騎士団長と第五部隊長

 ――コンコン。


「入れ」

『――失礼します』


 開いた扉から入ってきたのは国家騎士の鎧を身に纏った金髪が肩まで伸びる女性と、腰まで伸びる青髪の女性の二人。


「騎士団長、ポーラ・ストラウスト、入ります」

「第五部隊長、オレリア・パーシバル、入ります」


 名乗りを聞いた僕は、心の中で疑問符が浮かんできた。

 だって、第五部隊長の人の名前、オレリア・って言いませんでしたか?


「……カマドにリューネさんを訪ねて来た国家騎士の方ですね」


 ぼそりと、ホームズさんが呟いた。

 しかしオレリアさんはホームズさんに気づいていないようだ。

 ……まあ、格好が格好ですからね。

 二人の報告は、僕達の目の前で行われた。


「ゾラ様達と一緒に捕らえられていた冒険者達の無事を確認いたしました」

「今は王派が集まる一室にて保護しております」


 ポーラ団長、オレリア隊長の順番で報告がなされると、ユージリオさんが労いの言葉をかける。


「ご苦労だった。それと、二人もこの場に残ってくれ……色々と説明が必要だからな」


 それは、国家騎士間の争いやオレリア隊長についてだろうと僕は予想を立てた。

 権力争いは当然として、反旗を翻したレオナルド副団長と同じ名前なんだからね。


「……この度は、私の父、レオナルド・パーシバルがあってはならない謀反を企てていたこと、そして皆様を命の危険にさらしてしまったこと、娘として心よりお詫び申し上げます。誠に、申し訳ありませんでした!」


 直角になろうかというくらいに腰を曲げて謝罪を口にしたオレリア隊長。

 ホームズさん以外は困惑顔である。まあ、首謀者の娘を信用のおける者としてオシド隊長は口にしていたからだろう。

 もしかしたらポーラ団長のことを指しての言葉だった可能性もあるが……さて、どうなのだろうか。

 案の定、ホームズさんが追求する為だろう口を開いた。


「ですが、貴方はリューネさんに脅しを掛けましたよね?」

「カマドの役所にいた女性の方ですね。……誰にも言ってはいけないと伝えていたのに、貴方には伝えていたのですか」

「私はあの事件の当事者ですが?」


 そこまで口にして、オレリア隊長は怪訝な表情を浮かべる。


「貴方が、当事者ですか? 確か、ハンクライネ様以外では元冒険者のホームズ様、新人冒険者のユウキ様とフローラ様、この四人だと聞きましたが?」


 ユウキの名前が出た時にはユージリオさんの表情が、僅かだがピクリと動いていた。

 ……家を出たとはいえ、やはり子供のことは気になるのかもしれない。


「……貴方が、フローラ様なの?」

「違います!」

「くくくっ、ザリウスよ、今は仕方がないのではないか?」

「ゾラ様まで!」

「ザリウス? ……えっ、まさか、ザリウス・ホームズ様!」


 オレリア隊長の驚きの声に、ポーラ団長も目を見開いてホームズさんを見ていた。

 ……ホームズさん、あなたの女装は完璧なんです。眼鏡さえなければソニンさんの目も誤魔化せたはずなのです。

 そんな女装を、ヒントなしに見破れるわけないじゃないですか。

 それなのに、なんでそんなに落ち込んでるんでしょうか?


「……あ、あの、破壊者デストロイヤーが」

「……女装趣味とは!」

「正体を隠して侵入する為ですよ! そんな趣味があるわけないじゃないですか!」


 ここにきて、当事者の三人以外が声を上げて笑ってしまった。

 ポーラ団長とオレリア隊長は口を開けたまま固まっており、ホームズさんは顔を真っ赤にしている。

 化粧もそのままなので、今のままだと照れた美人の構図で中々に絵になるというか、なんというか。


「は、話を戻しますが! どうしてあの時は脅すような発言をしたのですか!」


 ホームズさんの大声に、オレリア隊長がハッとして我に返った。


「……私はリューネ・ハンクライネという女性のことを知りません。ですから、巻き込まれないようにする為には脅すくらいがちょうど良いと判断しました」

「殺気を放つのがちょうど良いと?」

「はい、その通りです。生半可な脅しでは彼女は落ちない。知らないなりに、初対面の彼女を見て判断させていただきました」


 ここまでくると恥ずかしさは一切なく、視線を逸らすこともなくお互いの主張を口にする。


「――ザリウス様」


 ここで口を挟んできたのは、国家騎士団長であるポーラ団長だ。


「彼女は副団長であるレオナルドとは違います。ラウジール王に忠誠を誓い、国家騎士としてその職務を全うしております。そして、私の一番の友人として私個人が信頼を寄せている人物なのです」

「……ポーラ様」


 えっと、なんだろうこの雰囲気。

 ポーラ団長はいたって真面目な表情なんだけど、オレリア隊長は感極まったような、とろけるような表情を浮かべている。

 ……この方は、いわゆるなのでは?


「……そうですか。騎士団長殿がそこまで言うのであれば信じましょう。ですが、今後はこのような強権は振るわないでいただきたい。リューネさんだから大丈夫という理由は、彼女になら何をしてもいいということに繋がりかねませんからね」

「分かりました。ポーラ・ストラウストの名に懸けて、彼女の行動にはしっかりと目を光らせていただきます。それでいいですね、オレリア隊長?」

「はいいいいぃぃっ!」


 ……うん、確定ですね。

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