誰にどれを?
しかし、そうなると困ったことが一つある。
「誰にどれをあげようかな」
どちらも素晴らしい作品に仕上がったことは間違いない。だが、ランクにはどうしても差が出てしまう。
ミスリルよりも上のランクで仕上がったアスクードを欲しがることは明白であり、それをどのように決めるべきかで問題が出てきてしまった。
「……こういった場合は、年功序列ですか?」
「普通はそうだが……まあ、双子に任せたらいいんじゃないか?」
「コープスさんが悩むことではありませんよ」
そう言われてもなぁ。
僕はすでに錬成されているキルト鉱石を使って鞘を作りながら、どうしたものかと悩んでいたのだが、その作業が異常だったのかゾラさんとソニンさんが目を見開いている。
「ジン、いつの間に鞘まで作れるようになったんだ?」
「王都に向かう前にホームズさんに教えてもらったんだ」
「まあ、私が教えたのは木材から作る方法だけ……んっ? コ、コープスさん、今あなた、鉱石から鞘を作りましたよね?」
普通に話していたのだが、突然ホームズさんの声音が変わり、表情はゾラさんたちと同じものへと変化していた。
「そうですけど……えっ? 何かおかしかったですか? 同じ要領でできたんですけど」
「……普通はできないんじゃよ」
「でも、できました……えっ?」
呆れ顔の三人に、良く分かっていない二人。その間で僕は首を傾げている。
「……色々と言いたいことはあるが、とりあえずナイフはラウルとロワルに任せればいいじゃろう。二人には二人のルールがあるかもしれんからな」
「……そ、そうですね、あははー」
僕としては自然の流れで鞘を作ったつもりが、そうではなかったらしい。
このあたりの常識はヴォルドさんにもユウキたちにも教えてもらえなさそうだから、ゾラさんたちに教えてもらいたいのだが、どうなんだろう。
「あのー、鍛冶や錬成の常識は誰から習えば?」
「錬成はカズチに任せればよいか」
「お、俺ですか!?」
「先輩として、コープス君にしっかりと常識を教えてあげてくださいね」
「その俺の師匠が副棟梁なんですけど!」
「……うふふ、言うようになりましたねー」
ソニンさんの黒い笑顔がカズチに向いている。
……いや、冗談でも怖いですよ、ソニンさん。カズチが引いてますから!
「鍛冶はそうじゃのう……ジュラにでも任せてみるか」
「……ジュラ先輩ですか?」
「確か、儂がいない間に鍛冶勝負をしたらしいのう」
「あー、えっと、そうですねぇ」
な、なんか気まずい。
「別に怒っているわけじゃないぞ。勝負には勝ったんじゃからの。儂もカマドを出る前に釘を刺さなかったからのう」
そう前置きをされて、続けてこう口にする。
「どうせジュラに命令する気もないのだろう? ならば、この機会に付き合わせてしまえ」
「それって、ゾラさんが指示してくれたらいいことじゃないですか?」
「ジュラに絡まれるかもしれんが、いいのか?」
「ま、まさかー」
「ジュラはしつこいぞ? 戻ってきてから日にちも経っているから、そろそろ何か言いに来るんじゃないか?」
「……それは嫌です」
というわけで、僕の鍛冶師としての常識はジュラ先輩から、錬成師としての常識はカズチから教えてもらえることになった。
ジュラ先輩は予想外だったけど、鍛冶師の知り合いが他にいないので致し方ないところである。
「話はまとまったか? もし問題ないなら双子にナイフを渡す段取りをつけたいんだが」
「あっ! そうでしたね、すみません」
お礼として打つナイフの為に、今はカマドに留まってもらっている状態だ。
冒険者としては稼ぎの良い依頼があれば外にも行きたいだろうし、早く渡さなければならない。
「二人がいる場所は知っているんですか?」
「今の時間なら、魔獣討伐にでも出てるだろうな」
「それじゃあ、戻ってきてからになりますね」
「それか、渡しに行くか?」
「さすがに外のどこにいるかは分からないですよね?」
カマドは周囲を森に囲まれた都市である。魔獣討伐は常時依頼として出されており、どこの森に向かったかは分からない。
全く見当違いのところを探すことになっては時間も無駄である。
「いや、あいつらも小僧のナイフを楽しみにしていたからな。基本的には鉱山の魔獣を狩っているって言伝を預かってるぞ」
「……それって、出来上がったら渡しに来いって言ってるようなものですよね?」
「まあ、そう聞こえなくもないな」
僕は鍛冶師であって冒険者ではない。わざわざ魔獣の生息する鉱山に足を運ぶ意味はないのだが……待たせている手前、何も言えない。まあ、たまには運動も悪くないか。
「分かりました。その代わり、魔獣が現れたら全部ヴォルドさんが退治してくださいね」
「小僧も戦えるんだよな?」
「僕自身は脆弱で何もできないか弱い子供ですよ。強いのはエジルであって、僕ではないんです」
「はいはい。元から俺が護衛をする予定だったからな」
「……だったら今のやり取りはいらなかったですよね!」
「がはは! 気にするなよ!」
僕は頬を膨らませながら怒りを露わにしたが、迫力がないので全く怒っているように見えなかったようだ。
仕方なく自室に戻るとそそくさと準備を行い、部屋の前でみんなと別れヴォルドさんと本部を後にした。
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