第295話(4-24)ポーカー・ハンド

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 クロードが思い返してみれば、エカルド・ベックには不自然な点がいくつもあった。

 なぜベックは、ラーシュばかりを執拗にこきおろしたのか?

 なぜベックは、最初から”異形の花庭ストレンジガーデン”を展開しなかったのか?

 なぜベックは、ラーシュを攻撃する際に、強化服の機能ではなくルーンオーブを用いたのか?

 なぜベックは、不毛な論争をふっかけて、時間を稼がねばならなかったのか?


(ベックは詐欺師だ。こいつが口にする言葉のすべては嘘。だったら何を騙そうとしているかを考えた方が早い。ひょっとしたらラーシュくんの神器こそが、こいつにとっての天敵だからじゃないか?)


 実のところ、ラーシュの能力は共闘にはあまり向いていない。

 彼自身を除くすべてのものを軽くしてしまうが故に、騎馬隊で崖から逆落としを狙うような、特定の条件下でなければ利用が困難なのだ。


(たぶん、ラーシュくんがマルグリットさんと組むことを前提に力を望んだからだ。だから、今のこの子は片翼の鳥で、自由に飛べない。そんな彼を恐れなきゃいけない理由があるとすれば、何だ?)


 最初に考えられるのは、”異形の花庭ストレンジガーデン”による攻撃がラーシュの干渉で軽くなり、有効打を与えられないことだろう。

 次に考えられるのは、ベックが防御する際に、速度を増した敵を捌ききれなくなる危険性だろう。

 けれど、おかしいのだ。前者ならばルーンオーブから放つ光線で焼けばいいし、後者ならば鉄壁の強化服で守ればいい。

 ベックに恐れる理由などないのではないか? 否――!


(これだけヒントが集まれば、僕だって気がつくさ。契約神器の魔力で、異なる世界の論理で作られた強化服を機能させる。エネルギーの変換は、そんなに容易いものか?)


 ショーコは、クロードに鮮血兜鎧ブラッドアーマーを秘めた義手を渡した際に、全力戦闘は半日に半時間が限度だと忠告した。

 ソフィが最初に試作した飛行自転車は、暴風にも弾丸にも負けない結界を展開できる代わり、使用者は一〇分で息があがってしまう欠陥があった。


(ドクター・ビーストの技術流用も同じだろう。何の問題も無いのなら、量産してなきゃおかしいものな!)


 つまるところ、緋色革命軍もまた研究段階なのだ。

 エカルド・ベックは詐欺師といえ、優秀だった。ゆえに、どうしてもここで試作品を破壊しておく必要があった。

 クロードは、ラーシュの力を借りて”異形の花庭ストレンジガーデン”を攻略、ベックを叩き伏せて火車切で魔術文字を刻み込んだ。

 禍々しい花々の咲く強化服は炎に包まれて、花弁や蔦も塵となって消えてゆく。

 

「熱止! ベック、これでお前の野望も終わりだ」


 奇しくも決着がついたのは、アリスたちが囚われた人質を奪回し、ヨアヒムたちがヘルバル砦を占拠した時間と同じだった。

 

「いいや、辺境伯。私たちの革命はまだ終わらない。最後の手札がここに揃った」


 ベックは鼻血を流しながら、ポーカーフェイスを作って微笑んで見せた。

 増水したオトライド川の方角から、船の駆動音と砲撃音が聞こえてくる。

 クロードの推理は正しかった。ベックは、第六位級契約神器ルーンオーブの力を馴染ませ、”異形の花庭ストレンジガーデン”を機能させるために、時間を稼ごうとしていた。

 ただもうひとつ、ポーカー・ハンドがあっただけ。困難なストレートやフラッシュが成立せずとも、ワンペアが出来ることを彼は確信していた。


「港町ツェアからの援軍だ。河川用とはいえ砲艦隊を相手に、貴方の仲間達はどこまで戦えるかな?」

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