鉱山にて

 ガーレッドの提案を受けて、僕は二人に鉱山へ行かないかと聞いてみた。


「僕は構わないけど、何かあったの?」

「昨日、ヴォルドさんとラウルさんとロワルさんの三人で鉱山探索をしてたんだけど、縦に大きな穴を見つけたんだ。場所的に、前に探索した坑道だと思うんだけど、ガーレッドがずっと気にしてて、よかったら行かないかと思ってさ」

「……ジンって凄いね」

「何が?」


 ここで何故そのような発言が出るのかが分からないよ。


「だって、今名前が出た人たち、全員が上級冒険者だよ?」

「そういうことか。これは王都に行った時に知り合っただけだよ」

「……まあ、ジンだからね。それにしても穴かぁ。それって大丈夫なの?」

「魔獣の気配はないって言ってたから大丈夫じゃないかな」

「だけど、昨日の話だよね?」


 言われてみるとその通りだ。

 せめてヴォルドさんがいてくれたらよかったんだけど、どうしたものか。


「あの、そこってあれですよね? バルラットが出た、あの坑道……」

「「……あっ」」

「わ、私は遠慮してもいいでしょうか! やっぱり苦手なのです!」

「全然大丈夫ですよ! むしろごめんなさい!」


 フローラさんがネズミ嫌いだったのをすっかり忘れてた!


「それじゃあ今回は諦めるしかないかなぁ」

「ピピー?」

「うーん、ダメ? って言われてもなぁ」


 鉱山に現れる程度の魔獣なら、ユウキ一人でも倒せるだろう。群れが現れたら僕が魔法を使えば済むことだし。

 だけど、イレギュラーが起きた時を考えると、一人というのはあまりよろしくない。


「誰か手の空いてる人……あっ!」

「どうしたの?」


 うってつけの人がいるじゃないか! 一番身近に!


「一度本部に戻ろう!」

「えっ? 本部って?」

「わ、私はここで」

「うん! 今日はありがとう、フローラさん!」

「いや、ちょっとジン!」


 僕はフローラさんにお礼を言いながら、ユウキの手を取って本部へ戻っていった。


 ※※※※


 本部に戻り事務室を覗くと、朝の光景と同じで三人がそろばんを弾きながら仕事をこなしている。


「ちょっとジン! さすがに師匠はダメだって! 忙しそうだしさ!」

「大丈夫だって。仕事がなくなればいいんだから」

「……へっ?」


 ユウキが疑問の声を上げる中、僕は事務室に入ってホームズさんに声を掛ける。


「こんにちは、ホームズさん」

「おや、どうしたのですか?」

「お願いがあって来たんですけど、忙しそうだったので手伝おうかと思いまして」

「「本当ですか!」」


カミラさんのノーアさんが揃って歓喜の声を上げる。


「それは助かります。ですが、ヴォルド達と出掛けたのでは?」

「もう終わったんです。それで、鉱山に行こうと思ったんですが、ユウキと二人だけだと危ないかなと思いまして」


 僕がユウキの名前を口にしてから入口に目をやると、そこでようやくユウキの存在に気づいたようだ。

 軽く会釈をするユウキは中に入ろうとはしない。自分が部外者だと理解しているのだ。


「そういうことですか。分かりました、これが終われば手も空きますから、一緒に向かいましょう」

「ありがとうございます! それじゃあ僕はどこの山をやればいいですか?」

「こちらとこちらをお願いします」


 そう言って示されたのは二つの山である。

 僕が書類を持って開いている席に移動していると──


「……えっ? あれ、多くない?」


 そんな声が入口から聞こえてきた気がしたものの、気にしないことにした。

 頭の中を社畜モードに切り替えて、僕は一心不乱に計算へとのめり込んでいった。


 ……結果、七の鐘と同時に書類を倒すことができた。

 顔を上げた時に見たユウキの顔が面白かったのだが、そこは言わないでおこう。

 絶対に突っ込まれるのは僕だからね。


「やっぱり、コープス様がいると違いますね~」

「本職としては悔しいですが、さすがです」


 カミラさんとノーアさんからお褒めの言葉をいただき嬉しくなってしまう。


「それでは、今日はこれで終わりにしましょう。お二人とも、お疲れさまでした」


 予想外に早く終わったからだろうか、二人とも笑顔で挨拶を終えると事務室をあとにしていく。


「ユウキ、入ってきていいですよ」

「お、おじゃまします」


 ホームズさんの言葉を受けて、ユウキが恐る恐る入ってくる。


「ジン、凄いね」

「そうかな?」

「そうだよ。普通の人はあんなに早く計算できないよ」

「コープスさんですからね。それで、どうして鉱山に行きたいのですか?」


 話を理解していたホームズさんの問い掛けに、僕はガーレッドが行きたがっていることを説明する。


「ガーレッドがですか?」

「ビビギャー!」

「……いいでしょう」


 わずかな思案の後に了承してくれた。


「おそらく早い方がいいと思いますが、すぐに行きますか?」

「ホームズさんが良ければ」

「ぼ、僕も大丈夫です」

「それならば、行きましょう」

「「……?」」


 何故早い方がいいのか、それが分からないまま僕とユウキはホームズさんの後を追った。

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