発見と困惑

 北の森に入ってから二時間くらいだろうか。突然ホームズさんが立ち止まった。

 首を左右に振りながら、何かを探しているように見える。

 ユウキも僕を探しに来た時に首を振りながら探したって言ってたから、それと同じことをしているんだろう。と言うことは、この近くにいる可能性が高い。


「…………いました」

「おぉっ!」

「ですが、近くに魔獣もいますね。……まずはユウキたちと合流しましょう。一緒にいる冒険者にはその方が良さそうです」


 つまり、精神的にかなり追い詰められていると言うことか。助けが来たと分かればそれなりに落ち着いてくれるだろう。

 音を立てないように、それでも無属性魔法を使って出来る限り急いで進むと、数分後には僕の視界にもユウキを捉えることが出来た。

 ユウキもこちらを見ていたので、遠見スキルで確認していたみたいだ。


「師匠、ジン! それと……」

「あー、自己紹介は後にしよっか」

「その通りです。ユウキ、大丈夫ですか?」

「はい、僕は大丈夫です。ですが、彼女がとても疲弊しています」


 ……彼女? なんと、一緒にいた冒険者って女の子だったんだ。


「大丈夫ですか? 助けに来ましたよ」


 ホームズさんがなるべく優しい声音で話し掛ける。

 少女は顔を上げるも、その表情は恐怖に染まっている。ホームズさんを見るが、周囲に視線を彷徨わせてから一言。


「……これだけ?」

「はい。私たちが先行して貴方たちを助けに来ました」

「…………ダメ、これだけじゃ殺される、あいつには勝てない」

「あいつ?」


 要領を得ない言葉にユウキを見るが、ユウキも首を左右に振る。


「僕が声を掛けても怯えるだけで何も答えてくれません。彼女、名前をフローラ・エルネストさんと言うんですが、フローラさんは何かを見たようなんです」

「何か、ですか。……リューネさん」

「はいよ、精霊ちゃんに聞いてみるね」

「それと、結界魔法で守護してもらうことも出来ますか? 私は周辺の魔獣を片付けておきたいと思います」

「任せて、それくらい出来るわよ」

「コープスさんは魔獣が近づいて来た時にだけ魔法をお願いします」

「はーい」


 そう言うと、鞄からいくつかのポーションを置いてホームズさんは森の中に消えていった。

 見た目には怪我らしい怪我もないみたいで安心したけど、フローラさんはいったい何を見たのだろうか。

 これほどに怯えるような魔獣を目にしたのだろうか?

 そんなことを考えていると、僕たちを覆う形でドーム型の光の粒子が現れた。


「おぉ、これが結界魔法ですか?」

「ふふん、凄いでしょ。精霊ちゃんからはもう少しで答えを貰えそうだから、もうちょい待っててね。そうそう、私の名前はリューネ・ハンクライネよ。君はユウキくんだよね、よろしく」

「よ、よろしくお願い、します」


 ユウキは突然現れた結界魔法に驚いている。

 確かに突然だったから僕も驚いたけど、ホームズさんが口にしていたしそこまで驚くことなのかな?


「ユウキ、驚き過ぎじゃない?」

「……いや、結界魔法自体も凄いけど、それを何の淀みもなく発動したんだよ? 普通は驚くよ」

「そうなんだ、へぇー」

「ジンくん、感動薄いわねー。まあ私は別にいいんだけどね。あっ、ちょっと待ってねー」


 どうやら精霊からの答えが出たらしい。

 リューネさんは笑顔で訳の分からない言葉を話している。精霊の言葉なのかと思いながら待っていると、徐々に顔色が青くなり、表情も強張っていく。

 時折「嘘、マジ?」とか聞こえてくるのは僕の気のせいだろうか。

 隣に座るユウキも緊張を隠しきれていない。


「……魔法を強化するわ。全員、この場から動かないでね」


 先程までの軽い調子とは異なり、真顔で呟くと結界魔法の光が強くなる。


「ホームズくんはまだ戻らないの?」

「リューネさん、ホームズさんはさっき出ていったばかりですよ」

「……そ、そうね」


 リューネさんがこれ程警戒する相手がこの森の中にいる。精霊がそう答えたのならば確実だろう。

 でも、もしホームズさんがその相手と遭遇したなら、その方が不味いのではないか?


「リューネさん、僕が師匠を探しに行きましょうか?」

「……ダメよ、単独行動は禁止。それにユウキくんは彼女についてあげて」

「僕もダメかな?」

「ジンくんはもっとダメ。森の中での動き方を学んでいないでしょ?」


 ホームズさんが戻るまで、僕たちはこの場で待っていることしかできない。何事もなければいいんだけど。

 わずか数分が数十分、数時間に感じられる。

 まだかまだかと待っていると、ユウキが声を上げた。


「あっ! 師匠が戻ってきます!」


 遠見スキルを持つユウキがいち早くホームズさんを見つけてくれた。

 何事もなくてよかった――そう思った直後だった。


 ――カッ!


 僕たちを中心にして円柱状の光の壁が突如現れた。

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