提案と改善と
冒険者ギルドでは忙しなく動くギルド職員の姿が目に飛び込んできた。
何度か訪れたことはあるものの、これほど忙しそうな光景を見たことがない僕は驚いてしまった。
「ホームズさん、これってもしかして」
「その通りです。王都に向かう為の準備ですね。冒険者ギルドだけではありませんよ。商人ギルドも、役所だって今は忙しいはずです」
このような光景が他の場所でもあるのかと思うと、ゾラさんやソニンさんがどれだけカマドの人達に慕われていたのかが改めて分かった。
これだけ大勢の気持ちを動かせる人なんて、そうはいないだろうからね。
「あっ! ちょっとザリウス、こっちに来てちょうだい!」
ダリアさんも忙しなく動いている中の一人だった。
ホームズさんを見つけたダリアさんが手招きをするのでホームズさんがそちらに向かう。
僕とユウキもその後ろからついて行こうとしたのだが、僕たちに気づいたダリアさんの表情が曇ってしまった。
「あ、あらー、二人ともどうしたのかしらー?」
とぼけたように棒読みで声をかけてくるダリアさんに苦笑しながら、僕はユウキも事情を知っているのだと告げた。
その瞬間にダリアさんの視線がホームズさんに向いてしまう。
「……ちょっと、ザリウス? なんでユウキ君が知ってるのかな?」
「す、すいません。ちょっと口を滑らせてしまいました」
あまりの形相で睨むものだから、ホームズさんが少し引いている。
ただ、これはある意味僕のせいでもあるのでそこについても説明が必要だろう。
「ダリアさん、僕が説明するので移動しませんか? 何か伝えることがあるんですよね?」
「それと、僕はカマドに残りますよ」
ダリアさんはユウキを心配していたのだろう。そこでカマドに残ると口を挟んでくれたユウキもナイスフォローである。
ずっとホームズさんを睨んでいたダリアさんも、ユウキが残ると聞いて渋々納得してくれたようだ。
「……はぁ。それじゃああっちに移動しましょう」
示されたのはいつもとは違う奥の部屋である。
中は豪華な調度品が置かれており、明らかに僕が入っていいような部屋ではない気がする。おそらくお偉いさんが使う用の部屋だろう。
「それで、何がどうなってユウキ君に知られちゃったのかしら?」
そこで、僕が同行する為の方法として外で鍛冶をしたこと、その武器の出来に驚いてしまい口を滑らせてしまったことを伝えた。
「……ちょっと待って! ……えっ? 外で鍛冶? それに、外でやったにもかかわらず一級品で出来た?」
こめかみに指を当てて考えているダリアさんだったが、次に出てきた一言は――
「意味分かんないんだけど!」
えぇ、おっしゃる通りでございます。
「まず外で鍛冶をする意味が分からないんですけど! そんなことしたら追ってくる相手に場所を教えてるようなものじゃないの! それにジン君もザリウスも
「……あぁっ!」
「あぁっ! ……じゃないわよ! なんでそこにザリウスも気づかないのよ!」
「コープスさんの話を聞いていると、これしか手がないと思ってしまったもので」
「変なところでいっつも抜けてるんだから!」
最後には頭を抱えてしまったダリアさんを見て、僕もホームズさんも申し訳なくなってしまった。
ユウキはというと、これほど怒っているダリアさんを見るのが初めてなのかぽかんとしていた。
「……まあ、カマドに残ってくれるならいいんだけどね。下級冒険者に背負わせていい案件じゃないものね」
ぶつぶつと口にしているダリアさんだったが、こちらの話が終わったのだと察したのか、次いでギルドからの話を口にした。
「ユウキ君もジン君も知っちゃってるからこのまま話すけど、出発は明日の朝になったわよ」
「明日ですか。遅くないですか?」
との発言はホームズさんだ。
確かに、ガルンさんが『神の槌』に到着したのは昨日だけど、それ以前に襲われたと考えれば、更に
ホームズさんとしたら、一刻も早く向かいたいというのが本音のはずだ。
「私達も早く出発したいんだけど、今からだと森の中で野営することになるわ。慣れた冒険者だけなら行けると思うけど、今回は交渉担当として慣れてない人も帯同するからね。申し訳ないのだけど、分かって欲しいの」
冒険者ギルド、商人ギルド、そして役所から派遣される人たちを考えてのことなので、そこは強く言えることではない。
「みんなもすぐにと言ってくれたけど、二次災害になってはいけないからね」
「そう、ですね。申し訳ありません。気が急いていたようです」
「ううん、いいのよ。私だって、ユウキ君の時には同じ心境だったしね」
悪魔事件の時を思い出したのか、ダリアさんはユウキを見て優しい笑みを浮かべている。
「とにかく、出発は明日の朝に決まったから、それまでに出来る限りの準備を済ませましょう。ジン君も同行するって聞いたけど、鍛冶師としての参加は却下ね」
「えっ! ど、どうしてですか!」
僕の問い掛けに、呆れた表情でダリアさんが口を開く。
「さっきも言ったけど、外での鍛冶なんてうるさくてしようがないじゃないの。隠れてって言ってたけど、隠れられないわよね?」
「えっと、まあ、その、そうですね……」
鍛冶をして初めて気づいた僕なんかよりも、ダリアさんの方がよっぽど分かってたよ。
「ですがダリアさん。コープスさんの打つ武器は同行させるに値する価値を持っています。これを見てください」
そう言って取り出したのは、外で打ち上げたショートソードだ。
「これを外で? まあ、見てもいいけどそんな……えっ? ……これを……この出来を……外で?」
刀身を見つめながらそんなことを呟き始めたダリアさん。
そして、何故だか僕の同行はその場で了承されてしまったので良かったのだけど、何がどうしてそうなったのかはすぐに分からなかった。
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