第311話(4-40)炭鉱町エグネ攻略作戦開始

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 クロード達はひとまず調査のために、ネオジェネシスの遺骸を回収することにした。

 アリスが叩いて座布団のように平たく伸びた残骸と、クロードがき潰して巨大な卵状に溶けて固まった球体を、研究用サンプルとして飛行自転車の荷台に積み込んだ。

 そうして彼らは解放軍に協力する村へと移動し、一度荷物を降ろして炭鉱町エグネという拠点攻略のために装備を整えた。

 といっても、シェルクヴィスト家の家臣達が得られた物資は、緋色革命軍マラヤ・エカルラートおさがりのマスケット銃や、冒険者が使うあり合わせの剣や槍、革と布の鎧が少々だ。


「すみません。この竹と木板、縄と釘、金づちとスコップも貸してください」


 クロードは何を考えているのか、日曜大工に使う資材まで村からかき集めていたが、緋色革命軍の防備を知るシェルクヴィスト家の家臣達からはまるで頼りなく見えた。

 炭鉱町エグネには、廃坑を改造した堅牢な要塞が存在したからである。


「へ、辺境伯様。エグネを奪還するために、何か秘策や秘密兵器は無いんでしょうか?」


 濃い頬髭の目立つ若手の兵士が、上ずった声で尋ねた。

 シェルクヴィスト家の家臣一同は、もしもマルグリットが指揮を執るならば、たとえ死んでも付き従う覚悟を決めていた。

 主人をそれだけ信頼していたし、共に幾度も死線を越えて、深い絆で結ばれていたからだ。

 けれど眼前にいる青年は違う。ヴォルノー島の大同盟を主導する首魁であると言うこと以外に、彼らはクロードのことをほとんど知らなかった。


「もちろんあるよ。秘策とは、マルグリットさんと君たちのことだ。もう勝利は決まったようなものさ」


 クロードは三白眼を細めて、いかにも自信満々といった風で応じたが、シェルクヴィスト家の面々は一様に不安そうな顔で俯くばかりだった。

 

「これだけあれば充分か。準備も整ったようだし、作戦を説明するね」


 クロードが提案した策は、マルグリットが目を見張り、家臣達の不穏な空気を吹き飛ばす程におよそ奇想天外なものだった。


――

――――


 ユーツ領北東部の山脈に面した山裾に、目的地である炭鉱町エグネはあった。

 過去には交易で栄えた時代もあったため、荷運びの馬車が通りやすいよう、町へと続く道幅は広くて斜面もなだらかだ。

 もしも攻め手が街道を武装して昇ったなら、守り手は当然のことながらすぐさま警報を鳴らして防備を固めたことだろう。

 にも関わらず、町の入り口を守る緋色革命軍親衛隊の衛兵と、見張りやぐらから見下ろすマスケット兵が、街道を歩いてくる一団を脅威と見なさなかったのは、およそ敵とは夢にも思わぬほどに少人数であったからだ。

 先頭に立つのは黒髪褐色肌の美しい乙女で、次に彼女のペットらしいカワウソと大きな銀色の犬、更に冒険者風の服装に身を包んだ一〇人の男女だ。

 緋色革命軍親衛隊は、彼らを流れの傭兵か、新規に配属された友軍だとばかり思い込んでいた。

 しかし、堂々と町の入り口まで登ってきた乙女ことアリスは、よりにもよって門の手前で堂々と宣言した。


「たぬたちは解放軍たぬ。町でやんちゃしてる緋色革命軍マラヤ・エカルラートへ降伏勧告に来たぬ。今すぐ降伏して、ゴメンナサイするといいたぬ」


 彼女の無礼千万な物言いに、衛兵はすぐさま槍で門を塞ぎ、見張り櫓の親衛隊兵は銃を発砲した。


「たぬう!?」

「貴様らは崇高なる革命を妨げる異分子か。殺せ!」

「数が少ない、さては先遣隊せんけんたいか? 本隊が来る前に殲滅せんめつしよう」


 見張り櫓に据え付けられた鐘がガンガンと鳴らされて、廃坑や兵舎から一〇〇人近い親衛隊員達が続々と飛び出してくる。

 緋色革命軍の兵士達は威嚇でもしているつもりなのか、届きもしない距離からマスケット銃を無闇矢鱈むやみやたらと発砲し、あるいは灰色の軍服をアリじみた装甲服へと姿を変えて、襲撃者を狩るべく駆けだした。


「うわぁい、逃げるったぬう!」

「え、ちょっとまっ」


 アリスはいかにも楽しそうな声で大根役者な悲鳴をあげると、何か喋ろうとした頬髭の目立つ若手の兵士たち仲間四人を両手で抱え、一目散に後方へとんずらした。


「バウーッ」


 ガルムもまた口で四人の仲間を咥え、あるいは背に乗せて逃走する。

 そして最後にカワウソが、残された二人の兵士を持ち上げて如何にも高揚したようにステップを踏みながら駆けだした。


「いよぉうしッ、作戦開始だゼ。連中をパーティー会場まで御案内ダ」

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