同行と諦めの悪い人

 あとで話を聞くと、ショートソードはやはり一級品で出来上がっており、これだけの作品を外で打てるとなれば話は別らしい。

 まあ、実際には一級品を今から揃えるとなると時間もお金もかかるので、現場で調達できるならそれに越したことはない、ということだ。

 王都までの道のりは急ぎではあるものの、慣れない交渉役も含まれるので一日か、多くて二日は野営をすることになるだろう。その時に一本でも打ってくれれば助かるとのことだった。


 王都の検問では、道中の武器整備の為に同行していると説明するようだ。その際にゾラさんの一番弟子として腕は確かなことを証明する必要が出てくるかもしれないらしく、実際に打っている武器があると証明も楽なのだとか。

 もしかしたら目の前で実際に打てと言われる可能性もあるが、その時はケースバイケースで交渉担当が矢面に立ち判断するようなので、もし打つならば失敗は許されなくなる。


 僕としてはもう一度くらい打ってからの確認にはなると思うけど、何となくこうしたら上手くいくだろう、という予想を立てることはできた。

 道中の旅路か、もしくは今日の夜にでも確認を行おうと頭の中で予定を立てる。

 ダリアさんから他の同行者に話を通してくれるようで、僕とホームズさんはユウキと分かれて本部に戻っているところだ。


「この剣、どうしましょうか」

「せっかく作ったのですから持っていきましょう。ダリアさんも現地調達と話していましたが、これはその為に作った武器ですからね」

「でも、その費用はこっち持ちってことになるんですかね?」

「この剣に関してはそうですね。コープスさんが同行できるかの検証で作ったものですから。ですが、実際に現地で打つ武器に関しては役所側からいくらか素材を提供いただけるようなので持ち出しはないですよ。それと、コープスさんの手間賃に関しては冒険者と同じ金額が後ほど支払われる予定です」


 それもそうかと納得した。これでこの剣の金額まで請求してしまったら、押し売りもいいところである。


「それと、ポーションなどの消耗品はギルド側でいくつか準備する予定なので心配しなくていいそうです。私と幾人かが魔法鞄マジックパックを持っているので、そちらで保管する予定です」


 自分たちの持ち出しはそれほどないのかとホッとしつつ、それでも足りなくなってはいけないと思い素材はいくつか持っていくことにした。

 錬成されているものはナルグ先輩とタバサ先輩から多く貰っているし、それも失敗作なので懐が痛むわけではないのだ。


 そんなことを考えながら本部に到着すると、入口に一人の冒険者が立っていた。


「あなたは確か、ガルンさんでしたね?」

「おぉっ! 破壊者デストロイヤー! 遅かったじゃないか!」


 大声を出しながら近づいてきたのは、怪我を負ってまで『神の槌』本部に報告してくれた、冒険者のガルンさんだ。


「その呼び方は止めていただきたいのですが……」

「そうなのか? もったいない」


 心底もったいないと思っているようで、その表情は悲しそうだ。


「ところで、何かあったのですか?」

「そうだったぜ! 昨日はその、すまなかった。護衛のこともあるが、『神の槌』に迷惑をかけちまって」


 表情を曇らせて呟いたガルンさんは、俯いたまま拳を震わせている。


「相手が手練だったってのは言い訳になっちまう。だから、ホームズさんよう——俺も連れて行ってくれ!」

「ダメです」

「ちょっと、即答かよ!」


 あまりの即答ぶりにガルンさんのつっこみも早かった。

 だが、分かっていたかのようなホームズさんの返答に僕は首を傾げてしまう。


「あなた、今日の朝もそうですが、冒険者ギルドにも顔を出していましたね?」

「当然だろう! 今回の救出作戦で依頼が出ていたら受けるつもりだったからな! それが出ていなかったから、窓口で職員を問い詰めたんだよ!」


 あー、うん、なるほど。この人は連れて行っちゃいけないタイプ人だな。

 感情に任せて職員を問い詰めるような人だ。交渉事にはどんな時にも冷静になれる人が必要であり、それは交渉に立たない冒険者でもそうだ。

 王都内で変に騒ぎでも起こそうものなら、交渉自体が水の泡になることも考えられる。揚げ足を取られるようなものだ。

 それならばリスクはできる限り排除すべきだろう。


「ガルンさんもカマドの守りを固めるために残ってください」

「何故だ! 俺は上級冒険者だ、絶対に役に立つ!」

「今回は交渉をしに向かうのです。上級だからとか中級だからとかは関係ありませんよ」


 全く取り合おうとしないホームズさんが中に入ろうと横を通り過ぎる。その行動に苛立ったのか、ガルンさんは有ろう事か腕を掴もうと手を伸ばした。


「——へっ?」


 そして、ホームズさんにひっくり返されてしまった。

 何をされたのか全く察知することもできなかったようで、何度もまばたきを繰り返しながら地面で大の字になっている。


「私程度にひねられているようでは、やはり連れては行けませんね」

「……く、くそっ! 俺だって、仲間を助けたいのにっ!」


 ガルンさんは太い腕で目元を隠してしまった。


「……冒険者なら死を覚悟している人も多いでしょう。ですが、生きているなら助けるのもまた、冒険者の使命です。助けますよ、命ある限りは」


 そう言い残して、ホームズさんは本部へと戻っていった。

 僕はしばらくガルンさんを見つめていたけれど、僕みたいな子供が声を掛けるべきではないと判断して、無言のまま戻ることにした。


☆☆☆☆☆☆☆☆


 こちらはご報告、宣伝になります。

 読み飛ばしていただいても大丈夫です!


『異世界転生して生産スキルのカンスト目指します!』が、ドラゴンノベルス様からの書籍化で決定いたしました! 発売日は……まだ分かりません!!

 これも読んでくれている皆様からの叱咤激励があったからだと、感謝しております!

 まだまだ拙い文章ですが、より良い作品にできるよう取り組みますので、これからもどうかお付き合いくださいませ。


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