第205話(2-158)討伐作戦開始
205
復興暦一一一一年/共和国暦一〇〇五年 霜雪の月(二月)二八日午前。
領主館で不可思議な友情が結ばれていた頃、ついに
先陣を切ったのは、イヌヴェ率いる騎馬鉄砲隊である。
ありったけの
「AAAAAAAAッ!」
血の湖が上げたのは、怒りではなく歓喜の叫びだった。
もはや小山ほどになった巨大質量で、待ちかねていたとばかりにイヌヴェ隊に襲いかかる。
「隊長、まるで効いていません」
「第一目標は果たした。転進する」
騎馬鉄砲隊に選抜されたのは、精鋭中の精鋭だ。
イヌヴェ隊は、血の湖から飛び出す赤黒い
血の湖による追撃は、まさしく
イヌヴェ隊が通過した無人の村が、あたかも象に踏みつぶされる蟻の巣のように消し飛んだ。
しかし、その瞬間、火の手があがる。
村民を避難させた小屋一帯に、予めトラップを仕込んでいたのだ。
「村一つを犠牲にした火計です。これならやれる――損傷確認できませんっ」
「耐熱能力まであるのか!?」
その後も、イヌヴェ隊は街道に仕掛けた無人ゴーレムによる猛毒の矢罠や、砦に偽装した麻痺の結界に誘い込んだものの、まるで有効なダメージを与えられなかった。
反面、巨大すぎるスライムはその重量からどうしても移動が遅く、加速呪文に守られた騎馬隊との距離を縮められない。
「AAAAAAAAAAAッ」
血の湖は、らちがあかぬと見たか、森の木々や家の柱を触腕でちぎってはイヌヴェ隊に投げつけ、更には竜巻や吹雪といった大規模魔法を連発してきた。
「馬鹿なっ。こんなの人間にできることじゃ……」
「アルフォンス・ラインマイヤーはきっと人間をやめたんだろうさ。心が弱いからなっ。第六位級契約神器ルーンシールド”雲垣”起動!」
イヌヴェ隊に同行するエリックが利き腕にはめた腕輪が輝き、騎馬隊を連なる雲の峰に似た障壁で幾重にも覆う。
障壁は一枚、また一枚と砕けてゆく。それでもイヌヴェ隊は、投木の雨をかわし、竜巻をぶち抜き、吹雪をつっきって、目的地を目指した。
だが、やはり速度の低下は否めない。
血の湖はとうとうイヌヴェ隊へと迫り、最後尾で
「ここは我々に任せてはやく離脱を――!」
「へん、この特等席は譲れねェよ。悪いな、アルフォンス。俺の命はとっくに好いた女に捧げてる。それに、おせっかいな友達もいるんだよ」
「第六位級契約神器ルーンボウ”光芒”起動!」
アンセルが本陣から放った特大の光弾が、血の湖へと
レーベンヒェルム領の契約神器中、最大級の破壊力をもつ砲撃が命中してなお、赤黒いスライムへ刻んだ傷は微少だ。
それでもエリックは間一髪で死神の鎌から逃れて、イヌヴェ隊もまたバナン川へと到着した。
「よっし、第二フェイズへ移行だ。ヨアヒム、やっちまえ」
「おうよ」
ヨアヒム率いる一隊が、河川敷に仕掛けた
作戦遂行のため契魔研究所で開発された新兵器である大綱は、空中で寄り結んで網に変化し、血の湖を縛り付けた。
「AAAAAAAAAAAAAAAAAAッ!」
「第六位級契約神器ルーンロッド”陽炎”起動!」
ヨアヒム隊は契約神器が引き起こす幻影の加護を受け、血の湖が網から逃れようと暴れながら放つ火球や氷柱を避けて、どうにか離脱に成功した。
「AAAAAAAッ」
標的を取り逃がした血の湖が姿を変える。
それは、数千体からなる赤黒い兵士の群れだ。
兵士たちは巨大網を潜り抜けて、イヌヴェ隊とヨアヒム隊を追いかけバナン川をくだった。
そうして、血の湖の軍勢が足を踏み入れたのは、複数の河川が交差して生まれた湿地帯、泥の平野だった。
レーベンヒェルム領軍総司令官セイが、イヌヴェ隊とヨアヒム隊に誘導された血の湖を、三領軍と共に待ち受けていた。
「
この日、クロードが血の湖討伐のために動員した兵力はおよそ三万。
待ち伏せに成功した三領軍は、半包囲した血の湖に向けて大砲と小銃と魔術を嵐のように撃ちかけた。
「AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAッ!!」
「アルフォンス・ラインマイヤー。たとえ何千人の犠牲者から力を奪っても、お前はたったひとりだよ。これが意志を重ねるただの人間の力だ!」
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