第101話(2-55)絶望的な撤退戦

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 復興暦一一一〇年/共和国暦一〇〇四年 木枯の月(一一月)一一日。

 マラヤ半島エングホルム領に上陸したクロードたち義勇軍は、撤退の最中にあった。

 さかのぼること三日前、クロードたちは商業都市ティノーの放棄を決めて、解放した村々に脱出を促しつつ、内戦への中立を宣言している都市国家シングに向かって撤退を図った。

 都市国家シングは協力を渋ったものの、領都エンガ等における緋色革命軍マラヤ・エカルラートの暴挙を目の当たりにして、民間人の一時的な受け入れと他領へ脱出だけは認めてくれた。

 しかしながら、レーベンヒェルム領の軍属であるクロード、アリス、ソフィ、アンセル、ヨアヒム、キジー、義勇兵の面々とローズマリー・ユーツ侯爵家令嬢は国境をまたぐことを許されなかった。

 都市国家シングの判断は、『卑劣なテロリストの横暴に屈した』とされ、終戦後に国家間でもめる一因となるのだが、クロードは彼らの慈悲に感謝していた。

 緋色革命軍への協力というのなら、西部連邦人民共和国が陰でおおいに協力していたし、アメリア合衆国までがちゃっかり出資をしたり便宜をはかったりしている。

 これらの国々は、『貴族制に反発する民衆の革命だと勘違いしたのだ』と弁明したが、”他国の国民を犠牲に利益を貪ろうとした”側面を無視できないだろう。

 緋色革命軍の実態が明らかになるにつれ、周辺国はその実態に戦慄し、やがて包囲網が敷かれることになるのだが――、それはまだ未来の話であり、クロードたちは八方塞ぎの苦境を打破しようともがいていた。


「アンセル、怪我人が最優先だ。次に子供、老人。なんとしてもシングへ送り届けろ」

「はい、リーダー!」


 クロードたちは徒歩で南下しながら、怪我人、子供と老人を優先して馬車に乗せ、アンセルが率いる一隊に先導させて国境まで脱出させた。次に女性を送り出した頃には、馬は疲れと怪我で動かなくなっていた。

 残された成人男性の数は相対的には少なかったものの、それでも千人以上が同行しており、加速の付与魔術エンチャントマジック瞬間転移魔法テレポートを駆使して順次送り出すものの、民間人を多数連れた義勇兵団の行軍は遅々として進まなかった。


「リーダー、間に合いますか?」

「ヨアヒム、間に合わせるんだ。道中各所に義勇軍って書いた旗を立ててきたし、伏兵を警戒させる細工も施してきた。上手くひっかかってくれれば、チャンスはある」


 クロードは、自分に言い聞かせるように呟いたが、残念ながら急場しのぎの策が通用するほど、緋色革命軍は甘い相手ではなかった。

 参謀として追撃部隊に参加したアンドルー・チョーカー隊長は、義勇軍の偽装をあっさりと看破し、怒涛どとうの勢いで迫っていた。

 木枯の月(一一月)一一日朝。義勇軍が、南に森を臨むベナクレーの丘に達した時、遂に彼らはやってきた。レベッカ・エングホルムが率いる騎兵一〇〇〇人と、一輪鬼ナイトゴーンに乗った菌兵士五〇〇体が北方の道を踏破してきた。

 対する義勇軍の戦闘員は一〇〇人に満たず、多数の民間人が同行している。ここにクロード達の命運は尽きた。


「使いたくはなかったが……」


 クロードは、もはやこれまでと覚悟を決めて、眼下の軍勢に向けてファヴニルの力を振るおうとした。

 だが、彼が宙から鋼鉄の鎖を呼びだそうとした瞬間、雷にでもうたれたかのように、全身を耐えがたい痛みが襲った。


「がっ、あっ……」

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