ジンの同行とユウキの同行
何度も鞘から出し入れした結果、鞘も問題なく作成できたことが分かった。
さらに鍔や柄とは違い、鞘の出来が刀身に見合う高ランクで出来上がったことには驚きしかない。
そもそもの素材がただの木なので高ランクとはいえすぐに取り替えるべきなのだが、この鞘はその常識を覆してしまう出来になってしまったようだ。
「おそらく、無駄になる部分が圧縮されたことにより、刀身と釣り合う高素材に変化したということでしょうか」
「えっと、そんなことって普通は……」
「あり得ませんね」
「ですよねー」
普通ではあり得ないことが起きてしまった。
まあ、それも結局は――
「コープスさんですからね」
そんな魔法の言葉みたいに使わないで欲しいんですけどね!
ユウキは黙ったまま固まっている。鍛冶に精通してないから仕方ないのかもしれないけど。
「さて、とりあえず外で鍛冶ができることは証明できましたが、それ以上に問題点も出てきましたね」
「そうですねー。あれだけ槌を振るう音が響いてたら、隠れてたとしてもばれちゃいますからね」
「ですが、外で武器を調達できるというのは確かに素晴らしいことです。それもこれだけの品ですからね。他の人達の話を聞いてからにはなりますが、検討する価値はありますよ」
「えっと、何の話ですか?」
「あれ? ユウキ、知らないの?」
僕はちらりとホームズさんに目をやると、しまったといった感じの表情を浮かべている。
どうやらユウキには知られたくなかったみたいだ。
だけど、冒険者ギルドで色々話し合いがされているようだし、いずれバレるのではないか。そして、ユウキに隠す理由が僕には分からなかった。
「あー、あれです、ユウキは気にしないでください」
「ちょっと、師匠! 気になりますよ!」
それはそうだよね。あそこまで言われて、はいそうですか、では終わらないだろう。
僕はホームズさんの腕を引っ張って小声で話しかけた。
「……なんでユウキに隠してるんですか?」
「……それは、行き先が王都だからです」
……いや、意味が分からないんだけど。
首を傾げている僕を尻目に、ユウキが再び口を開く。
「何かあったんですね? 僕に関することですか?」
「違います」
「だったら教えてくれてもいいですよね?」
「ホームズさん、教えてあげたらどうですか? なんだったらユウキも連れて行けたら――」
「それはダメです」
僕の言葉に被せるようにしてホームズさんが明確な拒否を示したことに驚いてしまった。
「それじゃあ、せめて何が起きているのかだけは教えてくれませんか?」
「……はぁ。そうですね、これは私のミスでもありますし、分かりました」
そう言ってゾラさんとソニンさんの事件について、ホームズさんの口からユウキに語られた。
――そして、当然このような反応になる。
「ぼ、僕にも行かせてください! ケルベロス事件の時には僕もゾラ様に助けてもらったんです!」
「ダメです。ユウキを連れて行くことはできません」
「どうしてですか!」
ユウキの懇願に、ホームズは少しの間をおいて答えた。
「……それは――ユウキがライオネルだからです」
そこまで言われて、僕もようやく合点がいった。
ライオネル家といえば国の魔導師長を務めるほどの重鎮であり、大貴族である。
家を出たとはいえ、国の問題にライオネル家の人間が相手側として首を突っ込んでしまうと、話がややこしくなってしまう。
「そ、それは、そうですけど……」
「それに、私以外にも上級の冒険者が護衛につくのでカマドの守りが弱くなってしまうのです」
「守り、ですか?」
何やら不穏な空気になったけど、カマドの守りってなんだろう。僕も知らないんだけど。
「ただの備えですよ。今は森に調査が入っているので魔獣も少ないですが、いつ増えるかも分かりません。それに、北からの襲撃がまだあるかもしれませんから、手練れを残しておきたいのも本音なのです」
あー、あり得るかもしれないね。
ケルベロス事件や悪魔事件まではいかないまでも、もしかしたらこの森に生息しないはずの魔獣が北から現れる可能性は捨てきれない。
ならば、冒険者を残しておきたいのも分かる。
「ぼ、僕は、手練れなんかじゃありません。下級冒険者ですし」
「いえ、ユウキはすでに中級冒険者以上の実力を持っていますよ」
「――えっ?」
あまりの驚きにユウキは口を開けたまま固まってしまった。
そういえばフローラさんもユウキの動きを見て下級冒険者とは思えないと言っていたから、ホームズさんの指導が身になっているということだ。
「今のユウキはカマドの十分な戦力になります。ライオネル家ということがなくても、私はユウキにカマドの守りの為に残ってもらうつもりでしたよ」
ホームズさん、口が上手いなぁ。
僕ならここまで言われると残ります! って声を大にして言っちゃうかも。
「……僕は、下級冒険者です」
だが、ユウキはそうではないみたい。
「まだまだ師匠に教えてもらいたいことも沢山あります。だから――必ず戻ってきてください」
「……ユウキ」
行きたい気持ちはある、むしろそちらの気持ちの方が強いくらいだろう。
それでも、ホームズさんの言葉が正しいということも理解しているのだ。
「僕はライオネルですから、下級冒険者ですから、我儘は言えません。だから、必ず戻ってきて、また僕に色々教えてください」
「……分かりました。私達は王都へ交渉に行くだけですからね、必ず戻ってきますよ」
僕はカズチとルルに、ホームズさんはユウキに約束をした。
改めて必ず戻ると決意して、僕たちは冒険者ギルドへと足を運んだ。
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