閑話:シルク・ライオネル
……えっと、私は夢でも見ているのかしら。
お父様の話を信じていなかったわけではないけど、多少なり盛って話しているくらいには思っていたのかもしれない。
だけど、あの時の話は全てが事実だったのだ。
そう――王都襲撃事件の解決に最大の貢献を果たしたジン・コープスの実力は。
「ジン!」
「ポーラ様!」
二人が同時に倒れたのを見て、ユウキとオレリア隊長が駆け出した。
私はただ、先ほどまで行われた二人の模擬戦に目を奪われていただけ。
というか、目の前で行われていたにもかかわらず、いまだに信じることができないでいた。
「驚いたか、シルク」
「……お父様」
「まあ、当時の話だけでは簡単に信じろと言うのは酷な事だったからな」
「いえ、その……はい」
ここで嘘をついても意味がないと思い、私は素直に頷いた。
それに、疑っていたのは私だけではなかったはずだ。
お母様はお父様の全てを信じているので違うだろうけど、リーネお姉様も、ユージェインお兄様にユセフお兄様も疑っていただろう。
「……でも、事実だったのですね」
「もちろんだ。だが……少しばかり、手を抜いていたようだがな」
「なあっ! い、今の模擬戦でですか!?」
「あぁ。敵も味方も入り乱れる王の間での戦闘は、過酷の一言に尽きる惨状だった。実力がなければ殺されるだけではなく、瞬時の判断が実力者であっても命を左右するような状況だった。そこでジン君は、間違いなくあの場で一番の働きをしてくれていたんだ」
「今の模擬戦でも、十分な動きをしていたように思えますが?」
私の疑問は当然だと思う。
何故かと言えば、男性が多い国家騎士の中にあって、女性でありながら実力でのし上がり、騎士団長の地位を手に入れたポーラ騎士団長と引き分けたのだから。
「まあ、何故このような手間を掛けたのかは理解できるがな」
「どういうことですか?」
「ジン君は、目立ちたくないのだろう」
目立ちたくないって、すでに十分目立っていると思うのですが?
「ポーラ騎士団長に勝ってしまうと、他の騎士たちから質問攻めにあったり、変な噂が流れるのを恐れたんだろう。……まあ、引き分けでも十分な噂になるだろうがな」
お父様も同じ事を思っていたのか、言いながら苦笑いを浮かべている。
「しかし、ジン君のキャラバンは恐ろしいな」
「キャラバンは……あっ!」
二人の模擬戦に意識を持っていかれ過ぎて、前の模擬戦をすっかり忘れていた。
ジン君の前の試合で、国家魔導師長であるお父様がリューネさんに負けたんだった。
「お、お父様、その」
「ははは! いやはや、さすがはリューネ殿だ。あの時の噂は真実だったという事だな!」
「噂、ですか?」
リューネさんはハーフエルフだ。見た目とは異なり、お父様よりも年上なのは間違いない。
魔法にも精通しているようだし、どのような噂だったのだろうか。
「精霊魔法を使う賢者がいる、という噂だ」
「……け、賢者!?」
「ちょっと、魔導師長様? 昔の話は止めてもらえないかしら?」
こちらの話が聞こえたのか、噂の張本人が声を掛けてきた。
「本当の事ではないですか」
「精霊魔法を使うのはあっているけど、賢者ってのは間違いなのよ。当時はたかが八八歳だったのよ? ハーフエルフの寿命から考えたら、とても若い年齢なんだらかね」
……リューネさんの年齢って、いくつなんだろう。
「それに、あなたも模擬戦では手を抜いていたでしょうに」
「えっ? そ、そうなのですか、お父様?」
「バレていましたか」
「当然よ。まあ、魔導師長様の魔法は威力が強過ぎて、こんなところで使えるようなものではないからね。仕方がないわよ」
「そう言っていただけるとありがたい」
……ジン君もそうだし、リューネさんもそうだけど、やっぱりお父様も規格外だわ。
そんな規格外のお父様が恐ろしいと口にするジン君のキャラバンか。ユウキもオレリア隊長といい勝負をしていたし、確かに恐ろしいかもしれないわね。
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