくる巨竜は一体にとどまらない。二体、三体と、山のような威容を轟かせながらわらわらと集まってくる。
「ハハハ。オレも負けられないでゲスね」
大同盟軍が交戦中の街道から離れた森では、勇者の末裔たるドゥーエが、バッタのように木の枝を飛び回りながら暴れていた。
彼の相棒たる妖刀ムラマサは、第三位級契約神器レギンこと、レアが修復中だ。
けれど、ドゥーエは左義手の
「ああいう風に死ねないのはむしろ地獄よ? 私なら楽に殺してあげる。並行世界の〝
「GAAAA!」
ドゥーエの師匠たるシュテンは、相変わらずのスネ毛がチャーミングな女性用ビキニアーマーを身につけ、肉肉しい肢体で泥をはねながら、街道はずれの湿原で
シュテンの愛刀〝物干し竿〟も修復中のため、今はブロルが特別に用意した大剣を振り回している。
新しい得物も全長三
「我が友が残した遺品。日本刀の横綱と名高い大太刀、
「「そのままじゃないかっ」」
大同盟やネオジェネシスの兵士達が飛び道具で援護しつつも、ツッコミを入れる。
何のことはない。シュテンが振り回すのは、とてつもなく大きい出刃包丁である。
「燕返しも、出来るわねっ」
「「どうやって!?」」
シュテンはV字にジグザグといった複雑な軌跡を描きながら、全長二〇mもある怪物の鱗を削いで肉を断ち割る。
「ああいうのを見ると、俺達の銃が豆粒のように感じられるな」
「いや、そうでもないよ。アッチを見ろ」
一般兵達が撃つ弾幕は、その多くがニーズヘッグの吹雪によって中空に縫いとめられ、やがて雪に変えられて消されてしまう。
しかし、薄桃色がかった金髪の少女ミズキは、そのように止められた弾丸や魔法矢のかたまりに向けて、豊かな胸を揺らしながらマスケット銃を撃ち放った。
「やったね。狙い通りっ!」
ミズキが撃ち込んだ弾丸は、あたかも
彼女は兵士達の視線が集中しているのを知ると、照れ臭そうに手を振った。
「ほら、アタシはあの二人みたいなびっくり人間じゃないし」
「「むしろ一番ヤバいんじゃっ!?」」
ドゥーエやシュテンが常人には理解できない武器を振るう分、ミズキがありふれたマスケット銃で神業を繰り出すのが目立つのだ。
「それに、ヤバいといえばあっちでしょ?」
ミズキがウィンクする先では、三白眼の細身青年クロードがいた。
彼はわずかに背が焼け焦げた愛刀、
「来い、蛇ども。クローディアス・レーベンヒェルムはここにいるぞ」
「「GYAAA!」」
クロードは、あたかも空を飛ぶような
「望まれぬ怪物よ、大地にかえれっ」
クロードは、直後に愛刀を雷をまとった打刀と火を吹く脇差に切り替えて、続く蛇竜を十文字に斬り伏せた。
弱かった少年は幾度の激戦を越えて、両翼たるレアとソフィが傍にいなくとも、単騎で蛇竜を滅ぼすほどの成長を遂げていた。
「「やだなあミズキさん。あれはヤバいんじゃなくて、俺たち自慢のリーダーですよ」」
「そっか。そっかあ……」
上司からクロードの監視を命じられ、彼の孤独な戦いを見続けてきた少女にとって、大同盟軍兵士達の言葉は尊かった。
クロード達、大同盟軍は――彼らには知る由もないことだが――型落ちしたニーズヘッグと用済みとなった戦闘員を一掃し、一〇日後には領都ユテスへと至った。
「ネオジェネシスは、こちらの戦力だったのよ! それをブロルが裏切った挙句、クロード、クロードとやかましいですわっ。あんなに弱かった偽善者が調子にのってぇ」
「我が身を縛る十の
レベッカ・エングホルムは歯噛みするも、ファヴニルの命に従って領都ユテスを脱出。
同月の三一日。クロード達は、ネオジェネシス本拠地領都ユテスを制圧した。
「謀反人レベッカは打倒した。この戦いは僕たちとネオジェネシスの勝利だ!」
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