僕とユウキとガーレッド

 グリノワさんと楽しいひとときを過ごした僕たちは貸し馬車屋を後にした。

 おやつまで頂いてしまったので、お腹は再び満たされてしまった。

 この後はどうするのかと思っていたのだが、ヴォルドさんは何も考えていなかったようで、これで依頼を完了できたのかと言われると、どうだろうと思ってしまう。

 確かに食材区画では各食材の値段を見ることができたし、娯楽とは違うけれど教会では息抜きもできたし、貸し馬車屋でも同様だ。


「これで終わりですか?」

「なんだ、不満なのか? 楽しかっただろう」

「いやまあ、楽しかったですけど、 常識を教えるってこれだけでいいんですかね?」

「役所にも行ったことがあって、商人ギルドに今はいけない。それに、小僧は突飛なところは多いが人と付き合う上での常識は問題なさそうだからな。逆に聞くが、何か知りたいことはないのか?」


 そう判断してもらえたのは素直に嬉しい。最低限の人付き合いはしてきたつもりだけど、それが評価されたのかもしれない。

 まあ、その中で知らないことが多すぎて今の状況が生まれているんだけど。


「うーん、前も言いましたけど、分からないことが分からないんですよね。人付き合いが問題なければ、大丈夫だと思います」


 結局はそこに行きつくのだ。

 だけど、時間感覚も教えてもらい、文字も分かり、この世界の通貨に関しても学んでいる。

 ゾラさんやソニンさんからは当然ながら、ダリアさんやリューネさんからも色々と教えてもらい、こうしてヴォルドさんにも教えてもらっている。

 昨日、今日と関わったカマドの人たちからも気づかないうちに色々なことを教えてもらえているのだから、その都度気になったことを教えてもらえれば問題ないだろう。


「そうか? これで大銅貨一枚は簡単すぎて申し訳ないんだがな」

「だったら今回の報酬を教会に寄付したらどうですか? 神父様、とても助かると思いますよ」

「……そうするか」


 冗談で言ったつもりなのだが、ヴォルドさんはあっさりと肯定してしまった。


「え、いや、あの、冗談ですよ?」

「んっ? あぁ、別に今はお金に困っていることもないからな。大銅貨は大金だが、教会に寄付するのは有益だろうよ」

「そ、それじゃあ僕も」

「私も寄付します!」

「お前らは止めとけ。こういうのは中級から上級で余裕のある奴がやるもんだ。駆け出しを卒業してから考えろよ」


 ヴォルドさん、今日初めていいことを言ったんじゃなかろうか。

 しかし、それが僕に対してではなく二人に対してってところが面白いところだ。

 後輩の冒険者に無理をさせるようなことはしないので、慕われているっていうのが分かった気がする。

 まあ、それが冒険者以外に通じるかと言われると、正直微妙だ。

 今回の依頼もユウキとバルドルさんに食材区画で、フローラさんと神父様とシルくんには教会で色々と教わっている。

 ヴォルドさんの案内で貸し馬車屋には行ったものの、そこでメインに話をしていたのはグリノワさんだったし、気分転換は馬との戯れだった。


「……本当に、今日ってヴォルドさん必要でした?」

「……そう言うなって。俺も気にしてるんだ。だから寄付だってするんだぞ」


 どうやら自分でも疑問に思っていたようです。


「冒険者の後輩に関してはなんとなく気にすることができるんだがな。これは、ゴブニュ様に謝らんといかんか」

「まあ、そこで謝るとか言ったり、教会に寄付するって言えるあたりが、ヴォルドさんのいいところなんでしょうね」

「……なんだ、俺は今、慰められているのか?」

「いやいや、そういうつもりはないですって。本音ですから」

「……まあ、そういうことにしといてくれ。それじゃあ一度、冒険者ギルドに戻るか」

「あっ、そっか。報酬はギルドで貰うんでしたね」

「ちゃんとギルドを通しての依頼だからな。ゴブニュ様だからって、直の依頼は受けないぞ」


 ここもヴォルドさんがしっかりしているところだろう。

 どれだけ信用のある相手であっても、正規の手順を踏まなければ受け付けない。

 これはユウキと知り合ったばかりの時に、ユウキがゾラさんに言われていたことと同じだ。自分の能力を安売りするな、ということだろう。


 冒険者ギルドに到着した僕たちは窓口で報告をする。今回は僕が納得しているのだからもちろん完了だ。

 三人が報酬を受け取り、ヴォルドさんはその足で教会に向かうと言ってギルドを後にした。

 今日の予定も終わり、これからどうしようかと思っていたところで、ガーレッドが鞄の中から僕のお腹を叩いてきた。


「どうしたの?」

「ビービギャギャー!」


 ガーレッドの主張は、昨日の鉱山にできた穴についてだった。

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