雑談とお礼について
しばらく馬と戯れた僕たちは、護衛兼のんびりを満喫しているグリノワさんとの雑談に興じていた。
牧場の主が何もないのは申し訳ないと言い出し、何故だか机と椅子が準備されてしまった。
これではグリノワさんがさらにのんびりしてしまうのではないかと思ったのだが、どうやらグリノワさんと主は長い付き合いのようで、これくらいは毎度のことなのだとか。
そして、話を聞くと護衛依頼とは言っているものの、ギルドを通してのものではなく直接話を持ってきているようで、報酬もほとんどなく三食が報酬だと言っていた。
「主の奥さんの手料理がまた美味いんじゃよ!」
「それが目当てで依頼を受けているんでしょう? 上級冒険者なんだから、もっといい依頼もあるでしょうに」
「美味い飯が食える依頼以外にいい依頼なんて知らんぞ!」
グリノワさんのイメージがガラガラと崩れてしまった。
だけど、その代わりに新しいイメージが出来上がっていく。
この人、とても面白くて、人生を楽しんでいる人だ。自分の好きなように生きて、嫌なことはやらない。
おそらく、僕と似たタイプの人間だろう。
この世界に来て好きなことをやり、嫌なことはなるべく遠ざける。
仕方なく魔獣と戦ったり、悪魔と戦ったり、王都に行ったり、あれはやるべきだったから仕方がないけれど、本来なら遠ざけているだろう。
きっとグリノワさんも、強制依頼だったからということもあるだろうけど、ゾラさんとソニンさんが攫われたと聞いて、やるべきことだと判断したんだと思う。
「そういえば、ゾラ様が儂に武器を作ってくれると聞いたが、あれは本当なのか?」
「本当ですよ。僕が作りたかったんですけど、メイスは作ったことがないのでゾラさんが作ることになったんです」
「儂らは依頼だから受けただけじゃぞ?」
「それでも、僕がお礼をしたかったんです。その気持ちはゾラさんもソニンさんも同じで、だから僕の考えに乗っかってくれたんだと思います」
「そうか。なんだか、もの凄く得な依頼になってしまったのう」
「俺はすでにこいつを貰っているからな」
「コクラトウか。確かにこれを貰っているお主がいたら、不平等になってしまうか」
グリノワさんも黒羅刀が気になっていたみたいだ。
元々はヴォルドさんかグリノワさんが使うかもしれないとなっていた。僕としては
だけど、ゾラさんがお礼にメイスを作ってくれるってなった時は、正直ほっとしたんだよね。
「僕が作るよりも、ゾラさんが作った方が確実に良い武器ができるので」
「なんじゃ、どうした急に?」
「いえ、あの時に打てなかったから」
「儂には武器があったからのう。武器を真っ二つにされたヴォルドが悪いんじゃよ」
「あ、あれは武器の質が違い過ぎたんですよ!」
「コクラトウでも仕留めきれなんだよ。あの暗殺者は、結局
「ぐっ! ……それは、そうですが」
「まだまだ精進せいということじゃな」
おぉ、ヴォルドさんもグリノワさんには言い返せないようだ。
しかし、ヴォルドさんは通り名持ちでグリノワさんは持っていない。ならば、実力でいえばヴォルドさんの方が上なのではないだろうか。
先輩後輩、年功序列的なのがあるのかな。
「グリノワさんは通り名を持っていないんですか?」
「通り名なんぞはいらんと突っぱねておるわい」
「ってことは、付けてもらおうと思えば付けてもらえるんですか?」
「グリノワさんは俺なんかよりもはるかに強いからな」
「それを言うならガルだってそうじゃろう」
「えっ、ガルさんも?」
「あやつの場合は色々なところにさっさと出てしまうから、ギルドとの話し合いができていないだけじゃがな。まあ、時間があったとしてもあやつも突っぱねそうじゃがのう」
「通り名って、意外に邪魔なものなんですか?」
グリノワさんはいらないと言っているようだし、ガルさんも似たようなものだと言う。
ならば、通り名を持つ理由とは何なのだろう。
「通り名ってのは、自分の実力を誇示する様なもんだな。これがあればある程度の実力は知らない人間にも知らせることができる。だから、拠点にしている都市以外でも上の依頼を受けることがすぐにできたりするんだ」
「でも、それをする為に階級があるんですよね? ユウキやフローラさんは下級だし、ヴォルドさんやグリノワさんは上級で」
「階級でも、それぞれ優劣があるからのう。上級へ上がりたてのポンド兄弟と儂やガルでは、やはり実力に違いがある。それは拠点にしている都市ではすぐに分かるが、違う都市ではそうはいかん。まあ、ギルドカードには色々と情報が詰まっているようじゃが、細かく調べることはあまりせんようじゃな」
「えっ、それって怠慢じゃないんですか?」
「そこはほれ、ギルドも忙しいんじゃろう。儂にとっては好都合じゃから何も言わんがのう」
のんびりすることが依頼を受けるよりも大事だと、グリノワさんは言っている。
冒険者としてはどうかと思うが、その生き方にはとても共感を持つことができた。
僕もいつの日か、自由に生きて気ままな生活を送る日がくるのかもしれないな。
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