非常事態
そうはいっても本当によからぬことが起こっているのか分からないので確認は必要だろう。
「あのー、この鐘って何なんですか?」
「あ、あぁ、そうですね。この鐘は非常事態が発生した時に鳴らされる鐘の音です」
「非常事態?」
そう言われると大変なことだけど、具体的にはどういった事だろう。
「この鐘が鳴らされるということは、危険な魔獣が近づいてきているということです。ここ最近では聞いたこともなかったんですが」
「この前のケルベロスみたいな?」
「……それよりも危険な魔獣の可能性が高いですね」
「えっ、マジですか?」
ケルベロスって確か上級魔獣だったよね。上級よりも危険な魔獣って、いったいどんな魔獣なんだろうか。
だけどカマドは大都市である。冒険者だって多いし、兵士だっているだろう。
その点を踏まえた上で危険な魔獣ということならば、ちょっと怖いではある。
「とりあえず私はゾラ様の私室へと向かいます。二人は部屋に戻っていてください」
「分かりました」
「カズチ、僕の部屋に来る?」
「……そうだな、一人だとやることないし」
「意外と普通だね」
「こういう時は大人が動くもんだからな。俺たち子供は何も出来ないんだよ」
そういうものかと考えながら、僕たちは錬成部屋を後にして僕の部屋に向かった。
〜〜〜〜
ガーレッドをベッドの上に置いてその端に僕が、カズチが椅子に腰掛ける。
ケルベロスよりも危険な魔獣が迫っているらしいけど、いったいどんな魔獣なのだろうか。
「上級魔獣よりも危険な魔獣って何なのかな?」
「それなぁ、俺もよくは分からないんだ」
「そうなの?」
「昔話だったり、おとぎ話で出てくるようなやつだと思うんだけど……話の中では、悪魔らしいぞ」
「……あくまぁ?」
魔獣がいる世界に、悪魔ねぇ。
危険度で考えると悪魔は魔獣の上位種ってことかな。でも昔話やおとぎ話に出てくるくらいだから、今の世界にはいないんじゃないのかな。
「悪魔って、どれくらい目撃されてるの?」
「俺はそんな話聞いたことないな。正直、ジンに質問されて久し振りに思い出したくらいだ」
それじゃあ本当にいるかどうかも定かじゃないな。
まあ、カズチが言うように子供である僕たちが何かしら行動できる状況ではないのは確かなので、ここはゆっくりするのが一番だ。
錬成本を読んでいたい気持ちもあったのだが、カズチを部屋に誘った反面僕だけが本を読むことに後ろめたさを感じてしまい自重する。
ガーレッドもこちらを見つめているので、カズチと二人で遊ぶことにした。
「ピー、ピキャー」
「綺麗だって言ってるよ」
「霊獣に言ってもらえると、なんか嬉しいな」
ガーレッドはカズチが錬成した雫形のケルン石を両手で挟みながら持っている。
真紅の瞳が群青色のケルン石を見てキラキラしているように見えるのは僕だけだろうか。
「霊獣だけど、ガーレッドはまだ幼獣だよ?」
「それでもさ。滅多にお目にかかれない霊獣だぞ?まあ、ジンのおかげでこうやって普通に接することが出来てるんだからありがたいよ」
「ピキュキュキュキュ!」
カズチがガーレッドのお腹をこちょこちょし始めると、大爆笑である。
僕とカズチも声を出して笑ってしまい、今が非常事態だと言うことを忘れてしまいそうだ。
「なあ、ガーレッドが炎を食ってたって本当なのか?」
「本当だよ。もの凄い勢い食べてた。ガーレッドがいなかったら僕もユウキも丸焦げだったと思うよ」
「へぇー。ガーレッドって凄いんだな」
「ピッキャン!」
「……なんだって?」
「えっへん!だって」
「「…………あははっ!」」
顔を見合わせて再び爆笑。
ガーレッドがいたらどんな時でも賑やかにしてくれそうで楽しいや。
「成獣になったらどんな姿になるのかな」
「そうだよな。もの凄く大きくなったらどうするんだ?」
「ゾラさんは増築するって言ってたよ」
「あぁ、確かに言ってたな。棟梁なら本当にやりそうかも」
「あはは、だよねー」
この土地のどこを増築するのかはさておき、ガーレッドが成獣になってもここにいられるならばそれに越したことはない。
僕はこの場所が好きだからね。
それに、こうやって同年代の子と話をするのも楽しい。日本で生きていた時にはゲームにのめり込んでいたし、もう少し人付き合いをよくしても良かったかもしれない。
「どうしたんだ? 急に暗い顔になって」
「えっ? あー、ごめん、考え事。気にしないで」
「そうか? ならいいんだけど」
カズチは意外とよく見てくれている。将来は面倒見の良いお父さんになれるだろう。
僕がカズチに意味のない太鼓判を押したその時である。
――コンコン。
突然ドアがノックされたので顔を見合わせて首を傾げる。
こんな時に誰だろう、と思いながらドアを開けると、そこにはゾラさんにソニンさん、ホームズさんと……あれ、なんでダリアさんがいるの?
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