第55話(2-13)姫将隊と賊軍と、攻防戦開始

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 セイの立てた作戦とは、おおざっぱに書くと以下のようなものだった。

 まず、アリスとキジーが兵隊四〇を率いて、警察と協力し、町の住人達を南の代官屋敷まで誘導して避難させる。

 その間に、北から迫る敵兵四〇〇を砦のセイが、東の敵兵三〇〇を商店街でイヌヴェが、西の敵兵三〇〇を農業地区でサムエルが、それぞれ兵二〇を率いて足止めし、これを撃退する。

 常識的に考えるなら、頭が悪いとしか言えない。

 戦力をわざわざ分散させた上で、十倍以上の敵を待ちうけようなんて正気の沙汰ではないだろう。

 そりゃあ、イヌヴェやキジーも、セイとアリスだけでも逃がそう、なんて考えるはずである。


 東から迫る山賊たちは、民家に火をつけ、店から商品を略奪し、さまざまなものを破壊しながら、隊列を組んで街の中心へ向かってゆっくりと行進を続けていた。

 先頭に立つのは、凍てついた白い剣と、幾重にも穂先が分かれた槍と、血まみれの蛇のようにうごめく鞭をもった、第六位級契約神器の三人の盟約者だ。


「おらおら、悪徳貴族の狗ども、隠れてないで出てこいや!」

「可愛い女隊長さんはどこですか、大人の時間だよぉ」

「それとも、おしっこもらして震えているのかなあ。ギャッハッハ」


 一方のイヌヴェたちは、分散して物陰に隠れ、有効射程五〇〇メルカまで近づくのを今か今かと待ち構えていた。

 目印である八百屋の看板を越えた瞬間、イヌヴェは手を振って、部下が特製の弾薬をレ式魔銃に装填し、……狙撃した。

 発砲音は六発。直後、三人の盟約者は血煙となって消えて、一〇m後方までの山賊たちが全身を切り刻まれ、臓物を撒き散らして死んだ。

 重軽傷を負った者を加えれば、三〇人以上の山賊が、一瞬にして死亡し、あるいは戦闘不能となった。

 守備隊員一人につき一発だけ支給された、クロードが直々にファヴニルの魔法を封じた、対神器用弾頭が空間断裂という死神の鎌を振るったのだ。

 奇襲に動揺したのか、山賊たちがわめきながら足を止める。


「やるぞお前達。俺たちにはあとがない。必ずセイ隊長との約束を果たせ!」

「撃て撃て撃て撃てぇえええっ」


 鬨の声を上げて、物陰に隠れたイヌヴェの部隊は通常弾を撃ちまくった。

 固まって移動する山賊たちは、いい的に過ぎない。銃弾を浴びて、瞬く間に数人が倒れた。

 後方に控えていたのだろう、巨大な手甲をはめた第六位級契約神器の盟約者が飛び出してきたものの、再び対神器用弾頭が直撃して赤い霧と化す。

 悪徳貴族だ! と山賊の誰かが叫んだ。邪竜ファヴニルだ! と誰かが泣き叫んだ。それをきっかけに、東の山賊軍は総崩れとなった。

 守備隊が背後から撃つまでもなく、互いに足をひっぱり、武器を叩き付け合い、共食いのように互いを相食みながら、彼らは見苦しい逃走を始めた。

 イヌヴェは、班長級にのみ与えられた通信用の貝殻に向かって叫んだ。


「こちらイヌヴェ。敵は壊走し、追撃する。サムエル、西部はどうなっている!?」


 一方、同時刻。

 農業地区に布陣したサムエルは、虎の子の対神器用弾頭を二つ使って大きな穴を掘ると、スコップで固めながら山賊たちを待ち受けていた。

 遮蔽物の少ない農業地区よりも、もう少し奥の市街で待ち受けるべきではないか? とセイやイヌヴェは指摘したが、見晴らしが良い方が戦いやすいとサムエルは二人を説き伏せた。

 彼はクロードから塹壕ざんごうという存在を聞き、模擬弾による演習時に絶大な効果を発揮した為、実戦で試そうとしたのだ。

 西方からは、全長一〇メルカはあるだろう赤銅色の巨体を誇る第五位級契約神器『岩巨人』が、緑色の巨大な西洋甲冑を模した軍用ゴーレムを十体引き連れて、畑を踏み潰しながら迫っていた。

 サムエルは、舐めていた飴玉を噛み砕いた。


「なるほど、あれなら矢も飛礫つぶても弾いちまう。だけど、残念……、地獄へようこそだ」


 サムエルの指揮に従って、放たれた空間断裂弾が第五位級契約神器『岩巨人』をまるで手品のように消し飛ばし、続いて傭兵達が塹壕から十字砲火を浴びせかけた。

 この世界における通常の軍隊は、矢避けや対魔法防御の呪文を厳重に重ねがけした上で、その効果を最大限発揮するために隊列を組むのがセオリーだ。

 このようにまとまった軍事行動をとり、複数の契約神器と盟約者を動員している以上、ただの山賊などというのは有り得ない。

 西方から攻め寄せる敵兵達は、戦場慣れしていたのだろうか、奇襲を受けてなお、混乱をたて直して進軍を続けようとした。


「怯えるな! 敵は少数だ。弩に毛が生えた程度の魔術兵器で、この大軍は阻めない!」


 だが、気炎をあげる指揮官らしい男の前方で、頭部魔術回路を片端から撃ち抜かれた軍用ゴーレムがドウと倒れ、まるでドミノ倒しのようにことごとくが撃ち倒された。

 

「こ、こんなことが」

「悪いが敵さんよぉ。こいつはレ式魔銃ってんだ。銃身そのものにありったけの強化付与をこめてある。止められると思うな」


 撃ち返される賊軍の矢や飛礫はサムエルたちが篭もる塹壕までほとんど届くことなく、かろうじて頭上を掠めた火球や氷柱といった遠隔魔法もまた、同行していた魔術士が張った魔法の盾に阻まれた。

 レ式魔銃の有効射程は五〇〇メルカ。ただし、最大射程は一〇〇〇mに達する。

 見晴らしの良い農業地区で、十字砲撃を浴び続ければどうなるか。魔法盾や矢避け魔術は一瞬で効力を失って破られ、西方の賊軍は中途半端に士気を保っていたことが災いし、地獄絵図と化した。

 塹壕が弩の射程に入るまでの残り三〇〇mを、賊軍たちは弾幕によって進むこともままならず、命令がないので退くことも出来ずに、サムエルたちが放つ銃弾の雨を浴び続けたのだ。

 状況開始から数分とたたず、山賊たちは遂に指揮官を自らの手で殺害し、蜘蛛の子を散らすように四散した。


「サムエルよ。驚いたわ。こりゃあ勝ち戦になりそうだ」

「どうよ、オレの先見の明は?」

「言ってろ。凄いのは、この状況を見通していたセイ嬢ちゃんと、この銃をくれた悪、……辺境伯様だろ」

「普通、傭兵に契約神器の加護を分け与えたり、最新兵器を持たせたりするなんて有り得ないよな」


 戦友たちがぼやくのを、サムエルは苦笑いしながら聞いていたが、胸元から聞こえたイヌヴェの叫びに通信用の貝殻を持っていたことを思い出した。


「ま、アレだ。期待には応えてやりたい。こちらサムエル。西部も上々だ」


 そうサムエルが通信貝に返したとき、セイの持っていたはずの通信貝から、自警団団長アーカム・トイフェルのダミ声が響いた。


「愚かな劣等民族どもよ聞けっ。我々はすでに本陣を陥落させ、小娘は討ち取った。降伏するがいい!」

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