一度休憩を
ギャレオさんとの模擬戦が終わった……うん、終わってしまった。
そして、僕の目の前には試合後すぐだというのに、剣を抱えてこちらを見つめているポーラ騎士団長の姿がある。
「あの、少しだけ休憩を――」
「さあ! 試合をしましょう! 楽しみですね、あははははっ!」
……聞いてないし。
「申し訳ございません、コープス様」
僕が疲れた顔を見せると、横からオレリアさんが声を掛けてくれた。
笑みを返すだけにして、一度屈伸をしてからエジルに頭の中で問い掛ける。
(どうかな、エジル?)
(――俺は問題ないよ。肉体はジンのものだからね)
(そりゃそうだな。それじゃあ、そのままいくか)
(――そう言うジンは大丈夫なのか? いくら何でも無理し過ぎじゃないか?)
エジルの心配はもっともだが、目の前のポーラ騎士団長が休憩を許してくれそうもない。
「……ポーラ様。ここは一度、休憩を挟んだ方が良いのではないですか?」
そこで僕を助けてくれたのは、ここでもオレリアさんだった。
「何を言うのですか、オレリア! 私は今すぐにでも試合をしたいのよ!」
「その気持ちは分かります。私も少しばかりうずいておりますから」
「でしょう! ならば、このまますぐにでも試合を――」
「ですが、疲れがたまったままのコープス様と試合をして、全力を出せるとは思えません」
「……えっ?」
おぉぉ、これは完全に言い負かされる雰囲気だぞ。
「試合をしたいお気持ちは重々承知しておりますが、ここはコープス様に休憩を与え、万全の状態で試合をする事をオススメします!」
「いいでしょう! ジン殿!」
「は、はい!」
「一〇分の休憩を挟んでから試合をしましょう!」
「わ、分かりました!」
……あれ? 何、この体育会系な感じ?
とはいえ、休憩を貰えたのはありがたい。エジルの心配通り、本当は少しだけ疲れていたんだよね。
成長したとはいえ、やっぱり現役の冒険者や騎士とは体力が違い過ぎるんだよ。
だって僕は鍛冶師だし。
……そう考えると、マジでなんで模擬戦をしているのかと不思議でならないよ。
(――……なあ、ジン)
(どうしたんだ、エジル?)
(――俺はありがたいんだけど、これってマズくないか?)
(何がマズいんだ?)
万全とは言えなくとも、すぐの試合よりは良いコンディションで戦えるのだから良い事ではないだろうか。
(――ここで俺が勝ってしまったら、さらに付きまとわれるんじゃないか?)
(…………あっ!)
エジルの言う通り、もしポーラ騎士団長に勝ってしまうと付きまとわれる可能性高くなってしまう。
オレリアさんに勝つだけでも注目されそうなのに、これがポーラ騎士団長となれば注目されるなんてもんじゃないぞ。
(……う、上手く負けられないか?)
(――審判がオレリアって人だろ? それこそ審判でこっちを見ているんだから、下手なことはできないだろう)
(……マ、マジか)
(――……まあ、やれるだけはやってやるよ)
俺が本気で困っているのが分かったのか、エジルはそんなことを言ってくれた。
(何か手があるのか?)
(――できるかどうかは分らんが、やれることはやってみるさ)
(助かるよ、エジル)
(――おう)
会話が一通り終わると、エジルの気配が消えたので、その何かについて考えてくれているのだと大きく息をついてリラックスする。
「話は終わったのかい、ジン?」
「だいぶ考え込んでいたけど、大丈夫なの、ジン君?」
僕の様子を見ていたユウキとリューネさんが声を掛けてくれた。
二人はエジルの事を知っているので、話が終わるのを待っていてくれたようだ。
「うん、終わったよ。エジルが良い感じで終わらせてくれるみたい」
「ポーラ騎士団長を相手にそんな事ができるのかい?」
「あの人、相当強いと思うわよ?」
「まあ、そこはエジルを信じるしかないよね。それよりも、リューネさんめっちゃ強いじゃないですか! 驚きましたよ!」
僕の話はいいのだ。
ここでするべきはリューネさんの話だろうに。
「ユージリオさんを相手に勝っちゃうって、ヤバいでしょう!」
「僕も驚きましたよ。結界魔法は見た事がありましたけど、まさか普通の魔法も鋭さが凄かったです!」
「こちとら一〇〇年以上も生きてるハーフエルフだからね。特に魔法は洗練されたものを持っているのよ」
「いやいや、それだけで済ませていい事じゃないと思うんですけど?」
リューネさんからすると、別段特別な事ではないようだ。
「ユウキ君も凄かったじゃないのよ! あの人は隊長さんなんでしょ? 善戦してたじゃないのよ!」
「そうだよね! これなら上級冒険者もすぐになれるよ!」
「それこそあり得ないから。オレリア様が胸を貸してくれたんだよ」
そんな感じで話をしていると、あっという間に一〇分の休憩時間が終わってしまった。
「さあ! 始めましょう、ジン殿!」
目をキラキラさせて手を振ってきたポーラ騎士団長に苦笑しながら、僕は立ち上がると訓練場の中央へと向かい、そして向かい合った。
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