第78話(2-36)勇気を心に燃やすもの

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 復興暦一一一〇年/共和国暦一〇〇四年 木枯の月(一一月)二日。

 緋色革命軍は、首都クランに向けて軍を侵攻。同時に、ユーツ侯爵領へと、ゴルト・トイフェルが率いる別働隊を派遣した。

 ドクター・ビーストの創りあげた数々の新兵器を十全に振るったゴルト隊の活躍によってユーツ侯爵領軍は壊滅的な被害を受け、動揺したマラヤディヴァ国軍もまたダヴィッド・リードホルムによって蹂躙じゅうりんされ、甚大な被害を出した。


 そして翌日、三日夕刻。

 マラヤ半島最南端に位置する都市国家シングに近い、旧エングホルム領の漁村ビズヒルで火の手があがった。

 緋色革命政府マラヤ・エカルラートから派遣された監察官が、結婚を間近に控えた村娘に暴行を加えようとたところ、婚約者が抗ったことから、村全体が反革命分子というレッテルを貼られてしまったのだ。


「これだから、乱暴狼藉らんぼうろうぜきはやめられねえ」


 緋色革命軍の兵士達は、家々に火をつけて村人達を炙り出し、男は殺し、女は組み伏せた。

 村人の中には、斧やくわを手に抗おうとした者もいたが不可能だった。

 兵士達は、ドクター・ビーストが製作した全長六メルカほどの有人駆動ゴーレムの亜種、ずんぐりとした蛙型の人形装甲車を村に持ち込んでいたからだ。

 蛙の背から、青白い複数の光線が黄昏の空へと伸びて、まるで雨が降るように拡散して地上へと注がれた。


「我々に楯突く貴様達のような古臭いネズミはカビだ。果実を腐らせる菌だ。汚物は消去しないとなぁああっ」


 青白い光を浴びた者は凍りつき、ある者は首を刎ねられ、ある者はそのまま絶命した。

 ひとりの幼い少年が、父母に庇われて、港へと逃げ延びていた。

 しかし、彼一人では船を動かすことも出来ず、ただ迫り来る死を待つだけのように思われた。

 港には、痛んだ海賊船のような小船が五艘、入港していた。

 桟橋さんばしを五十人程度の見知らぬ男達が歩いていた。

 先頭を歩く一人、なぜか黄金色のもこもことしたヌイグルミを肩に乗せた男に、幼い少年はすがりついた。


「たすけて、たすけてよ。ぱぱとままがころされちゃう。たすけてっ」



 クロードは幼い少年を抱き上げると、肩に乗った黄金色の獣、アリスに向かってささやいた。


「アリス、この子を見てやってくれ」

「しょうがないたぬね。坊や、たぬと遊ぶたぬ」

「ぬ、ぬいぐるみが、しゃべった?」


 クロードは、アリスに幼い少年を預けると、部隊を率いて村の中へと踏み入った。

 目撃したのは、緋色革命軍の兵士達と、蛙型の奇妙なゴーレムが村で非道の限りを尽くす有様だった。


「悪党ども、蛮行はそこまでだ! 武器を捨てて投降しろ」


 夕暮れの村に響き渡ったクロードの一喝に、兵士達は一瞬呆けたように棒立ちになり、腹を抱えて笑い始めた。


「おいおい、何様ですかぁ!? 俺達を誰だと思ってるの。緋色革命軍だよ、緋色革命軍。世界を変えようとする俺達に逆らおうなんて、さてはお前、反革命分子だな」

「革命? この愚行が革命だと言うのなら、お前たちの脳みそは肥溜めにでも突っ込んでおけ。その方が、世の空気がマシなものになるだろうさ」


 クロードは、すでに右手に雷切らいきりを、左手には火車切かしゃぎりを抜き放っており、続く兵士達も、弩に銃、魔法の杖を構えていた。


「どこの傭兵か知らねぇえが、こびりついたカビが何をぬかす。新しい思想、新しい技術、新しい武器こそが、世界を変えて、新時代を切り開くんだ。やっちまえ!」

「あの蛙ゴーレムが装備しているのは垂直発射装置か。ミサイルじゃなくて冷凍光線なのが辛いが、対応はできる。魔法支援隊αからβ、防壁準備。火車切っ」


 クロードは左手で火車切を宙に投げて、炎のカーテンを創りだした。冷凍光線は、熱感知式のホーミング機能でも備えているのか、分散してカーテンを突き破り、結果弱体化して、クロード隊の魔法障壁を打ち破れなかった。


「魔杖隊、雷撃準備! 行けっ、雷切っ」

 

 クロードは、次に雷切を投げて魔法で操作し、蛙型の人形装甲車へとぶっ刺した。

 突き立った刀を狙い、クロード隊から雷の魔法が次々と浴びせられ、衝撃のせいか冷凍光線の発砲が停止した。


「な、なんだぁ。何が起こってやがる! 撃てよ、早く撃て!」


 クロードは、パニックになった緋色革命軍の兵士達を尻目に、冷静に解説しながら指揮を執り続けた。

 クロードすら知らない異世界の技術の産物。それを打ち破れることを、彼はいまここで証明しなければならなかった。


「魔法であったとしても、半導体に近い集積回路、魔術回路を積まれている。そこに大量の魔力を流し込んでやれば強制的にフリーズさせて、一時的に足を止めるくらいはできる。弩隊、撃ち放て!」


 開発したばかりの無色火薬を潤沢に使った金属製の擲弾グレネードを括りつけた矢が、雨あられと蛙型装甲車に射掛けられた。


「あとは、物理的にぶっ壊せば片付く。装甲車だって、グレネードランチャーで狙い撃たれれば無傷じゃすまないんだ。はたきを一〇二四本なんて言わない。その車両は何発まで耐えられる?」


 蛙型装甲車は、轟音と共に爆発、四散した。

 クロードが今回使った手段に、特別なものはない。

 敢えて言えば、火車切と雷切だろうが、複製に過ぎない二刀は第六位級契約神器で容易に代用が叶うだろう。

 この世界でも製造可能な武器と、ごく普遍的な戦術を用いて、クロードは緋色革命軍が頼みとする新兵器を完膚なきまでに打ち破って見せた。


「なんだよ、おまえ。なんなんだよ、お前らは!?」

「義勇軍だよ。たかが目新しい技術と、ご立派な人殺しの道具をちらつかせて、世界を変えるだと? 思い上がるなよテロリスト」


 漁村ビズヒルを占拠していた緋色革命軍は、クロード率いる義勇軍によって拘束され、牢へと放り込まれた。

 この時、マラヤデイヴァ国軍との戦闘の最中にあったレベッカは知らない。

 しかし彼女の脳裏では、シャンファで出会ったムラサキという少女の忠告が、まるで早鐘のように鳴り響いていた。


『心せよ、我が友、レベッカ・エングホルム。彼はきっと、我々のような存在にとっての天敵だ』

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