予定外のいざこざ
事務室ではカミラさんとノーアさんが事務作業を行なっているのだが、ホームズさんの机の上にある物を見て首を傾げていた。
それもそうだろう。事務員の机に剣や軽鎧、大量のポーション類が置かれているのだ。
戻ってきたホームズさんへノーアさんが立ち上がり声を掛けた。
「あの、ザリウス様、これはいったい?」
「少し出掛けてきます。お二人はそのまま仕事をお願いします」
「それは構いませんが、その装備は?」
あっ、二人はホームズさんが元冒険者で
「弟子を助けにちょっと北の森へ行くのでね」
「北の森! あそこは今、進入禁止のはずですよ!」
「ノーアさん、落ち着いてください。ザリウスさんなら大丈夫ですから」
「ですがケヒート様、あまりにも危険です。もし行かれるならば私も共に行きましょう」
「……へっ?」
いやいやいや、その提案はあまりにも予想外なんですけど。
「私は固有スキルで回復スキルを持っています。きっとお役に立てるはずです」
「それは流石に出来ません」
「何故ですか! 絶対に役に立ってみせます!」
「……無属性魔法で一気に進みますが、無属性は持っていますか?」
「それは……」
「では、確実に連れてはいけません。お願いですから残っていてください」
「ですが!」
ノーアさんって、意外に好戦的な性格なのか?それとも種族の性格とか?
でもリューネさんもハーフエルフだけどノーアさんみたいじゃないよな。どちらかというと、リューネさんの方が子供っぽいし。
「ここで時間を使うわけにはいかないのですよ」
そう言ってホームズさんは剣を腰に下げ、軽鎧を身に纏う。そして背負い鞄にポーションを突っ込んでいく。
……あの鞄、容量おかしくないか? 明らかに大きさ以上のポーションがたくさん詰められていくんだけど。
「ザリウス様!」
「――ノーア、しつこいわよ」
この場にいなかった者の声が入口から聞こえてきたので驚いて振り返ると、そこには何故かリューネさんが立っていた。
「ハンクライネ様!」
「あんたじゃ足手まといだって言ってるのよ、分からないの?」
「ですが、今の北の森は危険です! 非常事態宣言も出ているのですよ!」
「ホームズくんとジンくんなら大丈夫なの、それくらいも分からないのかしら?」
「……コープス様も行くのですか!」
あー、矛先が僕に向いちゃったよ。リューネさん、一言多いですよ。
「コープスさんは無属性魔法を持っていますし、見た目と違って役に立ちますからね」
「私だって役に立ちます!」
「だーかーらー! あんたしつこいって言ってるのよ! ハーフエルフのプライドがそうさせているなら止めなさいよね、鬱陶しいから」
「なっ!」
どうやら図星だったみたい。ノーアさんは唇を噛み締めて怒りに震えている。
自分もハーフエルフなのに、この違いは何なんだろうか。
見た目と違ってリューネさんは結構な年齢らしいので、その違いなのだろうか。
「……あんたじゃ役に立たないから、代わりに私が二人と一緒に行くわ」
「「……へっ?」」
僕とホームズさんの声が重なった。
ノーアさんが行くと言った時も驚いたけど、リューネさんの提案も意外過ぎますよ。
「私なら精霊スキルを使って二人にもついていけるし、回復もこなせる。さらに他にも色々なサポートが出来るわね」
「それは、そうですが……」
「まーだ分からないのかしら。あなたは足手まといなの、本格的にね。それに、私が行くならハーフエルフのプライドかしら? それも守られるじゃないの」
「そういうことではないのです!」
「だったら黙っていなさい! 本当に時間がないのよ! あんたのわがままのせいで人が一人死ぬかもしれないのよ!」
「っ!」
リューネさんの剣幕にノーアさんは黙ってしまった。
同じハーフエルフだからこそ、黙らせることが出来たのかもしれない。
リューネさんは違うけど、もしかしたら種族間でも上下関係があるのかもしれない。人間よりもハーフエルフの方が上位なのだ、みたいな感じかな。
「さっさと行きましょう、ホームズくん」
「……そうですね。コープスさんもよろしいですか?」
「あっ、はい、大丈夫です」
僕はちらりとソニンさんを見る。
目が合ったソニンさんは一つ頷いてくれたので僕の意図に気づいたようだ。
今の状態のノーアさんには慰める人が必要だろう。カミラさんでもいいのだが、今日会ったばかりの人に視線だけで意図を伝えることなんて出来ない。ここはソニンさんが適任だろうし、ソニンさんも気づいていたようだ。
ホームズさんもリューネさんもそのことに気づいていたからこそ、さっさと行くことに何の憂慮も持っていないのだ。
「それでは、行ってまいります」
「帰ってきたら美味しいご飯食べさせてよねー!」
「カズチ、ガーレッドのことお願いね」
今回、ガーレッドは置いていく。
ケルベロス事件の時は助かったけど、幼獣だし何が起こるか分からない。
僕の気持ちが伝わったからだと思うけど、ガーレッドも心配そうに見つめていたけれどわがままは言わなかった。
「早く帰って来るんじゃぞ」
「ミーシュさんに言っておきますね」
「安心して行ってこい」
「ピッピキャー!」
ガーレッドの声援もしっかりと受け止めて、僕たちは本部を出て真っ直ぐにカマドの北門を抜け、北の森へと侵入した。
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