第459話(5-97)魔剣の真実
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クロードはシュテンに対抗するため、彼が用いる
しかし、かの妖刀には〝抜いた者を必ず不幸にする禁忌の剣〟という伝承があり、肉体の乗っ取ろうとする悪霊に襲われてしまう。
クロードは負傷するも、己が体ごと焼く荒技で撃退に成功。白雪の降り積もる〝妖刀の世界〟を
「いわゆる〝見るなの
狐女房や蛇女房といった
「たとえば浦島太郎は
人間は知りたがりだ。
危険だと知りつつも、前へ進むことを諦められない。
「御伽草子の場合、浦島太郎が自らの時間を取り戻したことで神鶴へと変じ、神亀である乙姫と蓬莱山で再会する。パンドラが開けた箱の底にだって
まあ『一介の漁師がいきなり神様になったら大変だ』とか、『人類の手元に希望なんてあるから泥沼へはまり込んで行く』とか、解釈はそれぞれだろうが……。
「ドゥーエさんを見る限り、ムラマサに住んでいる彼の姉弟が管理者だ。だったら彼女達の協力さえ得られれば、僕だって〝禁忌の刀〟を使えるんじゃないか?」
クロードがそう呟いた瞬間、彼の視界を遮る吹雪がさっと晴れた。
眼前には、丁寧に
どうやら幽霊姉弟のいる、日本庭園へと辿りついたらしい。
「僕だ、クロードだ。みんな、どこにいるんだ?」
クロードが声をあげながら、庭園の真ん中にある家屋へと近づくと……。
幽霊の子供達は、屋敷の縁側でおしくらまんじゅうのように抱き合いながら、ぶるぶると震えていた。
「ど、どうしたんだよ。皆、何か怖いことでもあったのかい?」
クロードが声をかけると、一番目と呼ばれる姉弟の長女が、青ざめた顔で近づいてきた。
黒褐色の二房に分けた髪と翡翠色の瞳、スレンダーな体型が印象的な女の子は、風呂敷包みから古ぼけた手鏡を取り出した。
「クロードさん。貴方ですわ」
「はい?」
クロードは、想像もしなかった言葉に耳を疑った。
「みんな、貴方にショックを受けているのですわ!」
「またまた、僕のどこが怖いっていうのさ?」
クロードは、差し出された手鏡を覗き込んだ。
服はボロボロ、筋肉が焼けただれ、胸や腹は臓物が溢れて穴だらけ。手足も一部が失われ、顔に至ってはしゃれこうべが浮き出ている。
鏡の中には、ホラー映画の主役もかくやという凄惨な姿があった。
「こわっ、超怖っ!」
「屋敷に上がってください。今のクロードさんは、幽霊だって裸足で逃げ出しますわよっ」
ひどいオチがついたが……、クロードは
「クロードさん、〝
一番目が差し出した手鏡を覗き込むと、いつもの仏頂面が映っていて、細い身体も元通り、失われたはずの手足も生えていた。
やはり〝妖刀の世界〟は、現実ではないのだろう。
「助かったよ。それにしても、彼らはあんな姿になってまで、野望を諦めていないのか?」
「世界中の人々を殺してなお、カビのように妄執にしがみついている。まったく救いようのない悪党どもですわ」
クロードは、一番目の言葉に頷いた。
あの蟲達には、同情の余地がない。
「一番目さん。世話になっておいて何だけど、もう一つお願いがあるんだ。シュテンさんを止めるため、システム・ニーズヘッグに対抗する為に力を貸して欲しい」
クロードが頭を下げると、幽霊姉弟の長女は翠玉のような瞳にじわりと涙をたたえ、ゆっくりと首を振った。
「ごめんなさい。貴方には、この妖刀を使わせるわけにはいきません」
「お願いだ。人間とネオジェネシス、大勢の生命がかかっている」
クロードも簡単に説得できるとは思っていなかったが、諦められるはずもない。
ドゥーエの姉貴分である少女は、視線をそらして屋敷の軒先へ向けた。外では変わらずに、白雪がしんしんと降り積もっている。
「クロードさんはもう、あの雪が何なのかわかっていますよね?」
「うん。並行世界で
クロードの返答に、少女は黒褐色のツインテールを揺らして首を縦に振った。
「はい、システム・ヘルヘイム。そして元になったシステム・レーヴァテインとは、死者の祈りを力に変える術式なのですわ」
一番目。システム・ヘルヘイムの
一千年の昔、世界を救った勇者は、
「〝神剣の勇者〟は〝黒衣の魔女〟から受け継いだ巨人族の秘術を器として、関わった人々の願いを集めたのですわ。魔法の根源となる力がオモイなら、積み重なった無垢なる祈りは、遥かな未来に必ずや世界を救うだろう、と」
それこそが、システム・レーヴァテイン。悪しき契約神器や盟約者から、無力な人々を守る為の防衛機構、――だった。
「最古の魔剣。システム・レーヴァテインは、人類を終末から守りたいという穢れなき願い、後世に向けた祝福として始まりました。ですが一千年間、何ごともなく変わらない、なんてことがあると思いますか?」
――――――
おまけ
立場をひっくり返してみようのコーナー
一番目「クロードさん。グリタヘイズに名高い龍神、ファヴニル様の力を貸してくださいませ」
クロード「や め て!」
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