調査と報告

 ポーラ団長とオレリア隊長の関係性がなんとなく見えたところで、再び扉がノックされた。


「入れ」


 応接室に入ってきたのはオシド近衛隊長だった。


「失礼します。取り急ぎ、調査結果をご報告にあがりました」

「うむ、話すがよい」

「……よろしいのですか?」


 オシド近衛隊長は僕たち外部の人間がいることを懸念しているのだろう。

 特に僕みたいな子供もいるのだ、情報がどこから漏れるか分からないわけだし、懸念するのも仕方ないと思う。


「構わんよ。それに、この者達も当事者だからのう」

「はっ! まずはブロッシュ副長の自室を調べましたが、このようなものが出てきました」


 そう言って机の上に置かれたのは数枚の手紙だった。

 ユージリオさんがそれを手に取り内容を確認すると、その手は小刻みに震えている。


「……オシド近衛隊長、この内容は本当だと思うか?」

「分かりません。ですが、今日の行動を鑑みるに、本当なのではないかと思わざるを得ません」

「……そうか」

「どれ、聞かせてみせろ」


 口をつぐんでいたユージリオさん。相当に嫌な内容だったのだろうか。

 自分の中で気持ちの整理をつけていたのだろう、しばらくしてから重い口を開いた。


「……ブロッシュ副長は、敵国であるゼリングランドと内通していたようです」

「なっ!」

「まさか、ゼリングランドですって!」


 オレリア隊長は絶句し、ポーラ団長は驚愕の声を上げる。

 ……敵国とかあったんだ。まあ、噂で戦争の準備がどうとかこうとか聞いてたからあるとは思ってたけど、ここまであからさまに出てくるとは思わなかった。

 ベルドランドの都市ですら、僕はカマドとベルハウンドしか知らないのだ、国になんて思いを馳せている暇なんてなかったよ。

 ……そういえば、僕のスキルのことがバレたら魔法砲台とか言ってなかったっけ?


「はい。そして、その件にはレオナルド副団長も関わっていました」

「……父上、なんてことを!」

「して、他に関わっている者はおらなかったのか?」

「王派、国家騎士派と言われておりましたが、その国家騎士派に所属する騎士や魔導師、そして大臣などにも関与が認められました」

「ふむ、内部からめちゃくちゃだのう」


 ……ヤバい、話が全く分からなくなってきた。

 とりあえず、敵国と内通してたのがブロッシュ副長で、レオナルド副団長も同じ。

 他にも多くの人に疑いが出てて……って、王様のリアクションが他人事みたいなんだけど、自分の国のことですよね?


「早急に配置転換が必要かと」

「そうじゃのう。そのあたりは任せてよいか、ユージリオ」

「仰せのままに」

「騎士の配置はポーラに任せ、オレリアはサポートするのじゃ。レオナルドがあのような結果になったのは残念じゃが、お主が潔白であることをしかと示すのじゃぞ」

「「はっ!」」

「オシドは近衛騎士の被害状況の確認じゃ。怪我の酷いものには国の回復魔導師を割り当てても構わんからのう」

「かしこまりました」


 おぉっ、他人事と思いきやてきぱきと指示を飛ばしております。

 なんか、疑ってすいませんでした。


「……ところでゾラよ」

「……なんでしょうか?」

「こっちに来て我の力に──」

「お断りします。儂にはクランの子供達がいますから」


 こんな時にも勧誘ですか!


「なんじゃ、即答じゃのう」

「毎回お断りしているので」

「そうかのう……ならば、少し話をせんか?」

「……二人でですか?」

「我らと──少年を交えてじゃ」

「……えっ、僕ですか?」


 予想外の展開に王様へ聞き返してしまった。

 笑みを浮かべている王様とは異なり、ゾラさんは困った顔をしている。

 これは明らかにバレちゃったパターンですよね。まあ、あれだけ派手に暴れたわけだから仕方ないと言えば仕方ないんだけど。


「お、王よ、それはさすがに……」

「では、我々は退出いたしましょう。皆様は他の冒険者を保護しているお部屋にご案内させていただきます」

「でしたら、護衛には私が──」

「ポーラ団長、護衛は必要ありませんよ」


 王様の護衛を買って出たポーラ団長だったが、それをユージリオさんがきっぱりと断った。


「で、ですがユージリオ魔導師長。護衛もなしに個室に入られるのは……」

「よいよい、我とゾラの仲なのでな。少年もゾラが子供と言うとる子じゃから問題はなかろう」

「そういうことです」

「……分かりました」


 渋々といった表情を浮かべて、ポーラ団長とオレリア隊長が部屋を後にする。


「そうなりますと、私も出なくてはなりませんか」

「すまんのう、ザリウス」

「いえ、そもそも私の判断でコープスさんを巻き込んでしまいましたからね。私の方こそ申し訳ありませんでした」

「そんな、ホームズさんのせいじゃないですよ。僕が行きたいと言ったんです」


 責任を感じているホームズさんだったけど、本当に僕の我儘が原因だったのだから謝る必要はない。

 むしろ、僕の方が謝らなければいけないのだ。


「全く、お主らは揃いも揃ってバカじゃのう。悪いのは捕まってしまった儂らなんじゃよ」

「そういうことです。では、行きましょうか」


 そんな僕の思いを一蹴するかのようにゾラさんが口にして、ソニンさんは立ち上がる。

 ぞろぞろと部屋の外に移動して、最後に扉が閉められた。

 応接室には僕とガーレッドとゾラさん、そして王様だけになった。

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