退院と大量の素材

 退院までの間、歴史本を読むのとガーレッドと遊ぶのを繰り返していた。

 そしてカズチが来てくれた二日後、経過も良好とお医者さんの太鼓判をもらい僕は退院した。

 お迎えにはホームズさんが来てくれて、本部へと戻る前に冒険者ギルドに立ち寄る。


「結構な量があるって聞きましたけど、実際にはどれくらいの量になるんですかね?」

「私が使う魔法鞄マジックパックの三分の二が埋まりましたから……まあ、相当だと思いますね」

「えっと、魔法鞄って?」


 いや、おそらく僕はどんなものか知っている。

 悪魔事件の時にもホームズさんの鞄に見た目容量とは明らかに異なる量のポーションを突っ込んでいたんだから予想通りのはずだ。


「ある一定の空間に道具を保存することが出来る鞄のことです。物にもよりますが、私の物はそれなりに良いものだと思いますよ」


 やっぱり、そういうものか。

 非常に便利だけど、とても高価な鞄ってのが通例なんだよね。


「……その量って、僕の部屋に入りますか?」

「……」


 無言のホームズさん。

 ……うん、それだけで答えになってしまうからね。入らないんだね。


「わ、私が昔使っていた魔法鞄があるので、それをコープスさんにお渡しします」

「えっ、それは悪いですよ。魔法鞄って……その、いくら位するんですか?」

「……大金貨が――」

「ください、お願いします」


 やっぱりね!

 そんな大金をすぐに準備なんて出来ません。

 僕が作った武具を売れれば出来るかもしれないけど、それはクランに迷惑を掛けるだろうし、ここにはここのルールがある。それを大きく逸脱するわけにはいかない。


「構いませんよ。本当に使っていませんから」

「ありがとうございます」


 話しながら歩いていたので気づけば冒険者ギルドに到着していた。

 中に入るとホームズさんは大人気で多くのベテラン冒険者から声を掛けられていた。

 それら全てに返事を返しながら、一分程で到着するはずの依頼者窓口まで五分以上も掛けながらダリアさんのところに到着。


「あらあら、大人気なのね、破壊者デストロイヤーさん」

「からかわないでください」

「こんにちは、ダリアさん」

「こんにちは。元気になって本当に良かったわ」


 頭を撫でられながらそう言ってくれる。

 少し恥ずかしいけど、ここは断っていいところではないので成すがまま。


「さて、今日は素材を受け取りに来たのよね」

「はい!」

「でも量が量だからねぇ」

「私の魔法鞄に入れていきますよ」


 それならと、素材を保管している場所に案内してくれた。

 職員しか入れない倉庫の一室へ案内された僕は、そこで保管されている大量の素材を目にして固まってしまった。


「……えっ、いや、その、えっ?」

「そうよねー、そういう反応になるわよねー」


 倉庫の大きさは縦横五メートル程の大きさで、高さは三メートル程である。

 その大きさの倉庫の半分が素材の山で埋まっているのだから反応に困ってしまうのも仕方ないはずだ。


「多過ぎですよね!」

「同僚からも私が文句を言われちゃうから困ってたの。退院初日に受け取りに来てくれてありがとね」

「……も、申し訳ありません」


 僕もそうだが、ホームズさんにも自重が必要なようだ。個人的には嬉しいんだけどね。


「そ、それじゃあ早速詰めていきますね!」


 ホームズさんが慌てて素材を魔法鞄に詰め込んでいく。

 あまりの慌てように僕とダリアさんは声を出して笑ってしまったくらいだ。

 山のように積まれていた素材は、意外にも数分で魔法鞄の中に片付いてしまった。

 ……そんなに急がなくても良かったのに。


「さて、それでは行きましょうか」

「あっ! ちょっと待ってください。ダリアさん、ユウキとフローラさんは大丈夫そうですか?」


 僕の言葉にユウキから事情を聞いているだろうダリアさんは微笑みながら二人の様子を教えてくれた。


「二人は順調に依頼をこなしてくれてるわよ。ユウキくんが受ける依頼は都市内のものも多いけど、フローラさんも積極的に参加してくれているみたいだし問題はなさそうね」

「元パーティメンバーは?」

「フローラさんの元パーティメンバーにはギルドの職員も目を光らせているわ。依頼履歴も見てみたんだけど、典型的な早く上に上がりたい子たちみたいだから、受けさせる依頼にも気をつけているの」

「接触はないのかな?」

「うーん、ギルド内では特にないかなぁ。ユウキくんやフローラさんからもそう言った話は聞かないわね」


 もう諦めてしまったのか、それとも人の目を気にしているのか。

 どちらにしても今のところ何もないのなら一安心だ。


「ジンくんは心配性なのよ」

「でも、そのパーティメンバーだった人たち酷いんだもん」

「まあ、私も話を聞いた時は憤ったけどね。だからこそ、ギルドも気にしているの。だから安心してちょうだい」

「はい、分かりました」


 ここまで言ってもらえれば安心だ。

 冒険者ギルドもユウキがケルベロス事件や今回の事件の功労者だと判断してくれているのかもしれない。

 下級冒険者にこれだけ力になってくれているんだからね。


「ありがとうございます。ホームズさん、お待たせしました」

「大丈夫ですよ。それでは」

「うん、気をつけてね」


 ダリアさんと別れた僕たちは冒険者ギルドを後にして、僕とガーレッドとしては久しぶりの『神の槌』本部に戻ってきた。

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