第二部 悪徳貴族、死す?
第二部/第一章 悪徳貴族の再起
第43話(第二部第一話)プロローグ/これまでと、これから
43
ミッドガルド大陸南部に、マラヤディヴァという国がある。
国名の由来となった
復興暦一一〇五年/共和国暦九九九年。
大貴族のひとり、レーベンヒェルム辺境伯家の当主が没すると、当時一六歳だった末子クローディアスは、邪竜ファヴニルと盟約を結び、親族を皆殺しにすることで後継者の座を射止めた。
若き辺境伯は、己が支配を絶対的なものとするために、近隣の軍事独裁大国、西部連邦人民共和国の支援を受け入れ、悪逆非道の限りを尽くし始めた。
彼は先祖代々、レーベンヒェルム家に仕えてきた騎士や、官僚、代官、商人を
領最大の港である十竜港は、共和国に租借されて治外法権となり、他領へと続くトンネルもまた、共和国の悪質な工事で崩落して通行不能となった。
孤立したレーベンヒェルム領で、領民は共和国企業の運営する
復興暦一一○九年/共和国暦一○○三年。
いにしえの魔道知識を学んだクローディアスは、状況を打開すべく、『すべてを上手く収める異邦人を、己が手足として呼び出す』ために、
だが、召喚は失敗に終わる。哀れなる
ここで、誰も想像していなかった
クローディアス・レーベンヒェルムの命が消えたまさにその瞬間、異世界人、
運命か? 必然か? 異邦人の容貌は、クローディアス・レーベンヒェルムと酷似しており、ファヴニルは記憶を失っていた彼を、これ幸いと領主の影武者に仕立て上げることを決めた。
愛くるしい天使のような顔で、悪魔にも似た愉悦に興じながら、新しい
『第三位級契約神器ファヴニル』
邪竜と契約を交わすことで、新しい
しかし、ファヴニルの予想は裏切られた。
クロードは、ファヴニルの力に魅了されるどころか、忌むべきものと警戒した。
そればかりか、実権を奪われたお飾りの領主にも関わらず、レーベンヒェルム領をファヴニルと西部連邦人民共和国から解放しようと、領地改革に取り組み始めたのだ。
彼の挑戦は、容易なものではなかった。
クロードが持つ異界の知識や価値観は、レーベンヒェルム領の民衆に受け入れられるものではなく、
ファヴニルは嘲笑った。彼もじきに歪むだろう。もうちょっとで踏み外すだろう。これで狂わないはずがない。
なぜなら、クロードは、戦士としての恵まれた肉体もなく、自力で魔法を使えることにさえ気づいていなかったからだ。
彼にあったものは、人間としての良心と誇り。――誰もが持ち、容易く失われる、ごく当たり前の信念だけ。
クロードは、ただそれだけを胸に秘めて、一歩また一歩とレーベンヒェルム領を変えてゆく。
共和国企業をクビにされた怪我人や、荒くれ者の冒険者を雇って、農地を耕し、市場を開き、役所を再建した。
一方のファヴニルは、「赤い
それでもクロードは諦めず、テロリストから領民を守ろうと、自ら鎧を身につけ、刀を手に戦った。
多くの領民が彼を憎んでいた。多くの領民が彼を呪っていた。……それでも、レーベンヒェルム領を守ろうとする彼の熱意に
ここに至って、ファヴニルも理解する。自分が見出した者は、玩具などではなく、己の首を狙う”対等な敵”であったことに。
マラヤディヴァ国が招いた冒険者、ニーダル・ゲレーゲンハイトとの戦いで深い傷を負ったこともあり、ファヴニルはクロードに三年間の休戦を提案し、新しい契約を結んだ。
「千の昼を越えて、その日こそファヴニル、お前を討つ」
「千の夜を越えて、その日こそキミを全身全霊で
約束の日に備え、”悪徳領主”クロードと、”邪竜”ファヴニルは、それぞれのやり方で戦いの準備を進めてゆく――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます