真面目な話

 何だろうと思いながらも、立たせたままも悪いと思って中へ促す。


「ごめんね、遅い時間なのに」

「僕は暇だなーって思ってたから構わないよ。どうしたの?」


 椅子に腰掛けてからユウキが口を開く。


「いや、フローラさんのことなんだけどね。あの後、リューネさんの助けも借りてだいぶ落ち着いてきたんだ」

「そうだったんだね。まあ僕は泣かれちゃったけど」

「あはは、確かにそうだね。……それでも、本当に落ち着いたんだ。最初の頃は悪魔が倒されたところを目にしていたはずなのに震えが止まらなかったくらいだからさ」


 そこまで追い詰められていたなんて知らなかった。

 普段の人となりを知らないけれど、今日見た彼女は普通の女の子だったように思える。


「ただね、北の森には今も近づけないみたいなんだ。あの時の恐怖が蘇ってくるみたいでさ」

「そうなんだ。でも、急に変わることはできないと思うよ」

「そうだね。だから、少しずつ心の傷とも向かい合えるよう僕もサポートしようと思う」

「ユウキはやっぱり優しいね」

「そ、そうかな?」

「そうだよ。普通なら昨日今日会ったばかりの人を助けようなんて思わない。僕なら大変だね、助かるかな、で終わっちゃうもの。ケルベロス事件の時もそうだよ。出会ったばかりの僕のことを危険を顧みず助けに来てくれた。改めてだけど、本当にありがとう」


 僕の言葉にユウキが目を見開いて驚いている。

 でも、これが僕の本心だから驚かれても困るのだ。


「……ジンは凄いな」

「えっ、何が。今の会話の中にそんな要素一つもなかったけど」

「そう言うことじゃなくてさ。僕がお礼を言おうとしてたのに先に言っちゃうだもん」


 そうだったの? いや、でもお礼はもう聞いたしなあ。


「今回の件は僕がみんなを止めるべきだったんだ。それこそ、ダリアさんや師匠に相談してでもね。僕の失態が原因でジンは大怪我を負ってしまった。本当に申し訳ないと思ってる。そして、それ以上に助けに来てくれた時は本当に嬉しかった。本当に、本当にありがとう」

「そこまで改まって言われるととても恥ずかしいんだけど」

「そうだよね、ごめん」


 だけど、ユウキの感謝の念ははっきりと伝わった。こうして言葉にしてもらえると嬉しいものだね。


「フローラさんとパーティを組んでいた人たちのこと、事前にダリアさんには伝えていた方がいいと思うよ」

「……そうだね。何かあってからじゃ遅いもんね」

「ユウキにも難癖つけてくるはずだし」

「例えば?」

「パーティメンバーを引き抜くんじゃねえ! とか、泥棒! とか?」

「あはは、どれもありそうだね」


 畏まった空気もなくなり、笑いながら会話が弾んでいく。

 僕も気づいたことがあれば伝えていこうと思う。

 ユウキには本当に感謝しきりだ。僕の方こそあれくらいのお礼じゃ足りないくらいなんだけど、畏まった空気もなくなったわけだし今はいいか。


「それと、これは別件なんだけさ。師匠と依頼をこなしたって言ったけど、僕個人としてもジンに渡したいものがあるんだ」

「えー、別にいいのに」

「そういうと思ったけど貰ってよね。僕には使い道がないものだから」


 そう言って取り出したのは採掘したばかりと見られる金属の塊だ。

 何の金属なのか見ていると――突然金属が輝きだした。


「うわー、何これ? めっちゃ眩しいんだけど」

「ピッピキャー」

「えっ? 眩しいって、これが?」

「……ユウキには、見えてない?」


 そういえば前にゾラさんから素材の見極め方を習ったな。これがそうなのかもしれない。

 でも、この存在感は半端ないんだけど。ガーレッドもなんか驚いてるし。


「ユウキ、これどうしたの?」

「今回の報酬で買った素材だよ。ソラリアさんのお店にあったんだ」

「あのお店、何でも置いてあるね。でも、こんな高価なもの貰っていいのかな?」


 おそらくホームズさんは報酬を受け取っていないだろう。ならば依頼金の大銅貨二枚と中銅貨三枚が丸々掛かってるんじゃないかな。


「あー、実は悪魔討伐の報酬として臨時収入があったんだ……結構な額のね」

「……なるほど。それじゃあ、ありがたくいただこうかな。でも、これ本当に何なの? もの凄く良い物ってのは分かるんだけど」

「ソラリアさんが言うには、オリハルコンって言う稀少な金属みたいだよ」

「オリハルコンですか!」

「えっ? ジン知ってるの?」

「名前だけなら!」


 ゲームの世界でも幻の金属とか言われる素材。オリハルコンで作られた武具は伝説級の武具になるのが定説。

 ……いやでも待て、それならマジどうしてソラリアさんのお店にあるんだよ!


「まさか、それもセール品?」

「それはないない、ちゃんと正規の金額だったよ。それでも割引してくれたけどね」

「……ソラリアさん、マジ何者」

「……だよねー」


 最後には変なところから謎が残ってしまったが、まあいいだろう。

 この世界には僕の分からないことばかりなのだ。

 オリハルコンは一旦ユウキに預かってもらい、退院した時に本部まで持ってきてもらう約束をして別れたのだった。

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