暇な病院生活
目覚めてからの数日はとても、とても暇だった。
毎日をベッドの上で過ごし、時折院内を散歩したけれど一日で回ることが出来たのでそれ以降は特に目新しいものもない。
包帯を替えに来てくれるおばちゃんと仲良くなったくらいで、ただただ退院する日が待ち遠しかった。
そんな日が一週間続いたある日、久しぶりにカズチが顔を見せに来てくれた。
「よう、元気か?」
「元気なのに病院から出られないので非常に暇です」
「ピーキャー」
「ガーレッドもダレてるな」
ガーレッドも僕と同じなのです。外にも出られないから病室だけでしか過ごせないのでダレているのです。
「ほらこれ、ジンが読んでた歴史本だ」
「えっ、いいの? ソニンさんからはダメだって」
目覚めた日、せめて本を読みたいと懇願したのだがソニンさんからはゆっくり休みなさいと却下されていたのだ。
「いや、お前あの時は鍛冶か錬成本を! って言ってただろ、だからだよ」
「どういうこと?」
「そっちを読んだら休むのもそっちのけで読みそうだからって、副棟梁は禁止したんだよ」
……よ、よく分かっていらっしゃる。
「暇してるだろうと思って歴史本ならいいかと思ってな。副棟梁に確認したら了承が出たんで持ってきた」
「ありがとう。丸一日ガーレッドと遊ぶ日もあってさ。ガーレッドは楽しそうなんだけど、さすがに僕が飽きて来ちゃって」
「ピキャー!」
「あっ、ごめん、怒らないでよ」
ガーレッドが僕の足の上でピョンピョンと飛び跳ねる。
英雄の器のせいなのか、今では怪我もほぼ完治していた。
前の時と同様に経過観察に入っており、問題がなければ予定より早く退院出来るかもしれないと言われている。
「まあ、俺だったら暇でもそんな本読もうとは思わないけどな」
「そうかな? 結構面白いのに」
僕の場合は転生者と思われる人の話だからかも知れないけど。
「ガーレッドも大変だよな。どうだ、俺と一緒に一度本部に戻るか?」
「ピギャ!」
「何だって?」
「ヤダ!だって」
「本当に好かれてるよな、お前」
「何てったって親ですからね!」
「ピキャン!」
ガーレッドからも同意をもらい、少しカズチと話すことにした。
「それとよ、個人契約だったか? あれ、了承が出たんだ」
「おぉっ! 凄いね、おめでとう!」
「契約内容としては、クラン所有の素材を使うわけだから仕入れ値分と俺に収益があるように値段設定をして、仕入れ値分をクランに戻すってことなら問題ないってさ」
「まあ、それが妥当かもね。僕が言ってた内容だけだと未来投資とはいえクランにはしばらくの間マイナスしか出ないもんね」
最終的に回収出来るなら問題ないけれど、それは個人の問題にも繋がってしまう。
「……個人契約をやってる人がずっとクランにいるとも限らないしね」
「そうだな。俺は抜けるつもりなんてないけど、他の人は分からない。自分の作品が売れると分かってクランを抜けられたらマイナスしか残らないからな」
「そこを契約で縛っちゃうと、個人契約自体が無くなりそうだもんね」
簡単に言ってはみたものの問題は多い。
実際クランを運営している者から見れば穴だらけなんだろうな。
「それでも、出来るってなったなら頑張るだけさ」
「うん、そうだね。カズチが錬成した物が出回るんだよ、楽しみだね」
「売れればの話なんだけどな」
「なに、自信ないの?」
「あるに決まってんだろ!」
ムキになっちゃってまぁ。
でも、これがカズチの第一歩なんだよね。自信をつける意味でも、成功してもらいたいな。
僕が手助け出来ることって何だろう。
「そうだ! ユウキとホームズさんが大量に素材を取ってきてくれたみたいだから、装飾に使えそうな物があったらあげるよ」
「でも、それって銅とかキルト鉱石だろ? そういえば装飾品の加工にもおすすめってダリアさんが言ってたな」
「もしかしたら、それ以外の物もあるかもしれないし。……本当に大量みたいだから」
「そんなにか?」
「冒険者ギルドで預かってるみたいだよ」
「うーん……まあ、余ったらお願いしようかな」
余らなければそれでも構わないとカズチが言うので、僕もそこは頷いた。
「でも、欲しいのがあったら絶対に言ってよ。カズチにもお世話になってるんだからさ」
「何だそりゃ、気持ち悪いな」
「あ、でもそうなるとクランの所有物を使うわけじゃないから取り分も変わってくるのかな?」
「あー、どうだろう。そのあたりも詰めていかないといけないな。サラおばさんにも協力してもらわないと管理が出来そうにない」
「初めての試みだし、仕方ないね」
何でも先駆者は大変なのだ。
分からないことも手探りで進んでいかなければいけないんだからね。
僕もカズチに負けじと錬成を勉強しなければいけないな。
「よし、僕も頑張ろう!」
「その前に怪我を治すことだな。副棟梁に怒られるぞ」
「……はーい」
……やる気が急降下だよ。
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