驚きの言葉
だが、王様はここにきて意外な人物の名前を口にする。
「もう出てきていいぞ──ゴーダよ」
えっ、ゴーダって、酒場のゴーダさん?
僕が首を傾げていると、王様の後方にある壁が突然浮き出すと、人の形が浮かび上がってきた。
そして、まさかのゴーダさんが本当に現れてしまった。
「……えっと、えっ?」
「まあそうなるだろうよ」
「ゴーダよ、お主まだこんなことを続けておったのか?」
「ほっほっほっ、ゴーダには我から依頼をしたのじゃ。本来はすでに足を洗っておるよ」
ちょっと展開が早すぎて訳が分からないんですけど、なんでゴーダさんがこの場にいるのでしょうか?
「あー、儂から説明しようか。ゴーダのことは知っているんじゃな?」
「は、はい。ホームズさんと一緒に食事をしながら情報集めにと」
「そうか。こやつはザリウスと同じで元通り名持ちの冒険者だったが、それ以外の顔を持っておる」
「それ以外の顔、ですか?」
「王直属の暗部じゃよ」
……はぁ。なんかもう、話があっちゃこっちゃ行ってしまって難しくなってきた。
「と、とりあえずなんですが、ゴーダさんは元通り名持ちで、元暗部で、本来は足を洗っているただの酒場の主人ってことですか?」
「今の話でなんでそうなるかは分からんが、まあそういうことだな」
「王様から依頼を受けていたから今回の件で色々な情報を持っていたと?」
「そうなるな」
「それで、今回はたまたま王様から依頼を受けたから、仕方なく前の仕事に戻ったと?」
「おう」
「……なら、僕の中では単なる情報通の酒場の主人ってことで止めておきますね」
「なんでじゃ!」
「なんでって言われても、もう変なことに巻き込まれたくないんですよ! ゾラさんとソニンさんが無事なら、さっさとカマドに戻って生産に集中したいんです!」
この際ゴーダさんがどれだけ凄い人なのかは置いといて構わないから、この状況からさっさと脱したいのです!
「ほっほっほっ、少年は面白いのう。だが、まだまだ驚くことはあるのじゃぞ?」
「……こ、これ以上驚くことがあるんでしょうか?」
「小僧はいつも儂らを驚かしておったから、たまには驚かされろ」
その言い草はないんじゃないですかね。
でも、みんなの気持ちが少しは分かった気がする。立て続けに予想外の出来事が起きると気持ちがついて行かないんだね。
……これからは気を付けて行動します。
「王の間でレオナルドと戦っておる時、誰かと話をしておったな?」
僕はドキリとしてしまった。
確かに話をしていたけど、それを気づかれているとは思わなかった。そして、王様がそれに気づいたということは、知っているということだ——英雄を冠するスキルについてを。
「……そ、そうでしたか?」
「確かに話しておったよ。我はこの歳になっても目は良いんじゃ。遠見スキルも持っているしのう。見間違えはせんよ」
これは困ったことになった。
僕がどれだけ否定しようにも王様は騙されてくれない、そんな雰囲気を醸し出している。
チラリとゾラさんを見たのだが、こちらも強張った顔をしている。
「少年よ、オリジナルスキルを持っているな?」
「持ってません!」
「恐らくは……英雄の器、ではないか?」
「ち、違います」
「憑依の相手と話ができるということは、なかなかの修羅場をくぐってきておるな?」
「……あの、違う」
「ならば森での出来事にも関わっておったか?」
「……」
な、何も言い返せないよ!
「お、王よ、それくらいにしてくれんか。小僧が困っております」
「むっ? おぉ、すまなんだな」
「……いえ」
「坊主もオリジナルスキルを持っているのか?」
「えっ? それじゃあゴーダさんも?」
王様直属の暗部に所属していたなら当然かもしれないけど、そんな簡単に暴露してもいいのだろうか? ……あ、あれ、何でみんな僕のことを見ているの?
ゾラさんに至っては顔を手で覆って……あっ!
「ゴ、ゴーダさん! 騙しましたね!」
「騙してねえけどな。実際に俺もオリジナルスキルを持っているからな」
「ほっほっほっ、自分で言ってしまったのう、少年よ」
「……小僧、お主は」
「い、今のは僕のせいじゃありませんよ! 騙し討ちです! 誘導尋問です!」
こんなもの認められない! 王様もゴーダさんも酷いよ!
「して小僧、英雄の器を持っているのじゃな?」
「……はい」
「それよりも王よ、どうして英雄の器について知っているのですか?」
ゾラさんの疑問はもっともで、僕も気になるところである。
この際だから聞けることは聞いておいて損はないだろう。
英雄の器について、僕は知らないことが多すぎるのだ。
「英雄の器は、元々ベルドランドを興した者が持っていたオリジナルスキルだと我らには伝わっておる」
「それって、歴史本に載っている先導者のことですか?」
「その通りじゃ。じゃが、先導者に関しては諸説あってのう……少年が読んだ歴史本にはどのように書かれておったんじゃ?」
「……あまり良いようには書かれていませんでした」
「……そうじゃろうなぁ」
僕は歴史本で読んだ内容を王様に話していく。
何度か頷きながらも、時折悲しそうな表情を浮かべているのは、内容があまりにも悲惨だからだろうか。
一通り話し終えた僕を見ながら、王様はゆっくりと口を開いた。
「我らに伝わっている内容はその真逆——先導者は英雄として扱われているのじゃよ」
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