孤児と神父
教会は外観だけがボロボロのようで、中はとてもきれいに掃除されていた。
子供たちは外に出てきていただけではなく中にも数人おり、合計で一二人の子供たちがいた。
フローラさんはとても人気者で子供たちに囲まれている。ユウキも男の子から人気でチャンバラごっこのようなことをしているのだが……まさか、あのヴォルドさんがねぇ。
「わー! たかいたかーい!」
「キャーキャー!」
「どんなもんだー!」
もの凄く子供の扱いに慣れているのだ。
特に小さな子供の相手が得意なのか、今も三歳児くらいの子供に高い高いをして楽しそうだ。
そして、僕はというと――
「子供たちを育てていくのって大変じゃないですか?」
「大変ではありますが、それ以上に楽しいですからね。日々成長を見守るのが特に楽しい」
「そういうものなんですね」
「……あの、君は子供ではないのですか?」
「もちろん、子供ですよ」
「……そうですか」
教会の中にある長椅子に神父様と腰掛けて世間話に興じている。
というのも、子供たちと遊ぼうと思ったのだが、だーれも僕のところに来なかったのだ。
ユウキが呼んでくれたんだけど、子供たちが『えーっ!』と言ったので諦めた。
しかし、ガーレッドは、ガーレッドだけは大人気で、今はフローラさんが抱っこしている。
元々人気のあるフローラさんにガーレッドのコンビって、最強じゃないですか。
……別に、僕は悲しくないよ。
「でも、子供たちを育てるのにお金はどうしているんですか? 教会ですし、何か寄付とか?」
「役所から予算も出していただいていますが、ほとんどは寄付で賄っています。それでもギリギリなんですがね」
「だから外観はその、ボロボロ、なんですね」
「見た目にはこだわりませんから。まずはこの子たち、そして子供たちが触れるところを清潔にすることが一番ですよ」
子供たちは孤児という割には極端に痩せているわけでもなく、僕やカズチと見た目変わらない。しっかり食べて、お腹を満たしているのだろう。
子供たちの様子を見るだけでも、神父様が子供たちのことを第一に考えて動いてくれているのは一目瞭然だ。
「勉強も神父様が?」
「一般常識と、簡単な文字や計算くらいですが。文字が分からなければ何もできませんからね。それこそ、冒険者になるにも足元を見られてしまいます」
「……言っておきますが、僕は冒険者ではありませんよ?」
「……そうなのですか?」
まあ、フローラさんもユウキもヴォルドさんも、ここにいる人は僕以外が全員冒険者なわけだから勘違いされても仕方がない。
「僕は鍛冶師なんです。『神の槌』に所属しています」
「なんと! それでは、ゴブニュ様のクランにいるのですね!」
「あれ、ゾラさんって教会とも何か関係があるんですか?」
「関係も何も、ゴブニュ様は私たちに多大な寄付をしてくれているのです!」
なんと、ゾラさんってそんなこともしているのか。
でも、よく考えたらカマド一のクランなわけだから、都市に何かしら貢献をするのは当然なのかも。そうでなければ都市を歩くだけで声を掛けてもらえるような信頼を築けないのかもしれない。
「お恥ずかしい話ですが、その寄付がなければ今頃どうなっていたか分かりません」
「そんなに切羽詰まっているんですか?」
「……今は大丈夫ですが、もし子供が増えるようだと、厳しくなるかもしれませんね」
「子供が増えるって、カマドは栄えているように見えますけどそうでもないんですか?」
「栄えているから、というのが正しいかもしれませんね」
どういうことだろうか。栄えているから孤児が増えるって、生活は皆が皆安定しているわけではないだろうけど、それでも安定している人の方が多いだろうし、増える要素は少ないと思うんだけど。
「カマドの土地柄や人柄もあるのでしょう。この子たちはカマドで生まれた孤児ではなく、他の都市で生まれてカマドで捨てられた孤児なのです」
「そんな! ……それじゃあ、子供たちは親もカマドにはいなくて、どこで生まれたのかも分からないんですか?」
「そういうことです。王都では警備も厳しいですし、孤児自体が少ないので捨てるのも難しい。他の栄えた都市がどうなのかは分かりませんが、カマドは産業都市というだけあり職人が多く、そのほとんどの方々は人情味に溢れています。ですから、他人の子でも捨て置くことができず、こうして教会に声を掛けてくれるのです」
なんて酷い話なんだろう。そして、カマドの人たちがとても優しいのもなんとなく分かった気がする。
ゾラさんなんて、カマドの外にいた僕を拾って育ててくれているのだから、相当な人情味なのだろう。
だけど、皆が皆ゾラさんのようにお金を持っているわけではない。
助けたいけどお金がない、だからって捨て置くことができず、頼れるところが教会だったということなのだ。
だが、そういった理由ならば確かに今後も増える可能性は高いだろう。
「このような悲しい出来事はあってはなりませんが、起こってしまったことを見過ごすわけにもいきませんからね」
「……お疲れ様です」
「……えっと、本当に子供なのですよね?」
何を言っているのだろうか。見た目は完璧な子供ではないですか。
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