ゆっくりの食事
ホームズさんは仕事があると言ってそそくさと退散してしまった。
三の鐘を回っていたし、申し訳ないと思いながらも鍛冶成功の可能性を見出せたので感謝しなければいけないね。
カズチとルルはまだ部屋に残っているけど時間は晩ご飯時期である。自然と食堂に向かおうとなり、ガーレッドも連れて部屋を後にした。
「食堂で先輩と会わないかな?」
僕の懸念は一つだけ、鍛冶勝負をふっかけてきた先輩と鉢合わせにならないかだ。
食堂でも怒鳴られたくないし、何よりミーシュさんの迷惑になってしまう。
ご飯を食べずに追い出されたくないので気になるところだ。
「顔は合わせるかもしれないけど、入口の時みたいにはならないと思うぞ」
「そうなの?」
「……ミーシュさんの前で喧嘩なんかしてたら、ぶん殴られるからな」
「料理長、怖いもんねー」
そういえば、食堂の場所の件で職人たちを黙らせたとか言ってたっけ。それなら安心、なのかな?
「でも、料理長はとっても優しい人だから大丈夫だよ!」
「ルルもたくさん休みもらってるしな」
「そ、それは言わないで!」
「ちゃんと理由がある休みだからいいんじゃないの?」
仕事が嫌、サボりたい、そんな気持ちでのズル休みではないのだ。
ミーシュさんも友達の為ならと休みを与えているわけだから、ルルが恥ずかしがることではないと思う。
「あー、お腹空いたよー!」
「あれだけ鍛冶をやってればそうなるよな」
「お昼のカズチくんもたくさん食べてたもんね」
「あれはやばかった。久しぶりに満腹食べたいと思ったからな」
笑い合いながらの道中はとても早く感じられ、気づけば食堂に到着していた。
混み合っていたものの席は確保でき、さらに先輩の姿も見られなかったのでホッとしていた。
「注文は私がまとめて言ってくるよ。何にしようか?」
「「オススメセットで」」
「あはは! いつもそれだね」
笑いながら立ち上がったルルがカウンターへと小走りで向かう。
僕は机の上でダレようとしたのだが、こちらに視線が集まっていることに気がついた。
「……何だろう」
「……鍛冶勝負のことが伝わってるんじゃないか?」
「……あー、そうかも」
何故だか小声になる僕とカズチ。
そこに戻ってきたルルはポカンとした表情で首を傾げていた。
「どうしたの?」
「いや、何でもないよ」
「小声にする理由もないしな」
鍛冶勝負の話が広がっていたとしても、それは特に問題ではない。
ならば堂々喋ればいいのだと思い直した。
「明日はどうするの?」
「ホームズさんと要相談かな。午前中は鍛冶を見てもらう予定だけど、夜の二の鐘までは考えてないんだよ」
「俺は錬成部屋で練習かな」
「私も連続では休めないかも」
「いや、二人はちゃんと自分のことをやろうね」
何だか僕が二人を無理やり休ませているみたいじゃないのよ。
まあ、付き合ってくれるのは嬉しいんだけど。
「ユウキやフローラさんもギルドの仕事があるだろうし、連日は――」
「フローラさんは明日ギルドの仕事があるって言ってた! うん、だからダメだと思うよ!」
「……う、うん、そうだろうね。……ど、どうしたの?」
「へっ? いや、何でもないよ! あははー!」
ものすごく気になるんですけど。
ルルとフローラさんは台所で料理を作ってたし、その時に明日の予定でも聞いたのかな。
「うーん、やっぱりホームズさんと要相談だね」
「ホームズさんも忙しいからな?」
「そ、それくらい分かってるよ」
「分かってなさそうだねー」
ふ、二人とも酷い!
「はいはい、話はそれくらいにしなよ!」
「ミーシュさん、こんばんは」
「あいよ、オススメセットが三つだね!」
「結局ルルもオススメセットかよ」
「だって、美味しそうだったんだもん」
「あたいの作る料理はどれも美味しいよ!」
テーブルに乗せられた料理の数々を見て、僕のお腹が盛大に鳴り響く。
肉メインのセットではあるが、副菜やスープなどにはふんだんに野菜が使用されている。
栄養バランスを考えてのメニューなのだろう。
あまりの空腹に早速一口。
「――お、美味しいですね〜!」
「ふふん、当然だよ!」
ミーシュさんは胸をドンと叩いて自信満々にそう告げると、台所に下がっていった。
その後の僕は一心不乱に食事を続けた。
カズチとルルが唖然としながらゆっくり食事をしているのが横目に入ったけど、そんなことは関係ない。
今の僕は猛烈にお腹が空いているのだ!
「――ゴフッ!」
「あーあ、やると思った」
「ジンくん、水だよー」
「……ぷはあっ! ご、ごめん。ありがとう」
あ、危ない、死ぬかと思った。
その後はゆっくりと食事をとる。お昼に食べたルルとフローラさんの料理も美味しかったけど、やはりミーシュさんが作る温かみのある味には敵わない。
ガーレッドにもお裾分けしながら、今日の晩ご飯にも満足して部屋へと戻っていった。
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