第128話(2-82)オーニータウンへ

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「「武器庫のこやしになってる契約神器!」」


 クロードたちは、これまで赤い導家士どうけしや山賊軍と戦い、多くの盟約者達を打ち破って武装解除させた結果、第五位から六位級の契約神器を大量に所持していた。

 しかしながら、契約神器とは、ただの武器ではない。自ら盟約者あるじを選び、契約を結ぶ意思持つ兵器なのだ。

 ゆえに契約神器を保有しても、レーベンヒェルム領に契約を結べる主は少なかったため、宝の持ち腐れとなっていた。


「パパの伝手つてで売ってくる!」

「大量の外貨ゲットだぜ!」


 こうしてレーベンヒェルム領は、使えない兵器の一部をアメリア合衆国や妖精大陸連合諸国に売却することで、鉄道敷設と運営のための予算を得た。

 泡をくったのは、これまでクロードが戦ってきたテロリストと、彼らを秘密裏に支援していた西部連邦人民共和国の地方軍閥である。特にイシディア方面に潜んでいた赤い導家士の残党は、この頃奪還作戦を目論んでいたものの、実行に移す前に売却されたために断末魔の呻きをあげることになる。

 史実において、赤い導家士を崩壊に導いた著名人として、本拠地である浮遊要塞グラズヘイムを陥落させたニーダル・ゲレーゲンハイトや、最後の大規模反乱を鎮圧したイシディア法王国騎士コーネ・カリヤスクの名前があげられることが多い。

 しかし、あえて付け加えるならば、赤い導家士の拡大期に痛恨の一撃を与え、イヌヴェ、キジーをはじめとする有能な人材と、大量の契約神器を奪ったクローディアス・レーベンヒェルムのことを忘れてはならないだろう。

 少なくとも、この時期、クロードは、マラヤディヴァ地方近郊に潜むテロリストたちの熱い視線を一身に集めていた。


―――

――――


 復興歴一一一〇年/共和国歴一〇〇四年 木枯の月(一一月)二八日午後。

 クロードは、アリスを伴ってオーニータウンの市街地を訪れた。

 鉄道敷設工事全体の契約締結こそまだだったが、準備工事の契約はすでに結ばれて、作業員の宿泊施設の建築や、各種建設機材の運搬がすでに始まっている。

 王国は、マラヤディヴァ地方へ進出する足掛かりになると見て、営業に熱心であり、模型モデルや線路の実物などを持ちこんで展示していた。


「クロード、鉄の棒が並んでいるたぬ。あれが線路たぬ?」

「そうだよ、アリス。あの鋼でできたレールの上を列車が通るんだ」

「じゃあ、下にある木の板と小石は何たぬ?」

「木は枕木、細かく砕いた石はバラストだよ。どちらも、列車の重みや走行の衝撃からレールを守るそうだ」

「ほぇええ。あ、猫さんがいるたぬ。親子で可愛いたぬぅ♪」


 近所の野良猫なのか、母猫が展示された線路の傍で子猫たちをあやしつけていたのだが、アリスを一目見るなり、雷に撃たれたかのように一番小さな子猫をくわえて逃げ出した。


「猫さんたち、行っちゃったぬ」

「げ、元気出せ。お腹が減ったんだよ、きっと」

「クロード、なぐさめてくれるたぬ?」

「ああ。売店で果汁でも買うか?」

「じゃあ、さっきの母猫さんみたいに、たぬを甘噛みするたぬ」

「できるか!」

「なんでたぬ!?」


 うなじを見せて抗議するアリスと、真っ赤になって抵抗するクロードに向けて、何者かが念写器を向けてパシャリと撮影した。

 とっさに振り返ると、ハサネ刑務所長が音もなく近くまで忍び寄っていた。


「悪徳貴族、仕事中にイチャコラする。来週のメイン記事は決まりですね」

「ハサネ。内職で週刊誌に情報を売りつける刑務所長ってどうかと思うよ」

「失敬な。辺境伯様、これは内職ではなく、れっきとした趣味です!」


 利益ですらなく、趣味で領主のスキャンダルを売る公安情報部のトップという惨状に、クロードは天を仰いだ。


「ハサネのおいちゃん、あとで念写真を分けて欲しいたぬ」

「ふふふ。アリスさんの頼みとあれば仕方がない。なんならここでブチュっといきます?」

「キス、たぬ? 恥ずかしいたぬ……」

「よーし、ハサネ所長。そこを動くなよ、外れるから」


 額に青筋を立てたクロードが足先で魔術文字を刻むのを見て、さすがにからかい過ぎたと思ったか、ハサネは真顔に戻った。


「お二人とも、こちらへ。ブリギッタさんがお待ちです。昨日、ルクレ侯爵が暗殺されました」


 クロードの目から温和な光が消えて、三白眼に強い灯火が宿る。

 アリスもまた微笑むのを止めて、鼻を三度鳴らした。


「どうした、アリス?」

「ううん。尾行されてる気がしたぬ。でも、気のせいだったみたいたぬ」


 三人は警戒しつつ、屋内へ向かって歩き出した。

 非常に優れた聴覚、嗅覚をもつアリス。異常なまでに勘の良いハサネ。探査魔術を駆使するクロード。彼らの認識から逃れるのは、並大抵のことではなかった。

 しかし、物陰から三人を窺う視線の主は、見事にその高いハードルを突破していた。


「……ええっと、いつまでも隠れているわけにはいかないけれど、どうしたものかしら?」

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