第581話(7-74)血肉の罠
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三白眼の細身青年クロードは、青髪の侍女レアが姿を変えた桜貝の髪飾りを結わえて、黄金の鎧をまとう竜人ダヴィッド・リードホルムと、飛行要塞の上で斬り合いはじめた。
「クローディアス・レーベンヒェルム。またオレの邪魔をするのかっ」
「ダヴィッド・リードホルム! 借り物の力で大口を叩くなっ」
クロードは姿勢を低めながら風のように接近し、右手に握る雷を帯びた刀〝
「ぐはああっ。借り物ではない、もうオレの力だっ。偽物貴族が大口を叩くなっ、やっぱり貴様が一番ウゼエ!」
ダヴィッドが血を吐きながら吼えるや、要塞内に風が吹き荒れて、彼の腹に刻まれた傷が埋まると同時に、内部の景色が一変した。
「た、たぬうう。変な砂人形が生えてくるたぬっ!?」
「バウワウっ(造形がダサいっ)」
わら人形か出来損ないの土偶か? 辛うじて人型を保つ不定形のサンドゴーレムが数千体、雨後のタケノコのように生えてきて、アリスとガルムに突進し――。
「幽霊姉貴っ、罠まで雑草のように生えたよっ。いったいどうなってるの?」
『ダヴィッドが飛行要塞のコントロールを奪ったのですわ。ええいっ、自動兵器といえこんなにあると邪魔ですわねっ』
ゴーレムを支援するように、自動発射式の大型弓やら床を埋め尽くす剣山やらが、溢れんばかりに出現した――。
「ひょうっ、この要塞は今やオレの腹の内も同じだ。食ってやるよ、悪徳貴族!」
「腹を壊すのが関の山だっ。決着をつけるぞ、エセ革命家!」
混戦状態となった要塞の中心では、クロードが振るう二刀とダヴィッドが突き出す竜爪が噛み合い、互角の火花を散らしている。
「畜生っ。オレはヒーローで、ドラゴンだぞ。クローディアス・レーベンヒェルムの偽物め。モブ野郎が抗うんじゃないっ!」
ダヴィッドは吠え叫びながら、黄金の小手を獅子顔の怪物に変え、尻尾を数百もの金蛇に分裂させて襲いかかってきた。
「そうだね、僕はただの人間だ。竜にも成れなければ英雄にもほど遠い。それでも、お前を倒すには充分なんだよ。ダヴィッド・リードホルム!」
されどクロードは、右手の〝
「思いあがるのもいい加減にしろ。オレは選ばれた革命家だ。お前達のような古い価値観にすがる、平凡なゴミとは違うんだっ」
「空っぽの独裁者め、どこの誰がお前を選んだって? 見ろよ、この戦場を!」
クロードはダヴィッドの顔面を蹴りつけながら、戦場となった一辺五〇〇m高さ一〇mに達する逆ピラミッド型岩盤を指し示した。
「たぬうっ。数ばかり多いたぬっ」
「バウワウっ(根性だよアリスちゃんっ)」
要塞の中では、クロードの恋人である金色の大虎アリスと戦友たる銀色の巨犬ガルムが、数百体にも及ぶ不格好なサンドゴーレムを四つ足でなぎ倒し――。
「教授と生徒さん達は、機関室にある弾丸を持ってきて。あたしは銃身が焼けおちるまでぶっ放す」
『おほほ。冷やすのは、お姉ちゃんに任せないっ。ゆーれーぱわーでヒェッヒェッよ!』
「うーん、慣れない戦場で疲れているのだろうか、何やら呑気な幻聴が聞こえる。いやこれは、ひょっとして
「「トーシュ教授、阿呆なこと言ってないでこれを運んでください」」
要塞突入に使った機関車の上では、薄桃色がかった金髪の少女ミズキが、妖刀ムラマサに宿る幽霊や、トーシュ教授と弟子達の力を借りて
「ダヴィッド、裏切りと粛清を続けた結果だ。お前の仲間なんて、もうこの世の何処にもいやしない」
「うるさいっ。世界がオレを選んだのだ。オレを認めないヤツは、生きている資格がない。これで論破あっ」
「そういうのは、敗北宣言って言うんだよっ」
クロードは二刀を横薙ぎに振るって、竜を模した鎧の爪を切り裂き――。
「オレはヒーローだ。ドラゴンだ。だから、必ず勝つんだよ!」
「寝言は冥府で言えっ」
ダヴィッドが兜から伸ばすツノを断ち、分裂を繰り返す尻尾を落とし――。
「まだまだあっ」
「それが、どうしたあっ」
黄金の鎧から射出される無数の鱗も、ことごとくを叩き落として見せた――。
「何故だあっ。オレは勝つ、お前は負ける。そう運命が決めたんだっ」
「ぜんぶっ、お前の妄想だっ」
ダヴィッドは装備を失い、半裸で掴みかかってくるも、クロードは拳で横面を張り飛ばし、岩盤上に叩きつける。
青黒い血や肉が、要塞の各処に飛び散って染みこんだ。
「ひひひっ。ひっ、ひつ、ひっ。悪徳貴族め、かかったな阿呆がっ」
ダヴィッドは土埃を舐めながらも、クロードを見上げて下品な顔でせせら笑った。
「オレ様は〝
「なにっ!?」
バラバラになった竜の鱗は赤色や黄色の毒々しいガスへと変わり、破損した鎧のパーツが落ちた石畳も灼熱の溶岩へと変貌する。
「ひゃははっ、死ねよやああっ」
――――――――――――――――――
あとがき
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