模擬戦・ジンVSポーラ①
握られている剣からは凄まじい気配が感じられる。
あれは絶対に超一級品の武器だろう。
だが、こちらの剣も超一級品であり、カマドの宝であるゾラさんが打ってくれた逸品だ。
「さあ、死合おうか!」
……うん、何だかニュアンスが試合とは違った気がするけど、気にしないでおこう。
(――ふふふ、これは楽しみだな!)
(本気になるなよ、エジル! 任せるからな!)
頭の中で高揚しているエジルに気づいて呼び掛けたが、返事がない。
「それでは試合――始め!」
そう思っていると、オレリアさんから試合開始の合図が。
「足を奪わせてもらうわ――アイスフィールド!」
試合開始と同時に剣を地面に突き刺したポーラ騎士団長。
直後、剣から白い煙が立ち上るのと同時に地面が凍り始めた。
(――火炎放射!)
ポーラ騎士団長の戦いを見たことなどないはずなのに、エジルは凍りつく地面を認識した直後に火炎放射を発動させる。
足を奪うと言っていたが、あれは動きを制限するということだろう。
しかし、エジルの機転によりその思惑を跳ねのける事が……あれ?
「……溶かしきれない、凍っていく!」
(あれは、聖剣だな)
「聖剣?」
この世界に来てからは初めて耳にする言葉だ。
まあ、聖剣とか魔剣といった類のものがあるだろうとは思っていたけど、まさか模擬戦でお目に掛かるとは思っていなかった。
「さすがはゾラ殿の秘蔵っ子ですね! 聖剣を見抜くとは!」
いや、見抜いたのは僕じゃないんだけどね。
とはいえ、聖剣と銘打っているのだから、剣自体に強力な付与効果が施されているはずだ。
例えばこの氷。
自慢ではないが、僕の火炎放射は英雄の器によって異常な威力を有しているが、それを押し返して地面を凍らせている。
これがポーラ騎士団長の実力と取る事もできるが、それならば国家魔導師になっていそうなものだが、そうではない。
ならば、聖剣の効果と考えれば納得できるのだ。
「まだまだいくぞ!」
「おいおい、マジかよ!?」
冷気を感じるくらいに氷が地面を浸食し始めている。
……これ、エジルが本気を出しても、勝てないんじゃないか?
(――火力を、上げるぜええええぇぇっ!!)
「なんだと!?」
今度はポーラ騎士団長から驚きの声があがった。
まあ、僕も驚いているんだけど。
先ほどまでが限界だと思っていた火炎放射の火力が一気に上がり、氷を押し返し始めたのだ。
魔力が恐ろしいほどに減っていくのが分かるが、これなら魔力枯渇になる前には模擬戦を終える事が……って、勝ったらダメなんだってば!
(ちょっと、エジル!? 勝つつもりじゃないよね!!)
(――ちょっと待て、集中してるから!)
ぐぬっ!?
……それだけ、ポーラ騎士団長と聖剣がヤバい相手って事にしておこう。
それに、このままで終わる気もしないんだよね。だって、ポーラ騎士団長は――
「やはり、聖剣の力だけでは、勝てないか!」
「ですよねえっ!」
そう、この人は
聖剣を地面から抜いた直後、先ほどまで立っていた場所から姿が消える。
――キンッ! キンキンッ!
直後に僕の視界がブレると、目の前で金属音が何度も鳴り響いた。
「やはり防ぎましたか!」
(――いいねえ、楽しいなあ、滾るなあ!)
(滾ったらダメだからな!)
僕の声が聞こえているのかいないのか、エジルからはさらに興奮する感情が伝わってくる。
これだけの実力を見せられたら、下手を打つとか関係なく、負けても誰も疑わないと思うのは僕だけだろうか。
そんなことを考えている間にも剣戟は続いており、目の前には笑顔で聖剣を振るうポーラ騎士団長が映し出されている。
……正直に言おう、とても怖い。
剣を振るいながら笑えるなんて、戦闘狂以外にいないだろう。
そう考えると、エジルとポーラ騎士団長は性格的にとても合う気がする。
「はははははっ! とても楽しいですよ、ジン殿!」
(――俺も楽しいぞ!)
……だが、ポーラ騎士団長からは俺がこれだけの剣技を披露していると思われているだろうし、非常に困ってしまう。
「さあ、まだまだ盛り上がりましょう!」
(――いいぜ、まだまだやり合おう!)
(も、もう止めてくれええええぇぇっ!)
そして、模擬戦はさらに過熱していく。
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