ジンのナイフ
あー、久しぶりの鍛冶部屋だよぉ。
ゾラさんたちが忙しかったこともあって、戻ってきてからは鍛冶をできていなかったんだよね。
ということで、気力も十分、打つナイフの形も頭の中に出来上がっている。さらに鍛冶スキルを習得したと自覚してから初めての鍛冶なのだから、失敗するわけにはいかない。
……予想以上に見ている人も多いし、絶対に失敗したくないよ。
「最初はミスリルからですね」
「ミスリルもアスクードも、二人にはまだ早い気がするがな」
「まあまあ、これは僕からのお礼なんですから受け取ってもらえないと困りますよ」
「昨日のうちで双子には話をしているから安心しろ。あいつらも楽しみにしているからよ」
「そうですか……よし、気合いを入れるぞ!」
誰かの為に打つ鍛冶は緊張するけど、その分楽しいでもある。
僕はミスリルを窯に入れ、一度深呼吸をしてから火を点す。
何度も繰り返してきた作業であり、火力の調整もお手の物だ。
そして、融点がどこになるのかを探りながら徐々に火力を上げていくのだが、こちらはライトストーンや
きっちりと型に投がれ込んだのを確認。鋏で掴み金床に置いてから槌を振るっていく。
無属性魔法のランクも上がっているので力も込めやすく、また魔力が消費されている感覚も少ない。
ランクが上がったこともそうだが、素材からの反発力も外で打った素材とは大きく異なり軽く感じているので、これなら想像力をより重視して鍛冶ができそうだ。
イメージとしては鍔にあたる部分に竜の刻印を施す。これはアスクードで打つナイフと対になる予定だ。
柄にはいつも通り滑り止めとして凹凸を作り、それでいて握り心地を損なわないよう注意を払う。
刀身に刻むは昇り竜である。
これは鍔から解き放たれた竜が昇っていくイメージで刻み込む。
頭の中でイメージしたナイフに仕上がっただろうか。そんなことを考えながら、僕はゴクリと唾を飲み込み水の中にナイフを沈める。
直後にはファンズナイフを打った時と同じくらいの光が弾け飛んだ。
これだけの光が弾ける光景を見たことがなかったソニンさんとホームズさんが声を上げているのが聞こえた。
ゾラさんは声を押し殺し、ヴォルドさんは外で一度目にしているのでニヤリと笑う。
カズチは最初に見ていたけれど、久しぶりだったからか目を輝かせているようだった。
光が収まり、僕はゆっくりとナイフを取り出す。
柄、鍔、そして刀身と、僕が思い描いていた通りの仕上がりになっている。
心の中でガッツポーズを取りながら、そのままゾラさんに視線を向けた。
「確認を、お願いします!」
「そうじゃな。じゃが、これなら手に取って見なくても判断は可能じゃな」
それってどういうことですか?
「これは見た目だけで判断できるんじゃよ。誰がどう見ても、超一級品に仕上がっておる」
「……双子に超一級品は、マジで早過ぎる気がするが……まあ、仕方ないか」
「失くしたり、奪われたりしないよう、二人にはしっかりと伝えないといけませんね」
そんな代物になってしまいましたか。
でも、アシュリーさんも
アスクードもそうなったとしたら、双子なわけだし相当な財産を手にすることになるね。
まあ、僕の鍛冶が成功したらなんだけど。
「しかしまあ、こうもポンポンと一級品やら超一級品を打てるもんじゃのう」
「英雄の器と鍛冶スキルの二つのおかげですね」
「これは、本当にゾラ様や私を追い抜いてしまいそうですね」
「いやいや、またまた、それはさすがに無理ですよ」
笑いながらそう口にして、ミスリルのナイフを机に置く。
腕を回しながら一度呼吸を整えると、僕はそのままアスクードを手に取った。
「なんじゃ、そのまま打つのか?」
「はい。形はほとんど同じイメージですし、疲れもランクが上がったからかそこまで感じないんです」
「そうか。まあ、何かあれば儂らもいるしのう。やってみろ」
一度大きく頷いた僕は、アスクードを窯に投げ入れると大きく深呼吸、連続での鍛冶を開始した。
融点はミスリルよりやや高いくらいで溶け始めたアスクードは、凝固するのはミスリルよりも早く、槌を振るいながらも何度か窯に戻す作業も追加される。
だが、反発力の部分はミスリルとほとんど変わらなかったので、自信を持って作業を進めていく。
アスクードのナイフでは鍔に虎の刻印を施し、刀身には駆け上がる虎を刻み込む。
ラウルさんとロワルさんが竜虎のようになってくれればと願っての作品である。
連続の鍛冶ということもあり、若干の疲労感は出てきたもののそれだけで、アスクードのナイフもイメージ通りに仕上がったはずだ。
どうしてもこの瞬間が毎回緊張してしまう。
僕はアスクードのナイフを水の中に沈めると、こちらも大成功を証明する光が弾け飛び、ゾラさんからはミスリルよりもランクの高いナイフになっていることが伝えられた。
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