第310話(4-39)マルグリットの覚悟

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 クロードはネオジェネシスとの停戦の可能性を指摘することで、敢えて憎まれ役を買って出ることにした。

 ふと、楽園使徒アパスルのことを思い出す。彼らとの同盟は、最初から決裂が見えていた。

 楽園使徒が自ら公言していた通り、その目的はマラヤディヴァ国ヴォルノー島を西部連邦人民共和国の支配下に置くことだった。

 ゆえに、婚姻を利用した一時的な停戦があったとしても、国家の独立を守るためには最終的に排除するしかない。では、ネオジェネシスはどうだろう?


「マルグリットさん、ネオジェネシスの目的は未だ不明です。アルファさんだけを見て、判断を下すわけにはゆきません」


 たとえば解放軍の場合、アンドルー・チョーカーという個人をもって組織全体を判断すれば、酷いことになるだろう。


「辺境伯様。ブロル長官は、領都ユテスの住民の命を、ネオジェネシスの食事として生贄に捧げていました。わたしがこの目で見ています」

「……わかりました。でもマルグリットさん達は、たった今襲われたばかりです。感情的になっている可能性もある」


 クロードだってマルグリットを信じたい。しかし、彼女を信じるよすがは、ラーシュとの縁しかないのだ。

 それでは、クロードはともかく、他の仲間たちが納得しないだろう。だから作らなければならない。彼らを説得するための材料を。


「マルグリットさん。現状を踏まえた上で、貴方ならばどのように動きますか?」


 女男爵は俯いて即答を避けた。それだけ、クロードの見解が衝撃的だったのだろう。それでも覚悟を決めたか、毅然と顔をあげて持論を展開した。


「辺境伯様、解放軍は緋色革命軍マラヤ・エカルラートからユーツ領を取り戻すために、遥々この地までやって来られた。だから緋色革命軍ではない、ネオジェネシスと争う必要はないというご意見もわかります」


 マルグリットは、自分たちがブロル・ハリアン長官から見れば忌むべき裏切り者であり、狙われたことは当然だと告げた。


「しかし、人命を軽んじるブロル長官と、人間を下等種と見下してやまないアルファは危険です。あのウジたちネオジェネシスもまた、人に仇なす存在に他なりません。ですから……」


 マルグリットは思案したのだろう。情勢を分析して検討して、最善の答えを導き出した。たとえ彼女を助けたいというクロードの思惑に気がつかずとも。


「辺境伯様、御身は今すぐレーベンヒェルム領に戻られるべきです。ネオジェネシスの情報を集め、正しい判断をくだしてください。きっと一刻を争います」

「それは、無茶じゃないでしょうか?」


 クロードはひとまず否定したものの、実は不可能でないことを知っていた。

 レアが飛行自転車で警戒網を破って侵入したように、緋色革命軍の組織にも情報設備にも穴はあるのだ。


「困難を伴いますが、可能です。炭鉱町エグネは現在でこそ廃坑となって寂れましたが、かつてはユーツ領の産業を支えた交易拠点でした。だから、転移魔術支援の為の魔法陣が残っています」


 クロードは不敵に笑い、レアはわずかに表情を緩めた。アリスとガルムは話についけいけずに目を回し、テルはシェルクヴィスト家の女性家臣にニャアニャアと甘えていた。


「私たちが陽動のため駐屯地を攻撃し、囮になります。辺境伯様は、その隙に魔法陣をお使いください」


 マルグリットたちは寡兵に過ぎない。彼女が立てた作戦は、全滅必至の命を賭けたものだった。家臣達は、先程大きな怪我から回復したばかりだというのに、反対する者は一人としておらず士気軒高だった。

 クロードもまた、彼女たちならば命を預けるに足ると覚悟を決める。


「マルグリットさん、大丈夫です。貴方たちが加われば、万の援軍を得たに等しい。炭鉱町エグネを今すぐに攻略しましょう」

「え、はい?」


 何事かと目を白黒させる女男爵に、クロードは片目を瞑って親指をあげた。

 かくして、わずか一○余名による炭鉱町エグネ攻略作戦が始まった。

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