ヴォルドの娯楽

 僕はその後もシルくんとの会話を楽しみ、そうしていると他の子供たちも一人、二人と集まって来て、最終的にはフローラさんたちも含めてみんなが集まって話をしたり遊んだりして時間を過ごしていた。

 神父様が食事の準備ができたと声を掛けてきたところで、僕たちはお暇する。

 ギリギリの生活をしている教会で、僕たちが食事をいただくなんてあってはならないので、次回は弁当持参で伺うと伝えた。

 東地区から中央地区への移動中、僕はヴォルドさんに話を振ってみた。


「子供との接し方が上手でしたね」

「私も思いました! とてもお上手で驚きましたよ!」

「グランデ様は子供とかいるのですか?」

「いるわけないだろ! 結婚もしてないんだぞ!」


 ユウキの質問に声を大にしていたが、頭を掻きながら質問には答えてくれた。


「甥っ子姪っ子がいるからな。そいつらの相手をしていたことがあって、それで慣れているんだよ」

「そうなんですね。……隠し子とかじゃなかったか」

「聞こえてるぞ?」

「そうでしたか? あははー」


 いや、冗談ですから、そんなに睨まなくてもいいじゃないですか。


「それで、次はどこに行くんですか?」

「次は俺が準備した娯楽に行くぞ」

「…………えっ?」

「ピキャー?」

「ダメ! ガーレッドをそんなところに連れて行かせませんよ!」

「……お前は何を勘違いしているんだ?」


 ……えっ? ヴォルドさんの娯楽って、大人の娯楽って、女性と飲んだりするやつじゃないんですか?


「……はぁ。言っておくが、普通の娯楽だからな?」

「大人の?」

「……おい、こいつには一回くらいげんこつを落としてもいいんだよな?」

「えっと、僕に聞かれても……」

「げんこつは止めてください! ゾラさんだけで間に合ってますから!」


 ゾラさんのげんこつでも相当痛かったんだから、ヴォルドさんに落とされたら頭がおかしくなりますよ!


「とりあえず来い! 大丈夫だ、全員が楽しめる場所だからな!」


 大股でさっさと進んでしまうヴォルドさんを追い掛けていると、隣でフローラさんが『あっ!』と小さな声を上げた。


「どうしたんですか?」

「……いえ、グランデ様が向かっている場所が分かったので」

「南地区ですよね……あー、なるほど、僕も分かりました」

「何々、何があるの?」


 僕だけが分からない状況にもの凄く聞きたかったのだが、二人とも笑みを浮かべるだけで教えてくれなかった。


「着いてからのお楽しみですよ」

「ジンもだけど、きっとガーレッドも楽しめると思うよ」

「ピキャーキャー?」

「お楽しみって……あれ? カマドを出ちゃうの?」


 ガーレッドも楽しめるって、本当にそんな場所があるのなら嬉しいのだけど、どういった場所なのだろうか。

 カマドの外にまで出ちゃったし、疑問に感じながらも歩を進めていると、前を歩いていたヴォルドさんが立ち止まり振り返った。


「着いたぞ、ここだ」

「いったい何が――うわあっ!」

「ピーキャキャキャー!」


 テンションが上がるガーレッド。

 それは僕も同様であり、これは確かにガーレッドも楽しめる場所だよ!


「牧場ですか!」

「正しくは貸し馬車屋だな」

「貸し馬車屋ですか?」

「あっちに馬車があるだろう? こいつらは、その馬車を引く為の馬たちだな」

「ピーピキャキャー!」

「やっぱり、ガーレッドも楽しんでいるみたいだね」

「うふふ、とても可愛らしいです」


 柵に囲まれた中では十数頭の馬が走り回っている。

 なるほど、確かにこれだけの馬を走らせる土地が必要となればカマドの中では無理だ。

 でも外壁に囲まれていない外では危険ではないだろうか。


「——んっ? ヴォルドにジンではないか」

「あれ、グリノワさん?」


 まさか、グリノワさんが馬にエサを与えているところだった。

 もしかして、ここはグリノワさんが経営しているとか? いやいや、上級冒険者であるグリノワさんが経営しているとは考えにくい。ならば何故にこのようなところにいるのだろうか。


「なんだグリノワさん、また護衛依頼を受けているんですか?」

「ここではのんびり過ごせて、三食付きじゃからな」

「……なんか意外です。グリノワさんはがっつり冒険者をやっていると思っていました」


 王都に向かった時にはヴォルドさんを支えていた実力者って雰囲気を出していたのに、今のグリノワさんは好々爺のように体の力を抜いたような雰囲気だ。


「普段の儂はこんな感じじゃよ。こやつらも懐いてくれておるからのう」


 その言葉は正しく、馬たちはグリノワさんの手から直接餌を食べている。

 その姿を見つめているグリノワさんも笑みを浮かべており、ここが相当お気に入りなのだろう。


「それで、お主らは何をしに来たのじゃ?」

「息抜きですよ」

「なんじゃ、お主も儂と同じではないか」

「まあ……そうですね」


 言い訳を考えていたようだが、何も思いつかなかったようだ。

 まあ、グリノワさんの言っていることは正しいので別にいいのだけれど。


「おぉっ! そうじゃそうじゃ、ジンよ」

「どうしたんですか?」

「王都に行く旅では、ガーレッドを抱かせてもらえなかったからのう。せっかくだし、少し抱っこさせてくれんか?」

「あっ、やっぱりグリノワさんも抱っこしたかったんですね?」

「こいつらもそうじゃが、やはり動物も霊獣も可愛いやつらじゃからのう」

「ピキューキュー!」


 ガーレッドにグリノワさんの優しさが伝わったようで、小さな手をグリノワさんの方へ伸ばしている。

 僕は鞄から出してあげると、そのままグリノワさんへ手渡した。


「ほほほ、とても可愛らしいやつじゃのう」

「ピピー、ピー」

「僕たちは馬と戯れておきますか?」

「おうおう、そうしておけい」

「ピキュー」


 ガーレッドもまんざらでもないようだ。

 グリノワさんにガーレッドをお願いし、僕たちは牧場の主に声を掛けて許しをもらうと、そのまま馬たちと戯れていった。



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