シルという少年

 僕と神父様が話をしているところに視線を感じたので振り返ると、そこにはシルくんが不思議そうにこちらを見ている姿があった。


「あっ! その、すみません!」

「えっ、なんで謝られたんだろう。別に変なことをしているわけじゃないでしょ?」

「その、見ていたのが不愉快かと思いまして」

「全然! もしよかったら僕と話さない? みんなは僕のところに寄ってこなかったんだよねー」

「シル、そうして差し上げなさい。私は晩ご飯の準備をしなければなりませんから」


 そう言って立ち上がった神父様はニコリとシルくんに微笑んでいる。

 少し迷っているようだったけど、こくりと頷いてくれたシルくんは神父様がいなくなった僕の隣に腰掛けた。


「僕はジン・コープスっていいます」

「えっと、俺は、シル、です」

「シルくんは年長さんなの?」

「ここでは、一番年上になります」

「そっか、神父様に頼られているみたいだし、そうだと思ったんだ」

「頼られている、ですか?」


 あれ、気づいていなかったのだろうか。


「そうだよ。さっきもシルくんが子供たちを教会に連れて行ってくれていたし、今だって僕の相手をしてくれているしね」

「……そうでしょうか」

「どうしたの?」


 神父様は確かにシルくんを頼りにしている。それは表情を見ていれば明らかだ。

 外でシルくんが声を掛けていた時、神父様はほっとした表情を浮かべていた。

 若いわけでもない神父様にとって、複数の子供を教会に連れて行くだけでも一苦労なのだろう。


「……俺は、みんなと違って物心ついた時に捨てられたんです。一生懸命働いて、親の手伝いをして、助けになっていると思っていたんです。だけど捨てられたんです」

「……そうだったんだね」

「だから、これくらいはやらないと、また捨てられるんじゃないかって。だから、頼られているとは違うのかなって、俺が俺の為にやっていることだから」


 物心ついていない時ならば、環境によっては捨てられたとしても真っすぐに成長してくれるかもしれない。

 だけど、シルくんのように物心ついた時に捨てられてしまうと、色々と考えてしまうのだろう。

 話を聞いていると、シルくんは子供ながらに親の手伝いをして頑張っていたようだ。それでも捨てられたのだとなれば、そのショックは僕には分からないかもしれない。

 でも、だからこそ今ここで必死に生きる為に、また頑張っているのだ。


「シルくんは、間違いなく神父様を助けているよ。そして、神父様はそんなシルくんを大事に思っているよ」

「……それは、分かっています。だけど、どうしても心の中に、また捨てられるかもって思ってしまうんです」

「シルくんは、ここに来てから神父様が子供たちを見捨てたところを見たことがあるの?」

「ありません! 神父様はそんなことをする人じゃありませんから!」

「だったら安心じゃないか」

「……えっ?」

「シルくんは今、自分の口で言ったんだよ。神父様は子供たちを見捨てるような人じゃないって」

「……あっ」

「それなら、シルくんのことも絶対に見捨てないよ。まあ、僕はそんなことを言えるような立場じゃないんだけどね」

「そうなんですか?」


 まだ不安そうな表情を浮かべているシルくんに、僕は自分がゾラさんに拾われたことを説明した。

 ゾラさんと神父様は違う人なので一緒にするのはどうかと思うけど、カマドの人がみんな優しいという部分では変わりない。

 神父様も言っていたけど、ここの人たちは人情味に溢れているんだ。子供たちを見捨てたりするような人は少ないだろう。神父様を含めてね。


「シルくんは、とてもいいお兄さんをやっているんだって子供たちを見ていたら分かるよ」

「そう、ですか?」

「だって、外にいた時もシルくんの言葉に子供たちが素直について行ったんだもん。信用がない人の言葉に、子供はついていかないよ。子供は素直だからね」

「……もし、本当にそうだとしたら、嬉しいです」

「本当だよ。なんだったら、子供たちに聞いてみようか?」

「い、いいですよ! 恥ずかしいですから……」


 慌てて否定するシルくんは顔を真っ赤にしている。

 少し大人びていたけれど、こうしてみると年相応の表情もできるのかと思えて自然と笑みがこぼれてしまう。


「……その、コープスさんは不思議な人ですね」

「僕が? なんで?」

「いえ、その、初対面の人に、こんな話をしたのは初めてです。とても話しやすいというか、聞いてくれるかもって思えたんです」

「……そ、そう?」


 そう言ってもらえると、嬉しい反面なんだか照れ臭い。そんなことは日本にいた時にも言われたことなんてないよ。

 ……いやまあ、日本の頃はゲーム大好きだったからリアルでは結構人付き合いを拒んでいたから仕方ないんだけど。


「……その、コープスさんもまた、ここに来てくれますか?」

「もちろん! また来るから、その時も話そうね!」

「ありがとうございます!」


 息抜き、とは違うかもしれないけど新しい友達ができたのは素直に嬉しかった。

 そして、僕からは見えていたのだけど、神父様がシルくんのことを優しいまなざしで見つめ、涙していたのは内緒である。



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