北の森
ケルベロス事件の時にはあまりにも必死だったから覚えていないけど、森の中って意外と鬱蒼としているんだな。
気を抜くと真っ直ぐ進めているのか分からなくなりそうなんだけど、二人は迷うことなく進んでいく。何か特別な方法でもあるんだろうか。
「ねえ、何か目印にして進んでるの?」
「森の中ですか? 人それぞれですが、私の場合は遠見スキルを持っているので目印になる大きな木を見つけながらナイフで傷を付けて、さらに先で目印を見つけて、とその繰り返しですね」
「私の場合は精霊ちゃんに聞いてるわね。森の中には小さな精霊が多いから」
……うーん、僕には真似が出来ない。
あっ、でもスキルを習得出来れば可能なのか。でもどうやったら習得出来るんだろう。
「……いや、関係ないか」
「どうしたのですか?」
「いえ、僕がスキルを習得しても使い道ないなって」
「えー、ジンくんは冒険者しないの?」
「しませんよ。僕は鍛冶師ですから」
「……もったいなーい」
そんなことを言われても困る。そもそも今回の依頼もユウキが関わっていなかったら受けることはなかったんだし。
「というか、何でリューネさんまでついて来たんですか? 仕事はどうしたんですか?」
役所職員であるリューネさんが冒険者みたいな真似事出来るのだろうか? ……いやまあ、人のこと言えないけど。
「あら、心配してくれてるの? ジンくんやっさしー!」
「ふざけないでください!」
「あはは、感謝してるのは本当よ。だけど大丈夫、これでも魔法は超一流なんだから」
「その言い訳ってノーアさんと変わりませんよ」
「あら、そうかしら?」
クスクスと笑いながらも僕とホームズさんについて来ているので本当に大丈夫なんだろう。
これも精霊魔法みたいだけど、何とも不思議な魔法である。
「精霊魔法って万能なんですね」
「そうでもないわよ。借りれる力も限られているし、主に守る力に限られるから」
「守る力、ですか?」
「そうそう。まあ簡単に言えば相手に害がある力は借りられないって感じかしら」
後方支援型ってことですね。
このパーティで言うと、ホームズさんが前衛、リューネさんが後衛だから、僕は遊撃になるだろう。
でもほとんどの魔獣はホームズさんが蹴散らしてくれるから問題なし。撃ち漏らしがあれば魔法で仕留めようと思っているんだけどそんなこともないんだよね。
今も会話をしながら遠見スキルで魔獣を見つければ無属性魔法で一気に加速、一振りで魔獣を仕留めると共に火属性魔法で一瞬にして灰にするとすぐに戻って来てくれる。
その繰り返しが森に入ってから何度も繰り返されていた。
「疲れませんか?」
「鈍った体にはこれくらいがちょうどいいんです」
とのことで、ホームズさんに全てを任せている。
リューネさんなんかは「楽が出来るわね!」と喜んでいるが、そもそも攻撃的な魔法は使えないんじゃないんだろうか。
「精霊魔法で攻撃は出来ませんよね?」
「あぁ、それはあくまで精霊魔法ではよ。普通の魔法ならそれくらい出来るわよ」
「……なるほど」
さすがは万能人間三号である。
でも、全部ホームズさんに丸投げするつもりだったしこれはこれで問題ないだろう。
僕も実際に指示されたとして、その通りに行動できる自信はないしね。
しかし結構進んで来たけれどちょっとした疑問がある。
「ところで、迷わず進んでますけどどこに向かって進んでいるんですか?」
そう、ホームズさんもリューネさんも僕を先導しながら迷わずに森の中を進んでいる。まるでユウキの居場所が分かっているかのようだ。
「実は、既に居場所は掴んでいます」
「えっ、そうなんですか?」
なんと、やっぱり分かっていたみたいだ。
でもいつの間に分かったのだろう。遠見スキルってそんなに万能なのか? 万能人間四号の誕生か?
「種明かしをすると、見つけたのは私ではありません。リューネさんです」
「へっ? リューネさん?」
「その通りよ。森の中にいる精霊に呼び掛けてユウキくんを見つけてもらったの」
「精霊魔法って便利ですねー」
「でも、自然豊かな場所にいる精霊も、都市や人が多い場所にはあまりいないからね。適材適所ってやつかしら」
攻撃魔法が使えない点も含めて、完璧な魔法やスキルってのはないんだね。
でも、これでリューネさんがついてきた理由が分かったよ。確かに回復魔法が取り柄のノーアさんでは足手まといだったかもしれない。森の中を闇雲に探すだけでは体力も持たなかっただろうし。
僕だって知らない森の中をあちこち連れ回されたら疲れちゃうもん。
「あっ、それじゃあユウキは無事なんですね」
「大丈夫みたいだよ。ただ、一緒にいる冒険者の方が危ないみたいね」
「えっ! もしかして怪我をしてるとか?」
「違うわ。怪我はしてないみたいだけど、精神的に疲れちゃってるみたい。一人にすると危険だと判断したユウキくんもその場から全く動けなくなってるみたいだね」
ここは異常事態が発生している北の森である。
魔獣も普段より多いだろうし、普段見かけない魔獣も発生しているかもしれない。
そんな中で孤立してしまえば精神がやられてしまうのも致し方ないのかもしれない。
「とにかく、今は二人のところに急ぐことが先決ですね」
「りょーかいよ!」
「はい!」
ホームズさんの言葉を受けて、僕たちはスピードを上げて迷うことなく走り出した。
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