指名依頼
首を傾げながらも廊下に立たせておくわけにもいかないので中へと促すと、ダリアさんだけが申し訳なさそうに入ってくる。
……僕、何かしただろうか?
「あのー、何事でしょうか? 悪い事には心当たりがないんですけど?」
「小僧が何かしたわけではないぞ」
僕の問いかけにゾラさんが答えてくれた。
僕関連ではないようなので安心なのだが、ならば何用でここまで来たのだろうか。
「ダリアさんからお話があるようです」
「ダリアさんから? えっと、何でしょうか、依頼書に不備でもありましたか?」
ギルド関連だとそこしか思い当たらないんだけど、ダリアさんの雰囲気ではそうではなさそうだ。
「……ジンくんにお願いがあるの」
「お願いですか?」
「どうか……どうか、ユウキくんを助けに行ってくれませんか?」
……えっ? ここで何故にユウキが出てくるの?
だけど助けにって、何かあったのだろうか。
「話が見えません、どう言う事でしょうか?」
「それは私から説明しましょう」
話を繋いでくれたのはホームズさんだ。
「ユウキくんが護衛依頼を受けていたのは知っていますよね?」
「はい。長期になるから僕の依頼は時間が掛かるって聞きました」
「その護衛依頼が原因です」
「へっ?」
「護衛依頼の向かう先は王都、道順はケルベロスが現れた北の森を通るルートです」
……うわー、マジか。話が読めてきたよ。
「あー、それって、この非常事態に巻き込まれてるって事ですか?」
「その通りです。ユウキくんが加わったパーティは五人。そのうち三人は怪我を負いながら戻ってきたんですが、その中にユウキくんはいなかったようです」
「ユウキともう一人が北の森に取り残されているって事ですね」
「御察しの通りです。ダリアさんは私にユウキ救出の指名依頼を持ってきたんですよ」
「……えっ、ホームズさんに?」
僕に話が来てるからてっきり僕にだと思ったけど、よく考えれば僕は冒険者ではないから依頼の対象外なのか。
でもダリアさんは僕にもユウキを助けて欲しいって言ってたよね。
「全く、見当違いもいいところじゃ。小僧は冒険者じゃないんじゃぞ。危険な場所にわざわざ向かわせる事に了承出来る親なんぞおらんじゃろ」
「それは……はい、分かっています」
「ならば何故ザリウスだけではなく小僧にまで声を掛けているんじゃ?」
「……ジンくんは、ユウキくんと一緒にケルベロス事件を生き残りました。ユウキくん一人だったら生き残れなかったと思います。相手の能力を探る行為をするつもりではないんですが、ジンくんには何か特別な力があるんじゃないかと思ったんです」
うーん、やっぱり察しのいい人は何かしらあるんだって気づくよね。
普通は冒険者でもない僕が単独で森に入って生き残れるはずもないし、ユウキと合流したとはいえ上級魔獣と対峙して生き残れたのも奇跡なんだからね。
……それに、ケルベロスをボコボコにしてたし。
「もちろん断ってくれて構わないわ。これは私が勝手に動いて勝手にお願いしている事だから。だけど……だけど、もし助けられる力があるなら、助けてあげてほしい!」
あー、うん。ここまで言われて断れるはずないよね。
というか、断るつもりなんてないし。
「分かりました、行きますよ」
「報酬は相場の倍を――って、えっ?」
「報酬なんていりませんよ。僕は冒険者ではありませんし。だったらホームズさんに上乗せしててください」
「だけど、えっ? そんな簡単に?」
困惑しているダリアさんだが、普通のことではないだろうか。
自分のスキルを過信しているわけではないけれど、僕でも力になれる可能性があるなら行く価値はある。
ホームズさんも一緒だし安心だろう。
それに一番の理由は――。
「友達が危険な目にあってるなら、助けに行くのは普通ですよね」
ユウキは僕の友達だ。カズチやルルも友達だけど、ユウキは『神の槌』以外で出来た初めての友達なんだよね。
ここで動かなきゃ友達じゃないよ。
「魔獣の相手、ユウキを探すこと、その全てをホームズさんに丸投げるけどいいですかね?」
「それって、コープスさんが行く意味がなくないですか?」
「だって僕、鍛冶師ですからー。でもやれることがあればやりますよ」
「はぁー。小僧ならそういうと思っとったわい」
「思ってて連れて来たんだから、ゾラさんも共犯ですね」
「うふふ、仕方ありませんね」
「まあ、ジンだしな」
『神の槌』の面々が当たり前のように話している中、ダリアさんだけが取り残されてしまっている。
「……あの、ジンくん? 本当にいいの? お願いしておいてなんだけど、本当に危ないのよ?」
「ユウキの為なら! って言ったら変ですけど、僕も初対面だったユウキに助けてもらいましたからね。仲良くなったからこそ、助けに行かなきゃって思うんです」
「でも、君は冒険者じゃないし、魔獣が現れたら……」
「魔法で薙ぎ払います!」
「……本当に、本当に、行ってくれるのね?」
「当然です。何度も言いますが、友達ですから」
僕の言葉にダリアさんは涙を浮かべて呟いた。
「……あり、がとう!」
ダリアさんはその場に崩れ落ちてしまった。
ギルド職員ということで様々な冒険者の死と対面してきただろう。それが自分が目を掛けていた相手であればその心情も推して知るべしである。
ソニンさんがダリアさんの肩を抱き、ゾラさんとホームズさんがあれこれと話をしている。
「ジン、お前も気をつけろよ」
「ホームズさんもいるし大丈夫だよ」
「俺は、友達なのに何も出来ないからな」
「ユウキと一緒に戻ってきたら、僕と一緒に武具を作ってやるって言ってやったら? ユウキもきっと喜ぶし、友達として助けにもなるはずだよ」
僕が微笑みながら答えると、カズチも力強く頷いてくれた。
「それでは準備を始めましょうか」
「よろしくお願いします、ホームズさん」
固く握手を交わし、全員で事務室まで歩き出した。
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