魔導スキル 実技編②

 キルト鉱石が乗った錬成布れんせいふの下に魔導陣まどうじんを敷く。

 僕が受け取った鉱石よりも質は落ちるが、それでも練習用としては十分使えるものだった。


「普通に錬成を行う場合は、錬成陣に光属性を通わせてリースを発動させますよね」

「そうだな」

「付与を行う場合は、浄化が完了した時に下に敷いている魔導陣にも光属性を通わせる必要があるんだ」

「はーい! 質問です!」


 僕は手を上げてユウキに声をかける。


「なんだろう、ジン」

「今回の魔導陣は火属性なのに、光属性を通わせて大丈夫なんですか?」

「大丈夫だよ。付与とはあくまで錬成師の作業として発展してきた技術なんだ。大昔までは僕も分からないけど、今の術式には錬成師が付与しやすい様に光属性で付与できる術式が組み込まれているんだ」

「へぇ、すごいんだね」

「それに、各属性を持っていないと付与できないってことは、使用者にも同様なことが起きてしまうと考えられないかな」

「ど、どういうことでしょうか?」

「火属性の付与効果が欲しいのに、火属性を持っていないと恩恵に預かれない、なんてことになったら意味がないでしょう?」

「た、確かにそうですね」

「付与に関しては、その属性を持ってない人の為に開発された技術なんだよ。だから錬成の時にも各属性が必要にならないように研究されてきたんだと僕は思ってるよ」


 先人たちは様々なことを研究して、僕たちに残してくれている。そのおかげで僕は鍛冶や錬成以外でも生産に従事できるようになったのだから感謝しなければいけないね。


「それじゃあカズチ、準備はいいかな?」

「あぁ、大丈夫だ」

「浄化が終わったタイミングで錬成布から下に敷いてる魔導陣に魔力が流れるよう調整することが必要になるから、構築をする前に声をかけてね」

「分かった」


 錬成布の手をかざして光属性を注ぎ込んでいく。

 カズチの魔力は錬成陣に流れるように注がれ、数秒で満たされた。


「は、早いね!」

「まあ、これくらいはな」


 ユウキの褒め言葉に少し照れたように呟いたカズチは、すぐに気を引き締めて錬成を開始した。


 黄色いキルト鉱石の表面が徐々に溶け始めて液体に変わっていく。

 しかし普段のカズチの錬成とは異なりゆっくりとした変化だ。


「カズチ、どうしたの?」

「あー、そっか。ジンは銅しか、錬成してないんだよな」

「う、うん」

「これが終わったら、教えるよ」

「分かった、邪魔してごめんね」

「いや、大丈夫だ」


 どうやら色々あるようだ。

 鍛冶もそうだけど、錬成も一筋縄ではいかないね。

 この調子だと魔導もカンストするには相当な勉強量が必要になりそうで楽しみだな。


 そんなことを考えている間にもカズチの錬成は進んでいく。

 分解が終わり、次の除去へと移ったところでガーレッドが除去された不純物の一つを嘴で摘んでしまう。


「あっ! ガーレッド、それは捨てるものだから食べちゃダメだよ!」

「ピキュー?」

「それ、返して」

「ピキャ!」

「えっ、なんで嫌なの?」


 まさかの反抗期か? そう思っていたのだが、どうやら違うようだ。


「……なるほど。ジン、ガーレッドはそのままにしてていいよ」

「えっ、ダメだよ、あれゴミだもん」

「あれはゴミじゃないよ。とりあえず大丈夫だからこっちに集中してね」

「そうなの? それならいいけど」

「ピキャーン!」


 なんかテンションも高いし、まあいっか。

 カズチの錬成も除去が終わり、錬成の工程で最も重要な浄化へと移る。

 今回は浄化の後に行う付与がメインなのだが、カズチとしてはやるからには全力を尽くしたいのだろう、大粒の汗を流しながら集中していた。


「き、綺麗ですねぇ」

「フローラさんは錬成を見るの初めてなの?」

「はい。これほど綺麗で美しいとは思いませんでした」


 ケルン石の群青色とは異なり、黄色いが光り輝く光景は黄金の海を見ているようで神々しく見える。

 ……改めて、ソニンさんが銅を選んだのが勿体無さ過ぎるよ。


「……よし、浄化も終わるぞ」

「分かった。錬成布の下に魔導陣を描いた布を敷いたけど、右側にはみ出している部分があるのは分かるかな」

「あー、あれか」


 ユウキが言うように、錬成布から少しはみ出して魔導陣の一部が見えていた。


「構築を行う前に、あそこに光属性を注いでくれるかな。魔導陣に魔力が満たされると火属性の場合は赤色に輝くから、それが見えたら構築を始めてね」

「分かった…………よし、上手く流せそうだ」


 視線を魔導陣に向けて魔力をそちらに流していく。

 手をかざす行為は魔力の通りを促す為だと聞いたけど、視線だけでも魔力の流れを誘導できるんだね。

 鍛錬あるのみだな。


「……おぉ! 本当に赤い光が現れたよ!」

「黄色い光と赤い光が同時に……先程よりも本当に綺麗です!」

「うわー! 私もこれは初めてだな、カズチくんすごいね!」

「カズチ、いけそうかい?」

「任せとけ、最後まできっちりこなしてみせるさ」


 ケルン石とは異なり形にこだわる必要はない。

 一番シンプルに丸型で構築を開始したカズチは、ゆっくりではあるものの数分で構築を完成させた。


「で、出来た、のか?」

「完璧だよ。気になるなら確認してみようか」

「えっ、どうやって確認するの?」


 笑顔のカズチは庭を指差して答えた。


「実際に火属性がどのように変わるのか見てみようか」


 室内で火属性を使うのは怖いものがある。僕たちは庭に出て確認を行うことにした。

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