生産とは関係ないけど……

錬成の勉強再び

 今日は昨日とは違ってスッキリと目覚めることが出来た。

 ガーレッドの寝顔を眺めながらベッドの中でニヤニヤしていると、ガーレッドが瞼を擦りながら目を覚ました。


「ピ……ピピ……ピキュワー」

「あはは、おはようガーレッド」

「ピピキャー」


 挨拶を返してくれたので体を起こして頭を撫でる。

 なすがままになってくれたガーレッドも、しばらくすると起き上がって僕の膝の上に乗ってきた。

 ……うん、やはり上目遣いのガーレッドは可愛過ぎる、危険である。


「今日も可愛いねー」

「ピキャー?」


 首を傾げる姿も文句なく可愛いんだから、可愛いはやはり正義だね。

 さてさて、そうこうしていると二の鐘がなったのでそろそろ動ける準備をしなければならない。

 今日は鍛冶の練習だろうか、錬成の練習だろうか。せめて事前に教えてくれれば動きやすいんだけどな。

 いつもならそろそろカズチが迎えに来てくれるんだけど――。


 ――コンコン。


 おぉ、まさに予想通りでございます。

 ドアを開けて見ると、そこにはやはりカズチの姿があった。


「おはよう、カズチ」

「おう。今日は錬成の練習だってさ」

「カズチが来たからそうだと思ったよ。ソニンさんの錬成部屋でいいのかな?」

「そうらしい。もう行くか?」

「うん、行く行く」


 ガーレッドは賢く鞄の中に自ら入っている。その鞄を肩にかけて部屋を出ると、そのままソニンさんの錬成部屋へと向かった。


 錬成の練習では今日も銅を錬成することになった。

 だけど錬成の勉強はまだ出来ていないのだ。ならば結果はおのずと分かってしまう。


「……うーん、やはり中の上ですね」

「……うーん、やっぱりそうですか」

「……副棟梁もジンも何をしてるんですか」


 このやり取りも何だか慣れてしまった。

 それにしても知識を蓄えなければ上達しそうにないので座学をしてほしい。もしくは歴史本を読まずに錬成本を読むべきだろうか。


「あっ、カズチは雫形にしたんだね」

「サラおばさんに褒められたからな。ちょっと溜めておけたらと思ったんだ」

「そうなんだね」

「ん? 何の話ですか?」


 ソニンさんが僕たちの話を聞いていたようなので、昨日の契約の話について説明してみた。

 話の合間にへーとかほーとか言っているから、少しは興味を持っているの、かな?


「このような契約があるのですか?」

「うーん、なかったことの方が不思議なんだよねー。この契約形式の方が新人には助かると思うんだけどな」

「確かにそうですね。ですが、サラさんが仰っていたことも分かります。大きなクランでなければ資金の捻出は存続に直結する問題ですからね」

「だけど、それじゃあ新人がなかなか育たないんじゃないかな。自分で作った作品が売れてお金になる、その実績がやる気に繋がると思うんだよね」

「それは、そうかもしれませんが……」


 腕を組んで考え始めてしまった。

 僕の意見に対しても考える部分があったみたいだけど、やはり今までのやり方を変えるということも難しいのだろう。

 だけどカズチの為を思えばここは了承してもらいたい。『神の槌』ならば資金も豊富だろうしどうにかならないだろうか。


「……副棟梁、俺はサラおばさんのお店に卸してみたいです」

「カズチ?」

「俺が作った作品がどれだけの価値あるものに生まれ変わるのか、本当に売れるのか、見てみたいんです」


 カズチの気持ちを受けてソニンさんは真剣に考え始めた。

 今までの形を変えることは難しいことだが、個人契約の良いところも理解を示してくれている。カズチなら将来的に超一流の錬成師になることも出来るだろうから、未来への投資だと思ってもらいたい。


「……私からゾラ様に相談してみましょう。決定はその後ですね」

「あ、ありがとうございます!」

「ソニンさん、よろしくおねがいします」

「私もカズチの成長には期待しているんです。カズチのプラスになるのなら良いとも思っていますからね」


 ソニンさんが味方に付いてくれれば百人力である。

 個人契約が形になれば、将来的には僕も色々なところへ個人的に卸すことも出来るだろうし、とても楽しみだ。


「……言っておきますが、コープスくんはダメですよ」

「えっ! な、なんでですか!」

「ゾラ様も言っていましたが、私たちと同じようにリューネさんと通して卸すことになるので個人ではダメです」

「で、でも、錬成なら可能ではないかと」

「錬成もダメです。英雄の器がどれほどの効果を及ぼすか分からないのですから、慎重になり過ぎて困ることはないでしょう」


 僕が困ります!

 ……そんなこと言えるはずもなく、渋々従うしか出来ないのだ。


「うふふ、そんなに落ち込まないでください。鍛冶部屋は了承されたんですからね」

「……そうですね! そうでした!」

「何だ? 鍛冶部屋を部屋に作ってもらえるのか?」

「そうなんだよ! これで錬成した素材で練習が出来るよ!」


 再び小躍りしそうになった時である。


 ――カーン! カーン!


 五の鐘かな? って思ったんだけど、どうやら違うみたい。

 今まで聞いた鐘の音とは異なる、荒々しく鳴らされる響きなんだけど、何だろうか?


「これは……カズチ、コープスくん、練習は中止です」

「はい!」

「えっ? えっ? 何事ですか?」


 僕だけが取り残されている状況なのだが、ソニンさんとカズチの表情は酷く強張っている。

 ……何やらよからぬことが起こっているみたいだね。

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