模擬戦・ジンVSポーラ②
魔法の撃ち合いから一転して剣術による斬り合いに変化していく戦況。
肉体はエジルに譲渡しているから問題ないのだが、意識は俺のままなので視界のブレがヤバい。
このまま模擬戦が続いていくと、戦いの最中に酔ってしまう可能性も出てきたぞ。
(エ、エジル……早めに、終わらせられないか?)
(――勝っていいならできるが、いいのか?)
(ダメだ! でも、頼むから、早めに終わらせて、くれぇ)
背に腹は代えられない……と言いたいが、これ以上目立ちたくないし、王様に目を付けられたくない。
この模擬戦、絶対に王様の耳にも入っているだろう。側近であるユージリオさんがここにいるんだからな。
僕が勝ってしまったら、ゾラさんがいないここで勧誘が始まるかもしれない。
キャラバンの初移動とユウキの里帰りを一緒に思っていただけなのに、どうしてこんなことになったんだろう。
「まだ何かを隠しているようだが、このままでは私が勝ってしまいますよ!」
(勝ってくれていいんですけどね!)
口に出してしまいたいが、そうすると変に疑われるかもしれない。
考えすぎかもしれないが、ここで選択を一つでも間違えると付きまとわれる可能性がグンと高くなる気がするのだ。
こんな戦闘狂に付きまとわれるとか……考えたくもないよ。
「ストラウスト流剣術――ファストワン!」
(――速いなあ! いいねえ!)
「これを受け止めますか!」
(――今度はこっちからいくぜ!)
「はははっ! 重く鋭い、素晴らしい太刀筋だ!」
(――避けるのかよ! いいねえ、マジで楽しいぜ!)
あぁぁ、もう! 勝手に盛り上がってるんじゃないっての!
すでに僕では認識できない領域で剣戟を打ち合っている。正直、酔わないように我慢する事以外やる事がないんだよね。
……うん、暇だなぁ。なんかもう、色々と極致へ向かっている気がするよ。
(――そろそろ、終わらせるぞ!)
「お、ようやく?」
「隠している何かをやるつもりですね! いいでしょう、迎え撃たせてもらいます!」
(――ジン! いきなり何を暴露してるんだよ!)
しまった。気を抜き過ぎてつい口に出てしまった。
(――警戒されちまったじゃねえかよ!)
(えっと……マジですまん)
(――もういい! ここまで組み立てたんだ、意地でもやってやるよ!)
めっちゃ呆れられてしまった。
だが、ここまで暇だったんだから許してくれよ?
(――バーストストーム!)
「ここにきて、魔法ですか!」
(――ジン! 魔力枯渇に追い込むから、先に謝っておくぞ!)
(了解、魔力枯渇ね。…………ま、魔力枯渇だって!?)
おいおい、いきなり驚愕の事実を伝えられた気がするんだが!
魔力枯渇って、もの凄くしんどいんですけど! 場合によっては死ぬかもしれないんだろ!!
(――サンドブレイク!)
「視界が!」
(――ダイヤモンドダスト!)
「し、仕方がありませんか!」
魔法の嵐に耐えきれなくなったのか、ポーラ騎士団長が大きく飛び退いて距離を取った。
(――トールハンマー!)
「避けられないか――アイスウォール!」
放たれた雷撃の数を見て、ポーラ騎士団長は聖剣を地面に突き刺して氷の壁を顕現させる。
トールハンマーが無数に作られたアイスウォールを一瞬で砕くが、その威力は確実に減少してしまう。
聖剣を抜いてトールハンマーを切り裂いたポーラ騎士団長は視線を前方に向けた。
「……えっ?」
どうして僕がポーラ騎士団長の動きを理解できているかといえば、魔法を放ちながらもエジルが常に移動を行っていたからだ。
常にポーラ騎士団長が見える位置に移動し、観察し、隙を窺っている。
だからこそ、エジルがやろうとしている事が分かってしまった。
(エジル、だいぶ無茶をするんだな)
(――無茶なお願いをしてきたのはジンだろうに)
(まあ、そうだな。……助かったよ)
(――助かったか……正直、あまり意味はないと思うけどなー)
(ん? それはどういうことだ?)
(――言葉通りだよ。それじゃあ、終わらせるぞ!)
何やら意味深な言葉を残されてしまったが、今は考えないようにしよう。
この模擬戦もクライマックスが訪れたのだから。
砂煙、白い靄、視界が非常に悪い中で、エジルが無属性魔法全開でポーラ騎士団長へと迫っていく。
わずかな空気の揺らぎでこちらに気づいたのか、ポーラ騎士団長は弾かれたように振り返ると聖剣を振り抜いた。
銀狼刀と聖剣がぶつかり合い、振り返ると初めての鍔迫り合いが行われる。
「最後だ! アイスプリズン!」
(――マジックブレイク!)
「そんな! 氷が、顕現しない!?」
聖剣から放たれる魔力を、エジルが闇属性魔法のマジックブレイクで霧散させてしまう。
(――聖剣は確かに強力だ。だが、無限に魔法を放てるわけじゃない。使用者の魔力と引き換えに魔法を放っているんだ)
(そういうことか。ってことは、俺の魔力枯渇と同時に?)
(――そういうことー)
最後は気楽な返事になったことから、エジルの中ではすでにこの模擬戦は終了しているという事だろう。
そう理解した途端、俺の意識が徐々に薄れていくのを感じた。
「……さ、さすがでございます、ジン殿」
「これで、終わり……です、ね」
そして、僕とポーラ騎士団長は同時に魔力枯渇によって気絶したのだった。
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